”青空の下でアブダクション！”『スカイライン』

　延期になった『世界侵略』を尻目に、一足お先に公開！

　それは突然に始まった……。深夜、LAに降下する謎の青い光。見た人間はことごとく魅入られたように引き寄せられ、数秒後にはそこに吸い込まれる。翌朝、雲を切り裂き降下する、巨大な未確認飛行物体……。未曾有の侵略が開始され、LAの人々は次々に大小の宇宙船の中に吸い込まれて行く。友人テリーのパーティに招かれ、恋人のエレインと共にLAに来ていたジャロッドは、その信じられない光景を目撃しながらマンションからの脱出を図るのだが……。

　基本、低予算映画なんでマンションの一室からほとんど出ない。出ても屋上と駐車場だけ。冒頭から超豪華ペントハウスでのセレブ生活とパーティが出て来るから、なんとなく豪華な話かと錯覚するんだが、実はかなりしみったれた作り。同じセットを何回も往復するし……。
　代わりに予算は特撮に全部突っ込んで、かなりスケール感は出してる。冒頭、マンションに入ったところで「いい眺め！」という台詞があるが、そこから宇宙船が降下して来る様子が全部観えてしまう！　10m級の敵の意外に敏捷なところも良かったですね。ちょっとだが白兵戦もあるし、戦闘機のドッグファイトもあるし、それら全てをマンションの一室の住人の視点でまとめたところも、低予算らしい手法と言えばそれまでだが、わかりやすく整理された要因だろう。
　第一波攻撃に無人機の護衛をつけたステルス機を送り込んだあたり、戦闘シーンもなかなか良かったなあ。あのミサイルはほとんど核だと思うんだが、なんであのマンションは窓ガラスが一部割れただけなんだろう？　まあかつてはゼットンが一兆度の火の玉で科特隊本部の窓ガラスを割ったりしたこともありましたが（笑）。
　好きなのは、なぜかあまり夜は活動してなくて、真っ昼間にビュンビュン動いてるところ。闇夜に紛れてこそこそっと人間を誘拐して、あまつさえこっそり戻しといたりする、という『フォース・カインド』で描かれたようなチマチマした妄想に「ジャマくせえ！　撮影は昼！」と言い切るような爽やかさ、清々しさが、シネスコの大パノラマで展開される青空から感じられる。オレたちの作ったVFXを、おまえらにバッチリ見せてやるぜ！　カッコいいだろ！？　この何とも言えない頭の悪さが、力技で侵略して来る宇宙人とだぶる。

　さて、話題になってたラストですが……うーん、SFとしてはありえるオチじゃね？　『サイボーグ009』とか『火の鳥』にも要素だけならこういう話あったよねえ。インパクトとしても原作知らないで『宇宙戦争』観た級より下というところで、そんなにぶっ飛んだものでもないと思う。途中から丁寧に伏線張って、ここが肝ですよ、というのをちゃんと見せているし。
　ただまあ、あそこでぶった切ってエンドロールに突入するあっけなさが、衝撃度を二段式に加速させている。要はジャンプの十週打ち切りマンガのような唐突さ、「オレたちの戦いはこれからだ！」なわけで……。もう５分ぐらい、その後の戦いを付け加えたら、割合すっきりした映画になったように思う。

　単にえらい力技のアブダクション映画としてみれば、悪くはない。ビジュアルは面白いし、シチュエーション映画としてみてもスラッシャーものとして観ても、まあどっかで観たようなシーンも多いけど（「また流し台越しかよ」とか……）、それなりに楽しめる。
　……が、人を選ぶ作品でもある。これを面白がれるのはそれなりに寛容な人だけで、多くの人に「ついてこい！」と言うならば、もう少し登場人物に入り込めるようにするなど仕掛けが必要だったところだろう。ラストから逆算するならば、主人公の性格付けにももうちょっと特色が欲しかったし、彼女との関係も深く描いていれば、オチも単にネタどまりにならずにむしろ深いものになったはずだ。構造的に疑似ドキュメンタリー映画のように視点を固定し、カラーの薄い登場人物で臨場感を出そうとしていることが、むしろエモーショナルなラストへの推進力を生み出せていない。意図的になのか力量不足なのかは知らないが、劇映画として力不足だったのが残念なところで、キャラクターを記号としてではなくしっかり作り込んでいれば、意外さはそのままに、もっと盛り上がったり切なさを帯びたりしたのではないか。
　その現場の臨場感も空間的にはあるんだけど、ニュース映像が出なかったり家族と電話がつながらなかったり、もっと心理的に利用できる要素が色々とあったはずで、それらも全て主人公の動機付けにつなげられたはずなんだよね。世界にもう自分たちしかいない、優柔不断な僕だけど家族にはもう自分しかいない、そういったものを描けなかった時点で『第９地区』には遠く及ばない作品になってしまった。

　しかし、そんないちいち話題にするような作品じゃないね。オレはまあ好きな部類だが、「あ〜面白かった、さて次いこう」「しょーもな！　次だ！　次！」どっちにせよ、何かが残るような映画とは全く思えなかったが……。来週には全部忘れてそうだ。