"それは世界を覆う狂気"『コンテイジョン』


 スティーブン・ソダーバーグ監督作! そう言えばあんまり観たことないんだよなあ。


 突如、発生した謎のウイルス。わずか数日の潜伏期間を経て、発病後数日で死に至る強烈な致死性を持っている。急激な世界各地での伝染に、事態を重くアメリカ疾病予防センター(CDC)と世界保険機構(WHO)が動き出すが、感染を阻止する糸口さえ見つからない。一方、ネット上で有効なワクチンが隠されているとのデマが流れ、各地で暴動が……。


 開始5分でみんな大好きグウィネス・パルトロウが○○いて○○! なんだこりゃあああ! その後のシーンもぎょっとしたぜ。
 事件の「2日目」から始まり、淡々とした映像ながら緩急をつけ、危機感をじわじわと煽る演出が巧み。家族が感染した当事者にとっては大事だが、周囲はまだのんきに構えているところから始まり、医療機関の慌てぶりから徐々に恐慌が伝播して行く状況まで。
 その中で英雄的行為をする者、私欲に走る者、様々。必死に感染を食い止めようとする者も家族や恋人にだけは重要情報を漏らしてしまい、それがスキャンダルに発展する。村の幼い子供たちがいずれ完成するかもしれないワクチンを手に入れられるよう、交換条件として要人の誘拐を計る者もいる。世界中で生存それ自体が危機にさらされる中、倫理が揺らいでいく。


 単純に「触れる」という行為だけで拡散して行くウィルスの存在が恐怖感充分で、どうやっても防ぎようがないことが語られる。ごくごく日常的に、あるいは愛の行為として、「触れる」ということは繰り返されていて、人はそれなしでは生きていきようがないというのに。その普遍的な恐怖。


 豪華キャストなんだが、誰もヒーロー・ヒロインはおらず、全員が欠点もある等身大の人物として設定されている。ジュード・ロウ演ずるキャラクターが一番ヤマっ気のある存在で、当初は正しい報道をしようとするフリー記者であるのに、いち早く事件の動画をネットに載せたことで注目され、その名声に溺れて行く。教祖的存在になった彼はやがてその名声を保つために嘘を吐散らすようになる。あまりそのネット上の動きは見せなかったが、これは彼自身の影響力だけが過大なのではない、という表現かな。
 ウイルスの拡散に世界中が踊らされ、このまま進めば訪れるであろう破滅を加速するかのようにパニックが巻き起こる。映像はどこまでも淡々としていて、煽るのは音楽くらいなんだが、やや唐突なカットの切り替えから不穏な状況が映し出される様にはギョッとさせられる。
 中盤以降、やっと事態は変わり始めるが今度はその好転のあまりの進まなさに不満も募る。マット・デイモンの娘役の子がなかなか良かった。助かるとなったら途端にわがままになる、ふて腐れっぷりも良い。
 キャストにそれぞれ担当が在り、ケイト・ウィンスレットが現場の医療従事者、マット・デイモンが妻を亡くした男、などなど、立場の違いによるウイルスとの接し方の変化もポイント。その中でもマリオン・コティヤール担当のパートの、感染源を探るサスペンスが面白いのだが、途中で終わってしまったのがちょっともったいなかったかな。ただ、これはカタルシスを生む要素を極力排する作劇で、ハリウッドエンターテインメントの文法を随所で外すテクニックが非常に面白かった。


 災害やパニック、命の危機、人類存亡の危機に対する接し方、人の在り方を、声を荒げずに問う良作。しかし『マネーボール』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111011/1318040695)もこんな感じの演出になってるはずだったのか?(笑)

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