”オチがあったら数珠つなぎじゃない?”『富江アンリミテッド』
シリーズ第八作!
え〜と、実はこの『富江』シリーズ、原作は全部読んでますが、映画見るのは初めてです。伊藤潤二の作品は、Jホラーブームの際に他にも何作か映画化されているが、見たのは『死びとの恋わずらい』だけだ……。
写真が好きな高校生月子は、一年前に事故によって目の前で姉の富江を失う。悲嘆に暮れる両親と共に、姉の誕生日を迎えた日……富江は帰ってきた。生前と変わらない姿で……。それは本当に姉なのか? 帰ってきた富江は、挑発的な言動で家族を支配し、月子が内心に抱える恐怖や劣等感をも暴いていく……。
この原作『富江』という作品は、実に重層的に素材が詰まっている。
男を惑わす美しい女……それを切り刻まずにはいられない男の猟奇性……切り刻まれても甦る怪物性……死んだ人間が帰ってくるという恐怖……それも何人も何人も……さらにその女同士が互いを憎み男を操って殺しあう。
もういいかげんにしろよ! と言っても無限に増殖し続ける、それが『富江』なのだ。映画ももう八作目!? ジェイソンに追いついちまうぞ、いいかげんにしろ! と言ってもまだまだ作り続けられる、それが『富江』シリーズ。終わりのないのが終わり。『富江』の精神を体現するためには、いつまでも作り続けられなくてはならないのだ。
原作も、その増殖していく富江というキャラクターの性質を表現するために、各話ごとに設定が違うオムニバスになっており、主演女優やスタッフを入れ替えて何度も何度も映画化するのは、その設定を踏襲する意味でも理に適っているのである。
原作第一巻のエピソードをベースに、大幅に設定を変更して作られた今作、原作に「忠実」とは言い難いだろうが、シュールな笑いのエッセンスを再現することに関してはかなり成功しているように思う。富江というキャラクターの過剰さから生まれる不条理な空間、恐怖の中にある滑稽さ……。原作『富江』以外の伊藤潤二作品からいただいたか?と思える演出もあったし、「バカ、首の方を切ってどうする!」のギャグは改めて笑ってしまった。
しかし『KG』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110412/1302579741)の時はもうあえて書かなくてもいいだろうと思って書かなかったことだが、出演者のたどたどしい演技や説明的な台詞は、漫画的な演出であり味である、と解釈するには少々きついままだ。
実は生身の人の出番がさほど多くない!?富江役の仲村みうは、高慢なイメージがなかなか良い感じ。個人的には原作富江はもう少し高飛車さが強く、我がままな甘えはポーズっぽい嘘くさいものと思っていて、仲村のしゃべり方は少々幼い印象だったが、まあここらは誤差の範囲内、好みの……というより、各人の思い描く「理想の富江像」の問題か。
問題は他のキャストで……うーん、まあしようがないのかねえ……このキャストにしなければならない事情と言うか。
予告は意図的に暗いシーンで構成されていたが、本編は明るいシーンも多く、DLPの映像で見ると受ける印象がかなり違う。後半は完全にクリーチャー映画的な面白さにシフトするので、そういう意味では期待したものと違う人は多いのかもしれない。
そして、やりたかったことはなんとなく想像がつくものの、本来演技や演出、脚本の妙味による文脈のつながりでもって描かねばならないはずの終盤のサプライズに、夢オチという苦しい展開を用いてしまったのは痛恨。何か大仕掛けが必要だったのだろうか? 写真の設定もそこで整合性がうやむやにされているし、冒頭の衝撃シーンも意味合いが薄れてしまっている。
過剰な恐怖描写は面白かっただけに、『呪怨』形式にそれのみで突っ切ってしまった方がむしろ座りが良かったと思うのだが……。そもそも原作『富江』こそがそういうものだしな。そういう意味では「恐怖の数珠つなぎ」というコピーは、ちょっと看板に偽りあり。
さて、映画見るのは初だったのだが、もう八作目なのに、未だに結構初期の話を映画化してるのだな。ゴミ箱から顔だけ出してるビジュアルも今回初なのか? いや、過剰なエッセンスはいいと思うんだけど、最新刊じゃ富江が醪になったりして(何を言ってるのかわからんだろうが本当にそうなんだよ!)、もう遥か先に行ってるんだよね。ここまでやっても……いや、低予算の国産ホラー映画としては、全てを振り絞って真摯に挑んだのだと思うが……原作の伊藤潤二のイマジネーションに遠く及ばないのか……とも思いました。
ちょっと比較のために他も観てみるべきかなあ……どれがオススメなんでしょうかね?
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