"さあ、つながって観に行こう!"『ムカデ人間』


 当初、日曜の夜にでも一人でブラブラ行くかと思っていたのだが、おなじみ関西映画クラスタid:yosinoteさんとりょんりょんさん(http://ameblo.jp/kusakaixa/entry-10948856741.html)とツイッターにて協議の末、初日土曜に三人でいくことに。なにせ三人集まれば、この割引が使えるのだ!
http://mukade-ningen.blogspot.com/2011/06/blog-post_30.html


 7時半待ち合わせの予定だったのだが、6時45分ぐらいについてしまい、一応残席を確認しとこうと聞いてみたら……


「あと30席ぐらいですね」


 げっ、マジで!? ツイッター見たらまだ家にいたりょんりょんさんをあせって呼び出し、上のガーデンシネマで三島由紀夫を観ていたヨシノさんとも合流。買った時点で、95席の劇場の整理券番号は「85〜87」であった。あぶね〜! 正直舐めていた……。昼間にマツキヨで155円の包帯を購入していたので、それでもってつながって、無事に一人1000円でチケットをゲット。窓口のチェックが厳しかったのでヒヤヒヤしたものである。それが7時25分頃。上映は9時10分だぞ、おい……!
 東京もいっぱいだったらしいが、こちらも見事に満席、立ち見。いやはや、予想外だったな。日曜に一人で来てたら、確実に立ち見か、隣でセガールでも観るか、ということになってたと思われる。しかし、そんなにもいっぱいだったのにも関わらず、その日につながってチケットを取りに来たのは我々だけであったらしい……関西映画クラスタの面目躍如であるな。しかし、もったいない! みんなもっとつながろうよ! まあ確かに二人連れはそこそこいたが、三人以上はなかなか……。


 地下のお好み焼き屋で夕食を取った後、劇場前へ。こんな混んでるリーブルはいつ以来? いや、もちろんエヴァとかマクロスとか来たらぶっちぎりで混んでたんだろうけど、最近ここで観た映画の中じゃダントツだな。


 ドイツの郊外……アメリカ人の旅行者、リンジーとジェニーは車のパンクで立ち往生、雨の中、一軒家に助けを求める。住んでいたのは学者らしい男が一人。男の挙動に不審なものを覚えた二人は、家から逃れようとするのだが、薬を盛られて眠らされる。男の名はヨーゼフ・ハイター博士……かつて医学会で異端と呼ばれ、今や禁断の手術「ムカデ人間」に執着するマッド・サイエンティストであった。


 オープニングから質感のないビデオ撮りの映像に、こりゃどうなんだ?と思ったのだが、急激に画面に緊密さが増して来て、すぐに気にならなくなる。
 役者もみんなあんまり上手くない……。だが主人公のヨーゼフ・ハイター博士、オーバーアクトかと思いきや、そのキャラクターが画面上の情報からどんどん押し出されてきて、そんな違和感はあっという間に消し飛ぶ。演技プランがきちんとしているのであろう。狂人としての求道者という設定が、脚本レベルでも演技レベルでも事細かに印象づけられる。異様に綺麗に整頓された家や、うわずった口調、興奮した時の覚束なさ……。
 冒頭で登場する地元のおっさん(『ブラックスワン』に続いて、出たよレロレロ!)を、よくある普通の変態とすると、女二人ひっとらえても性欲なんて頭から存在しないかの様に振る舞うハイター博士には、ストイックな魅力?が溢れている。そう考えると自宅のプールで全裸で泳ぐシーンも、解放感ゆえの行動ではなく、修行者が滝で身も心も荒い清めるような清冽なものに見えて来るから不思議だ(いや、そんなつもりで撮ったシーンかは知らないけど)。
 ほぼ家の中で物語が進行するが、数部屋を使い分け、各部屋ごとにギミックと見せ場を割り振って飽きさせない。序盤の女二人が訪問するシーンと、後半の刑事二人が訪れるシーンは対になっていて、そちらは繰り返しのギャグで魅せる。


 割合、早々とムカデ人間は完成するのだが、その瞬間の博士の歓喜の表情は、邪悪なクライマックスとでもいうべきカタルシスに満ちている。そしてもちろん、「それ作って、完成して、それからどうすんの?」という問いに対しては、一切答えはない!
 後ろにつながれた女性二人は、台詞もなくなってしまうのだが、演技が大してできないのは明白なので、それで充分。唯一しゃべれる先頭の日本人の独壇場となるが、海外の観客から観ればよくわからない言語でしゃべるから下手さが目立たないし、理解可能な日本人からしてみればアドリブも交えたらしい暴走演技が楽しめるという二重構造。
 膝靭帯の切除などで、動作の制約も加えられた中で、三者の身体性もまた限界まで強調される。単に歩く、階段を登るだけに、これほどの労力、これほどの忍耐力を要するのか……その過酷さ、生きづらさが描かれる。
 博士の目指す境地は不明だが、そんな三者の肉体的、精神的なつながりを思うと、それでも生き続けよう、助かろうとする執念に、生命の尊厳を感じずにはいられない。終盤の展開には少々疑問も残るが、続編があるのならばそこで『ムカデ人間』の完成形は生まれるのだろうか?


 ワンアイディア、ワンシチュエーションに対して真摯に向き合い、持てる予算、時間、労力の全てを注ぎ込んで作られたジャンル映画の秀作。満席で、会場もウケてたし、イベント的な感覚で観られたのも良かった。そんなに直接的な描写、映像はなくてグロくはないので、食後に行っても大丈夫です!

ムカデ人間 - 映画ポスター - 11 x 17

ムカデ人間 - 映画ポスター - 11 x 17

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