"決戦は火曜日!"『スーパー・チューズデー』


 またもライアン・ゴズリング主演作。


 民主党代表を決めるオハイオ州での予備選、通称「スーパー・チューズデー」が近づいていた。左派候補のモリス知事の若き広報官マイヤーズは、モリスや上司の信頼を受け切れ者ぶりを発揮していた。だが、対立候補の広報官に会い引き抜きを持ちかけられ、断ったものの窮地に立たされる。さらに、インターンとの情事にも落とし穴が……。


 若き選挙屋である主人公なのだが、今のライアン・ゴズリングは年齢的なこともあって、ちょっと脇の甘いキャラが似合うんだよね。理想に燃えながらずるいことも使いこなし始めるお年頃。しかしその若さゆえにミスを犯し限界を突きつけられる。その後で非情さを身につけるのも定番。今年観た『幸せの行方』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120207/1328607353)も『ドライヴ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120404/1333450802)もキャラクターこそ全く違うのだが、このストーリーラインを外さない。
 ストーリー上の見所は当然、彼のキャラクターがいかにして挫折し、変化を遂げるか、というところ。選挙戦という複雑な状況が絡む中、彼の理想はどのようにして打ち砕かれるのか?
 しかしここで選挙戦のテクニカルさにスポットが当たるかと思ったのだが、主人公の理想を打ち砕くのが「民主党の理想主義的な左派候補」の「下半身問題」って、いくらなんでもそりゃあ図式的過ぎ、陳腐過ぎないかね? ここのゴズリングの演技はちょうどこのキャラクターの「学生孕ませるなんて許せねえ!」という気持ちと「大スキャンダルだよ! 選挙に負けちゃう!」という気持ち、モラルと職業病の狭間で揺れ動いてる感じがあってよいのだが。
 さらにそれを知ったきっかけが、当の学生インターンと関係を持ったからなのだが、その学生、ジョージ・クルーニーに孕まされて堕胎か否かの瀬戸際にいたはずなのに、ゴズリングを口説いて楽しくセックスしとるのだよね。で、偶然、妊娠したことを彼に知られたら突然泣き出して……。なんだこりゃ? 脚本を撮影中に書き直したようなちぐはぐさなんだが、最初から目的を持ってゴズリングに近づいたか、あるいは言葉は悪いがメンヘラ気味のところをゴズリングの方がハマってしまった、という展開にでもしとけば良かったんじゃないか。
 秘密を知ったきっかけがいい加減で、知った内容も陳腐ときたら、これは乗れたもんじゃないねえ。


 映画に出てくる選挙戦の仕組みも、これアメリカでちょっと突っ込んだニュース番組観てたらわかるような話ばっかりじゃないの? 逆にこういうゆる〜い、雑〜なことにアメリカ、引いては世界の政治は動かされてるんですよ〜、というある意味リアルな嫌さを描いてるのかなあ。
 実は結構人情家であったシーモア・ホフマンに、職業病に振り切れたような非情なるゴズリングが取って変わる展開も、途中がご都合主義な上に、やることと言えばハッタリだけなので「妥協を排したリアルの極致」にまったく見えない。


 政治や経済のむつかしいところに踏み込むか、と思いつつも微妙に外した『消されたヘッドライン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20090421/1240327531)にも似た手触り。役者はみんな良かったんだけど、もうちょい志の高いものが観たかったところ。

幸せの行方... [DVD]

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