”ルールを守ってテニスをせんか〜!”『劇場版テニスの王子様 英国式庭球城決戦』


 前作から六年半ぶりの劇場公開。その間、連載は終わったものの『新』として再開、ミュージカルも相変わらず続いている。


 ジュニア選手権のためにイギリスへやってきた、青学、立海氷帝四天宝寺の面々。だが、各国代表が大会前の調整に励んでいた夜、何者かが練習場を襲撃し、何人もが倒されてしまう。コルクで作られたリアルテニスのボールを使う謎の敵のリーダー格に襲われた越前。だが、彼らと同じリングをした男に助けられ……。


 「試合中に恐竜が絶滅する」「水中から飛び上がって、大気圏を突破してラリー」「テニスフェスティバルの会場のドームはまるごと飛行機に乗っかっている」など、書いていても何が何だかわからない狂った要素満載の前作であったが、今作はそれとは趣きを異なるものとし、「格闘技」としてのテニスをより進化させ突き詰めたものとなっていた……って、やっぱり何だかわからないよ!


 深夜の襲撃、倒される仲間、謎の敵、友情と裏切り、敵の秘密のアジト、主人公の危機に駆けつける仲間たち、「ここはオレに任せて、おまえたちは先に行け!」。お約束を押さえた、フォーマット通りの内容である。ただし格闘漫画の……(笑)。松竹配給作品なのだが、テイストとしてはジャンプ漫画の映画化の本家である東映マンガ祭り的。
 原作漫画が「テニスの試合なのに、なぜかテレポートしたり爆発が起きたりオーラが発生したりしている」という内容なのに対し、やや角度を変え「倒すか倒されるかの格闘技アニメなのに、なぜかラケットでボールを打ち合っている」という構造に仕立てられている。オープニングの雨中の追跡シーンから、追われているものがなぜかボールをぶつけられ、ラケットで打ち返しているあたり、すでにカオス。


 今回はメインのストーリーはゲストの二人のお話なので、越前以下のレギュラーメンバー狂言回し的な役回りになっている。そんな中、活躍するメンバーの人選がなかなかに謎だ。なぜキテレツ……しかもおいしい……。メンバーを絞りながらも、人気キャラにはそれぞれ見せ場を用意し、サービスも忘れない。その分、噛ませに終わってしまったキャラは気の毒なのだが(特に海堂と桃城。それに引きかえ切原の活躍はいったい……)。
 大上段に構えた漫画版と違い、適当に気を抜いたところを作るアニメ版『テニスの王子様』らしい内容。バトルのルールの破裂ぶりもまったくテニスのルールから外れていて、これは原作ではさすがに踏み込まないことに映画でチャレンジしてやろうという目論見が見える。


 しかしテーマ的には、闇テニスで相手を潰す「クラック」たちに対して、暴力を使わず正々堂々と普通のテニスで勝負する、という流れになるべきだと思うのだが、そこを通してしまうと色々と矛盾してしまうので、今作ではノックアウトテニスを否定も肯定もしない微妙にぼかした内容に。真田副部長も「ルールを守ってテニスをせんか〜!」と発言しているのだが、最終的には「ルールさえ守れば、テニスで相手をKOしてもいい」「世界中、そのテニスが常識」というところに強引に落ちつかせる。本人たちさえその気なら、暴力的でもいいんだ!というのは、まさに格闘技が世間に対して主張する論理でもある。


 前作ほどのインパクトはやはりなかったが、充分に狂った内容で堪能した。ただ、これぐらいの安心のクオリティならば、毎年作っていただきたいような気がするなあ。ある意味プログラムピクチャー的な作品だった。

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