"銃弾の音は凄いが馬耳東風(字余り)"『戦火の馬』
スピルバーグ監督作!
第一次世界大戦前夜、酔っぱらって農耕馬の代わりに小作人に買い取られたサラブレッドの子馬は、そこの息子アルバートによってジョーイと名付けられる。アルバートに畑を耕す事を仕込まれたジョーイは、土地を奪われる危機を迎えていた小作人を救う。だが、迫る戦火の中、軍に売り飛ばされることに……。
とにかく毎度のことながら絵がすごい。オープニングの子馬ちゃんが戯れるシーンの躍動感は度肝を抜かれるし、畑を耕すシーンの臨場感も素晴らしい。戦闘シーンの音響の迫力を堪能し、馬二頭が寝室に隠れているシーンのシュールさに微笑、戦車飛び越えのダイナミズムに驚嘆し、ラストの夕焼けにため息をついた。
ほんとに馬ってかっこいいよな〜。あの折れそうな脚で走る姿の危うさと紙一重の美しさ。肌の艶から筋肉の盛り上がり、鬣の雄々しさ……。撮影の素晴らしさを存分に楽しんだよ。
動物映画観ながらよく思うのが、「あ〜、ここって人間は感動してボロ泣きしてるけど、動物は別に何も考えてねえんだろうなあ」ということだったりする。が、だからこそ動物の映画は面白いのだ! 人間の言う事なんざあ動物は聞きやしねえし、せいぜい「腹減ったな〜」ぐらいのことしか考えていないに決まっている。今作は馬が主役ということで、色んな乗り手の元を馬が渡り歩くのだが、「ジョーイ〜!」と主人が嘆きまくっていても、馬はどこ吹く風。いや、馬耳東風とはよく言ったもので、続く乗り手たちが戦争映画らしくバッタバッタと非業の死を遂げていっても、相変わらずジョーイどんは戦場を駆け抜けるのである。もちろん、一歩間違えば馬も撃たれたり転んだりで死んでしまうわけで、罪もない動物がそんな目にあってしまうなんて哀しい! 何とか元の飼い主の元へ戻れますように!と思いながら観るのは、まったく正しい感情移入の仕方と言うしかないのだが、登場人物が感動に浸ってるシーンでもやっぱり馬は何にも考えてないと思いつつ観れば、より面白いのである。
正直、スピルバーグの撮る感動とは相性が悪く、ホーホー吹く声が聞こえて来るとことか、ああ来るな来るな来た〜やっぱり〜、とあまりのベタさに醒め切っているのだが、そこに条件反射してるだけの馬の無感動ぶりが合わさることで、作り手の思惑とは外れたところの面白感覚が加わり、結果として結構楽しく観られたのであった。
戦車がゴゴゴゴゴ! うわっ、ビックリ! みたいな、子供かよ!とでも言われそうなナレーションを心の中で入れつつみていたのだが、原作とて児童文学なのだよね。それでもちょいちょいと第一次大戦の背景を考えさせるシーンなどもあり、画面の奥では人間が爆発で高々と吹っ飛ばされたりするものだから、気が抜けない。
しかし一番面白かったのは、ロキの野郎(『マイティ・ソー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110711/1310294131))が出て来たところで、「馬は私が責任もって預かる。男と男の約束だ」と決めるシーンは、『ソー』において「王には私がなるよ」と実直そうなふりして兄ちゃんを騙してしまうところとかぶったね。当然、エンドロール後には「あの馬は私のものだ〜」とデヴィッド・シューリスが呟く背後に死んだはずの奴の姿が!
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