"風に吹かれてどこへ行く"『ハンナ』


 シアーシャ・ローナン主演のヒット・ガール映画!


 フィンランド雪深い森の奥、元諜報部員のエリックに育てられた少女ハンナ。格闘技と暗殺術を身につけた彼女に、エリックはある日、一つの任務を授ける。それはこれから彼ら親子を捕まえに来る「魔女」を殺し、ドイツのグリムの家で再び落ち合う事……。先に森を離れるエリック。直後、CIAの部隊がハンナの残る小屋に迫る……。


 途中のトラックの窓辺で、シアーシャが風に吹かれて遠くを見てる横顔がすごく良かったんですよね。自分が車の免許持ってなくて何が残念って、横に乗ってる女性がこういう遠い目をしてるとこを見られないということ(チラチラ見てんじゃねえ! 事故るぞ!)。雪に閉ざされた森しか知らない少女の、世界との触れ合い……なんだが、このあたりは台詞を排したスタイリッシュ映像がはまってて、生まれて初めて音楽に触れたことによる心のさざなみや、育った地とまるで違う空気感、父以外の人間との触れ合いの不思議さを、うまく表現しているように思う。
 が、原始人なのか文明人なのか中途半端だったり、朴念仁なのかキスに興味ぐらいはあるのかも不明瞭だったりと、もう一つ乗り切れない感もあり。ここらへんは心理の描き込みをわざと曖昧にして、非情の殺し屋のパーソナリティも同時に表現し続けようということなんでしょうか。しかし特に自我や人間性の目覚めとなるようなブレイクスルーもないまま、突然自分の正体に涙してしまう、というのは何なんだろう。「え? 違うの? フーン」という風に流すキャラかと思ったんだが違ったのね。なんでそんな血縁にだけこだわるの? ここは少女自身はその意味さえもわからず、観客だけがその不遇に涙すればいいとこと思うが……。


 たぶん、作り手には固まったイメージがあると思うのだが、こちらには何かを投影するほどの思い入れもなかったため(あるいはお人形さんに自分の欲望を投影できないため)、設定の薄さやストーリーの新味のなさも手伝って盛り上がれなかった。映像もカットがすっ飛んで人間が瞬間移動したり、唐突に長回しやってみたりと、ミュージッククリップみたいなカッコブーっぷり。いや〜フェティッシュだな〜。ここに乗っかれるかどうかが分かれ目か。そうやって描かれるアクションシーンも暗殺テクニックの面白さがあるわけじゃなし、ああいう女の子がなにゆえに大の男を薙ぎ倒せるのかということには、DNAがどうこうとかいうスカスカなSF設定に逃げるのではなくもう少し説得力がほしかった。エリック・バナも結局何をしたかったのか不明だし、ケイト・ブランシェットのキャラクターも「母と娘」への憎悪をあれで描いたつもりなら浅過ぎるだろ。内面はいくらでも想像することはできるけど、ほんとは適当なのかもしれない。


 やりたいことはなんとなくわかるような気がするんだけど、思い入れたっぷりの演出に中身が追いついてない印象。世界中あっちゃこっちゃ行って景色撮りながら、やってることは犬も食わんような夫婦喧嘩やら親子喧嘩だった『バベル』をちょっと思い出した。ああ、あれにもケイト・ブランシェット出てたっけ……。
 なんか最後も全然決まってないと思うんだが……今度はきっちり仕留めた、じゃないとダメなんじゃね? 映像やその場の演出のカッコばかり追求して積み重ねがない、個人的にはパスな映画。意外にも観てる間は気持ちよかったりするんだが、そこがまたね……。

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