"すごい大型犬だな、おい!"『きみはペット』


 韓国による、日本の人気漫画の映画化。


 エリート街道を歩んできたはずが、失恋と左遷の二重苦に陥った女性編集者のチ・ウニ。部屋の掃除をさせていた弟が、友人でバレエダンサーのカン・イノを連れ込んだことをきっかけに、彼に「モモ」という昔飼っていた犬の名をつけ、ペットとして飼うことに……。突然変わった生活の中、先輩との恋やうまくいかない仕事に悩むウニ。次第に「モモ」が安らぐ存在になっていき……。



 かつて『カンナさん大成功です!』がかなり面白かったこともあり、韓国映画による日本の少女漫画の映画化にはちょっといい印象を持っていた。ただ今作に関しては原作を通読してイメージが固まっていることもあり、果たしてどういう感想を持つのか、自分でも気になるところであった。


 主演のチャン・グンソクは本国よりもこちらで人気ということで、今回の主役に起用……でけえええええええ! 「モモ」はヒロインより背が小さい、というのはキャスティングにおける至上命題ではなかったのか! 183センチだと!? 明らかにでかすぎる……。


 このグンソクという人、この映画の話を聞くまでは全然知らなかったのだが、先日、行きつけの整骨院にて、還暦越えのおばあちゃんが熱心に週刊誌を読んでいた。何を読んでるのだろう、と思ったら、整骨院の先生が、


「お、◯◯さん、またグンちゃん特集読んでるん? 好きやねえ〜」


 うーむなるほど、こういう層に人気なのか……。


 ここまでが事前情報ということで、かなり不安が膨らんでいたんだが、意外と中盤までは好印象。出会いのシーンの改変こそちょっと気になったものの、思いのほか違和感がない。年下の男をペットとして飼っていることで起きる様々なトラブル、という大元のプロットは丁寧に抑えているし、それに加えて原作漫画固有の間のようなものを意識して作っている。ギャグが滑った後に冷めた空気感が漂うあの原作のバランス感覚、掛け合いのリズム感が再現され、それが原作にない会話のシーンでも踏襲されている。ここを作ってきたことには正直驚いた。
 象徴的なのが、グンソクによるモモのジト目の再現で、これでなんとか身長のことも8割ぐらいは帳消しにできそうなレベル。雰囲気出てます。後から出てくる蓮見くん(に当たるキャラ)とほぼ身長が同じだったりして、この対比がなければなあ。


 ただ原作『きみはペット』の魅力とは、その大元のプロットじゃなくて、作者の絶妙なバランス感覚によって生み出されたキャラクターと、その通り一遍なようでいて実はまったく違う深みと人物配置であり、豊富なガジェットと生活感であり、それが長期連載によって細部の描写が重ねられ熟成された結果、奇跡的な傑作になったわけである。
 故にこの映画版、大元の大事なところこそ外していないが、枝葉(実はその豊穣さの主体たる……)が刈り込まれ過ぎて魅力がなくなってしまった感じ。蓮見くんも普通の人になってるし、ユリちゃんも友達数人の一人になってて目立たんしな。
 いや、心配してたよりはずっと良かった。ちゃんと作ってある。地雷なんかじゃ決してない。だけど根幹だけできててもそれだけで魅力的な作品にはならないし、原作ファンでない知らない人から見てももう一押しに欠ける映画だったのではなかろうか。韓国映画らしいポテンシャルは感じたものの、後半から盛り上がりに欠け、大筋こそなぞっているもののそれだけ、に感じられてしまった。


 「映画化」としてはまあまあ好印象だった、という結論だが、しかしクライマックスでバレエじゃなくてミュージカルになってるのが衝撃だったなあ。散々、有名なバレエダンサーということで盛り上げといて、舞台に上がったらミュージカルかよ! これはグンソクに合わせた改変なんだろうなあ。

きみはペット(1) (KC KISS)

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