"何もかも消えちまえ"『ナッシング』

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 ヴィンチェンゾ・ナタリ監督作。


 同居している幼なじみのデイブとアンドリュー。ある日、協調性のないデイブは詐欺師に引っ掛けられて会社の金の横領疑惑で首になり、引きこもりのアンドリューは家に訪れたガールスカウトの少女を邪険に扱ったことで幼女暴行の容疑をかけられる。おまけに、二人の住んでいる家は自治体から取り壊しを命ぜられる。人生絶体絶命となった二人は、家の外の全てに対し消えてしまえと願う。数秒後、外には果てしなく何もない真っ白な世界は広がっていた……。


 『カンパニーマン』から『スプライス』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110118/1295315427)の間に撮った低予算の作品。とにかく不評ばかり聞いていたが、まあ凡作か。


 序盤の状況の積み重ねの部分が、多分にテンポが良過ぎる……と言うより端折っている。だから面白くはないのだが、心理を印象づける上手さは感じた。ただまあ、結局のところ残るのは幼なじみ二人の関係しかないので、その後の広がりはないし、逆に状況が収束して行くカタルシスもない。


 本当にやりたかったのは真っ白けの世界に行ってからだったのだろうが、そちらが今ひとつ。
 物質主義の否定? 人は何もかもなくせば自由になる? 二人の周りからは「世間」が消えてしまうわけだが、今度はお互いという他者が残り、家の中でも所有権を巡った争いが起きる。そして、それらさえも消してしまうことができる。さらに、自分の記憶さえも消してしまえるし、それに伴う感情さえも消せる。できないのは取り戻すことだけだ。
 もういっそのこと、自分さえも消してしまえば楽になるんじゃないか? それでもお互いだけは必要であり、残ったものは守らなければならない。


「でも僕はもう一度会いたいと思った」


 しかし「喪失」があまりにお手軽過ぎると、残ることの重みもわからないのだよなあ。本当にギリギリのところまでなくしてやっと気づいた……という風に最後は解釈して良いのだろうが、むしろ「失って良かった」「今の状態こそが幸福」という風にさえ描いてしまっているのが、この作品の浅さであり弱さでなかろうか。
 ん〜、これがセカイ系という奴ですか(笑)。謹んでこの言葉を贈ります。


「気持ち悪い……」


 ただ、『キューブ』『カンパニーマン』にも同種の香りは感じられたし、『スプライス』が「他者のままならなさ」を描いて科学者の閉じたセカイに批判的なメッセージを突きつけたことも、今作の存在とは大いに関連していると思う。面白くはないがナタリ監督を語る上では、大きな意味を持つ作品ではないだろうか。

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