"木曜日のジェーン"『マイティ・ソー』


 ナタリー・ポートマンイヤー、四本目!


 天文物理学者のジェーンは、砂漠で起きる異様なオーロラに着目し、助手と恩師と共にその観測を行っていた。まさにその夜、天から光の柱が下る。落下点にいた筋骨逞しい男をはねてしまったジェーン。自らを「ソー」と名乗る男は病院に運ばれてもそこで大暴れ。関わり合いにならない方がいいかと思い出したジェーンたちだが、「シールド」と名乗る組織に研究資料を押収されたことで、「ソー」の存在に隠された秘密に思い当たる……。ここではない、もう一つの世界がある……?


 北欧神話が題材のアメコミが原作。ソーは「トール」という表現の方がなんとなく馴染み深い。ちなみに会社では「ソーやのにノコギリじゃなくてカナヅチなん?」というスペル全く無視の素晴らしく意識の高いコメントが飛び交っていて、もう訂正する気も起きませんでした……。
 ThursdayはこのTHORから来ているということが台詞でも語られていたので、「ほほう」と思った次第。やっぱり『エミリア』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110708/1310031953)は先に見といて良かったね。今年大車輪のナタポーさん、さすがに今作はギャラのために気軽に出たのか、というぐらい、特に何がどうということもない役柄であった。とは言え、真面目で学究心が強くちょっぴり神経質なキャラクターはおなじみだ。『抱きたいカンケイ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110428/1303909730)のアシュトン・カッチャーもそうだったのだが、ガタイに差がありすぎだろ〜、というカップリングが多いのも面白い(考えて見れば『レオン』もそうか……)。


 「こちら」の世界で奇想天外な出来事が起き、「あちら」でその理由が明かされ、また「こちら」に戻って来る、その切り返しのテンポが素晴らしい。あっちで神様だった人はこっちに凡人になって飛ばされて来て、力もなければ知恵もない、大変もどかしい状況に。良くあるカルチャー・ギャップものなんだが、名前などの権威がまるで通用しない世界にやってきて、初めて人間性がさらけ出されるということでもある。
 ここで描写に失敗すると、なんでこの仲間の人たちは彼にこだわるの? お父さんは彼の何を買ってるの?ということになる。が、ソーさんの憎めないキャラクターが光る。豪放で蛮勇、でも味方に対しては儀礼を重んじ上品なところもある。何回も失神してるのに全然懲りないのは、バカっちゃあバカだが自信と行動力、前向きな性格の裏返しでもある。偉ぶった奴かと思ったら、妙にニコニコしてるとこが可愛くて危険! 好き勝手ばっかりしてる野郎のくせに、何か放っておけない感じがあって、ずるい。ジェーンやシフはそういうところが気になるし、男共にとってはノリのいい、一緒にいたら引っ張っていってくれる楽しい男なのだ。カメオなホークアイも、たぶんそういうところに敏感に気づいている。
 ちょっと話はずれるが、もうおなじみになってきた「シールド」のコールソンさんという人は何でも理詰めで考える人で、「調べられないことはない」などと言うが、スペックにしか気が回らない人なんだよね。強大な権限があり、世界から特殊部隊と装備を集めてるすごい組織なのだが、いくら力があっても彼らでは世界は守れない。それだけでは「ヒーロー」には程遠い。人の世を守るには、ハルクの葛藤や、アイアンマンの破天荒さが必要なのだ。
 閑話休題。そんなソーさんの弟であるロキなんだが、彼も別にソーが嫌いなわけじゃないんだよね。最初は追放だけで済ませようとしているし……。優れた嘘つきというのは、人の気持ちや考えていることがわかるから嘘でだますことができるし、そんなことを繰り返しているうちに、自分の本当の気持ちを表現できなくなり、ある意味自分さえも騙してしまう。そんな自分が父親に騙されていたことを知って、彼はますます本当の自分が何か、どうしたいのかさえわからなくなってしまったのではないかな。単純に父を慕ったり喧嘩吹っかけたりできるソーがちょっとうらやましかっただろうし、自分も父親に愛されたかった。豪快なソーがいたからこそ、ああいうちょっと影に立つようなポジションが板についてしまったとも言えるだろうし、もう少し父親が彼を立てていれば、今作のような展開にはならなかったかもしれない。


 そこらへんのまるでシェイクスピア劇のような(ろくに見てませんが、適当に書いてます)父子関係を、ケネス・ブラナーが好演出。CGはそれほどクオリティ高いとも精度が高いとも思わなかったが、スケール感の見せ方は巧みで、ロングのショットの使い方が上手い。最後のハンマーが飛んで来るところはぶっ飛んだ! そのシーンであっちの世界の人は「信じてたぜ! すげえ!」と超笑顔なのに対し、こっちの世界の人たちは嬉しさよりも「え……? なにこの不条理……」「あの……わたしのさっきまでの涙はいったい……」と若干引き気味なところも最高!
 登場人物の心情で同じ人間であるということを強調し、科学と魔法というキーワードで空間的な距離を縮め、さらにヒーローが希求される現状でもって特別な時である「今」を演出する。……異世界と現実世界を関連づける手法も巧みだ。


 演出も映像も含めて、『グリーン・ランタン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110710/1310224080)とは映画としての強度がまるで違う。どうしてこんなに違いが出てしまうのだろうなあ。作ってる人間の違い、と言うと身もふたもないが、「アメコミ映画の主役! やったぜ、大ヒットだ! スターだ!」と撮影中はわくわくしてても、出来上がったら残念でした、となってしまうのは少々気の毒だね。


 今回は先の「シールド」がかなり前面に出ていて、『インクレディブル・ハルク』や『アイアンマン』とのつながりも盛んに強調される。デストロイヤーの飛来直後も、「またスターク?」なんて言われてて面白い。しかしおかげで、やっと『アベンジャーズ』もほんとに作られるんだなあ、という実感が湧いて来た。役者が揃って来たぜ!
 主役以外のキャラクターがどれだけ『アベンジャーズ』に出られるか、とかも興味深い。みんな、ちょっとでもいいから出たいよね! 今回、そこそこ重要な役だったヘイムダルだが、彼の千里眼も「鷹の目」と称されるそうで、こりゃホークアイとの絡みが……とかちょっと妄想。ナタリーは? 浅野君は?とか考えてしまう。まあもう『ソー2』も作るの決まったらしいし、ここらへんはそっちかな。浅野忠信は、デストロイヤーと戦うところで、鈍器持ってるのにほぼ一人だけ何もしてなかったのがマイナスであった。


 あ〜、はやく続き観たいなあ。

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