"切り札は酔拳!"『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地雷鳴』

 ドニー・イェン主演作!


 清朝末期、イギリスからのアヘンの密輸によって腐敗しつつあった中国。国を憂うラム将軍は、ウォン・フェイフォンと共にアヘンの撲滅に乗り出す。だが、巨額の利益を得ている王朝の親王は、フェイフォンとふとしたことで対立した若き武術家チャンを利用し、彼らを始末しようとする……。


 ワンチャイの名が冠されてるが、これはあくまで邦題。原題は『蘇乞兒』で、酔拳の使い手の話。ウォン・フェイフォンは出るけど、ジェット・リーじゃないよ!
 しかしながら、監督はユエン・ウーピンだし、清朝末期のアヘン問題などまじめなテーマも描いてるので、パチモンと言うわけでもない。権利的に言うとそういうことになるんだろうが、香港映画はこういう亜流作品にもオリジナルキャストがばんばん出てしまうからなあ。


 『天地大乱』の一年後に公開されてて、ドニーさんはこの頃の動きも当然キレキレ。得意の水平連続蹴りもたっぷり拝めるし、ウォン・フェイフォンが無影脚やらない中でそれらしき技も繰り出す。
 登場時に、すでに師にほとんどの技を教わっていると言う設定で最初から強いのだが、危機に瀕して唯一伝授されていなかった技「酔拳」を習得! それまでは下戸だから教わってなかったのだ。
 クライマックスは悪の親玉を演ずるジャン・シンシンと対決! 消耗した身体に重傷を負わされるが、そこでついに酔拳を発動させる。


 あくまで個人的な印象だけど、酔拳というのは酔うことで変則的かつ予測できない動きをすることがポイントだと思うので、言うなれば変化球なんだよね。正統派の技、直球が何らかの理由で通じない相手に対しトリッキーに翻弄するというスタイル。今回もその流れに則り、技が通じない中での最後の切り札として使われる。
 ジェット・リーの『ラスト・ヒーロー・イン・チャイナ』においても、棘つきの鎧(ずるい!)で無影脚を防がれたウォン・フェイフォンが温存していた奥の手として繰り出したもので、「ああ、伝説の武術家はこういう引き出しの広さもあるのか……」と感じ入った次第。
 そして今作ではドニー・イェン酔拳が見られる! 直線的なスピード感で見せることの多いドニーさんだが、このトリッキーなテクニックも、短い時間ながらきっちり見せてくれるぜ。


 ユエン・ウーピン監督作ということで、『酔拳 レジェンド・オブ・カンフー』の予習としても最適の一本である。一応、同じキャラクターが主人公……のはずなんだが、キャラクターの解釈とストーリーがまったく違うので、同じ酔拳を使う別人ぐらいの緩いつながりで見ればいいか。ン・マンタがドニーのお父さん役をやってたりして、後にチャウ・シンチーが同じ役やってる『キング・オブ・カンフー』でも父役をやることになる。


 ラストでちょっとデジャヴに襲われ、「ああ、酔拳自体はジャッキーとかでも見てるからなあ。同じ技や動きをしてるのか」と納得しかけたが、そう言えば昔、上司に借りたビデオCD日本語字幕なし)でチラチラ見たんだったっけ……。忘れてた……。

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