"俺はおまえの、「そこ」以外を食いちぎるっ!"『アジョシ』


 ウォンビン主演、バイオレント・アクション!


 麻薬中毒になった母と二人で暮らす少女ソミ。隣で質屋をやっている「アジョシ」(おじさん)のところに遊びに行くのが唯一の楽しみ。ある日、勤めているクラブで麻薬を盗み出したソミの母は、それを売り飛ばそうとして危険な領域に足を踏み入れてしまう。母と共に中国マフィアのマンシク兄弟とその一味にさらわれてしまうソミ。だが、誰も助けてくれる人などいないはずだった少女を救うため、質屋のおじさん・テシクが単身動き出す……!


 『悪魔を見た』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110310/1299668050)の項でもちょっと書いたが、『オールド・ボーイ』とか『母なる証明』とか『ビー・デビル』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110420/1303225889)の時みたいに、見終わってから「復讐とは……」「正義とは……」「暴力とは……」と真面目に考え込んでしまうのが、近年に僕が観て来た韓国映画クオリティである。そして、観ながら重いなあイヤだなあと思いつつも、そうじゃないとちょっと物足りない気分も味わうようにもう調教されてしまっているのである。もっと痛いシーンが欲しいか? 重厚なテーマに押し潰されたいか? このいやしんぼさんめ!
 そんな中、当の『悪魔を見た』は「復讐の連鎖」を表現しようとしすぎて90度程急カーブを切って明後日の方向へ暴走した感があり、そこに激越なバイオレンス映像が加わって、結果的に異形の存在感を放つ作品になってるのだが、KCIAシリアルキラー、天使VS悪魔の激突には重いテーマとは食い合わせの悪いアイドル性とエンタメ性が頑として存在し、個人的にはすっきりしないものとなっていた。


 そこで、この『アジョシ』である。「バイオレント」なんだけどビョン様の「アイドル映画」であり「復讐」というテーマ性は暴走しちゃってるのが『悪魔を見た』だとすると、今作は清々しいぐらいにテーマとかなんとかすっ飛ばし、バイオレントとアイドル・アクションをきっちり融合させた作品になっていた。
 そうすると、日頃の韓国映画に期待するものとは当然「違う!」ということになるんだが、もう最初に出て来るシーンからウォンビンのイケメンぶりがほぼ「ファンタジー」の領域なので、そんなシリアスさを期待する向きはほぼどっかへすっ飛んで行ってしまうのだよね。


 ま〜とにかくビックリする程のイケメン。鬼太郎みたいな髪の伸び方もブサ男ならうざいけど、イケメンだと「ああ〜ん、お顔が見えないよお」となってしまうこの不条理。それ視界遮り過ぎだろ! もう立ち居振る舞いから存在そのものが全て不自然というか、質屋でチンピラがこの男と遭遇した時、ナイフをちらつかせていつも通り凄んでみせる……んだけど、ちょっと待て! このイケメンぶりに気づかないか!? メタ的に観たら「こ、こいつの容貌……もしかして主役か!?」と本能的に察知してしかるべきである。不条理なことを書いているが、それぐらいイケメンです。もう街を歩いてるシーンだけで、周囲は警戒を強めるべき。
 で、ただのイケメン=「優男」ではもちろんないわけだ。確かに強そうには見えないのだが、ウォンビンの演技力による影を背負いつつなおかつ剣呑なムード。危険だ! この男は危険ですよ!
 そういうただの質屋には不自然過ぎるぐらいイケメンなとこをのぞけば、意外に普通なお話。さらわれた少女を助けに行く、ということで全然奇を衒ったところがなく、ストレートに物語が展開して行く。


 それよりも注目すべきは細部で、アクションの見せ方も非常に手際がいい印象。零距離での格闘戦、ナイフ戦もコンパクトにまとまってて、直線的な動きとスピーディさを意識した作り。最短距離で相手を倒す、特殊部隊的な無駄のなさを的確に表現。これはかっこええわ。


 悪役三人の人物配置もうまく、大ボス、残虐行為担当、一騎打ち担当と役割を分担。それぞれとの絡みでストーリーが複合的に盛り上がって行く。他にもチンピラやちっさいキャラクター達もいちいち立っていて、それがことごとくウォンビンの格好良さを引き立ててしまうのである。


 相手役が本当に子供な少女というのもポイントだね〜。成人女性のファンも嫉妬を感じなくてすみ、ヒロインだけがやたらと嫌われるという事態が回避されている。ラストシーン、カメラの主観視点で締めるあたり、もう狙い過ぎである。ウォンビンが自分を抱こうとして迫ってくる映像! キャーッ!


 まあほんとに各要素の整理された手際の良い映画で、 ちょっとイヤミなぐらいの完成度。バイオレントアクションと、アイドル映画が普通に両立するあたりが韓国のエンターテインメント界の豊穣性で、それを軽々と高いレベルで実証した作品。観終わってからしばらく「アジョシ〜、アジョシ〜」とクネクネしながら呼びかけてしまったね。ほんとに面白い映画なんでおすすめですよ!

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