"我らガールズロック戦隊!"『ランナウェイズ』
一世を風靡したガールズロックバンドの自伝を映画化。
自分のロックバンドを作りたいギター少女のジョーン。名プロデューサーのキム・カーリーに声をかけ、ガールズバンド「ランナウェイズ」としてデビューすることに。ボーカルに抜擢された少女シェリーの美しさも手伝い、どさ回りのツアーから、とうとう大手レコード会社の契約にこぎつける。だが、プロデューサー、シェリー、ジョーンの間には有名になるに連れて溝が深まるように……。
帰ってきた! 『トワイライト』シリーズに誘拐されていたオレのクリステン・スチュワートが、とうとう帰って参りました! これだよこれ、このクールかつ反抗的な佇まい。繊細さの中に秘めた激情。これこそがはまり役なのだ。
ロック好きの少女ジョーン(クリステン)だが、意外にもその内面や生い立ちなどは、作中でほとんど語られない。語られないことが逆に、彼女のパーソナリティを音楽とロックに賭ける純粋なそれへと固定させる。
いち早くガールズバンドの可能性を見出したプロデューサーのキム・フォーリーは、しかしそこに物足りないものを覚える。ビジュアル……存在感……主役になるボーカルが必要だ。
デビッド・ボウイのモノマネと口パクで優勝した、ブロンドの美少女シェリー・カーリーが選ばれる。演じるのはダコタ・ファニング2.0。アル中の父、女優の母、双子の姉を持つ少女は、ジョーンと対照的にロックへのこだわりを持たない。逆に、その生い立ちや内面の葛藤などはつぶさに描写される。アル中でろくに帰って来ない父と、祖母の世話を叔母に押しつけてインドネシアへ移住してしまう母。家庭は、彼女の欲しいものをもたらしてはくれなかった。
描写が濃いのは、原作がこのシェリー・カーリーの自伝だから当然なのだが、成長したダコタ・ファニングがその演技力を如何なく発揮し、苦境からの脱出を図る少女の内面を巧みに表現する。
バンドは成功し、少女達は一躍スターに。だが、シェリーの心は晴れない。姉を置き去りにし、ツアーで全米や日本を回り続ける自分は、叔母に祖母の世話を押しつけ家庭を顧みなかった母親そのものだ。そして、薬や酒に溺れた行く末は、アル中になった父と同じ道だ。
宣伝のために良かれと思い、内心忌避感を抱きながらも受けた日本の写真家の撮影。だが、それがかえってバンドのメンバーとの間に亀裂を生む。音楽性を追求し続けてきたジョーンも、それを受け入れることができない。
数えれば三年。それは音楽シーンにしてみれば、ほんの一瞬の輝きに過ぎない。ジョーンの音楽に賭ける熱意と、シェリーの美貌とカリスマが重なって生まれたランナウェイズは、そうして歴史の通りの結末を迎える。外部には「音楽性の違いにより解散」とだけ伝えられそうな、そんな終わり。
しかしシェリーがバンドの顔で、音楽性はギターのジョーンが支えているわけだが、なんとなく戦隊ものの構図に似ているな。
リーダーであり看板である「レッド」と、それよりやや地味だが硬派で実力者の「ブラック」の葛藤だ。そう考えると、ちょっとほんわかしたドラムのサンディが「ピンク」で、シェリーと衝突するもう一人のギターのリタが「ブルー」、『ローラーガールズ・ダイアリー』の友達役の子がやってるベースのジャッキーが「イエロー」かな。
戦隊ものなら、まあレッドとブラックがもめても、お互いの顔を立てる形で決着して再度いっしょにやろうということになり、最後は必殺技を炸裂させるのだろうが、そういう方向にはいかない。シェリーが扉を開け、強烈な光の差す外へと出て行くカットが印象深い。
また月日は流れる。ジョーン・ジェットは音楽活動を続け、成功する。続くものと続かないもの、ぶれるものとぶれないものの対比が、ラストで鮮やかに描かれる。だが、それも人生。どちらが正しいというわけでもない。
最初にあらすじだけ見た時は、音楽にこだわるジョーンを中心に据え、世間や家に縛られながらそれ故に売れることだけを考えるシェリーがジョーカー的な役回りになるのを漠然と想像していたのだが、立ち位置はそのままに視点は逆であった。音楽に邁進するジョーンの方が、どちらかというと超人的に、強く描かれている。
しかし存在感で画面に立つクリステンに対し、ダコタ・ファニング2.0の全てが完璧すぎて怖いぜ! なんつう完成された演技。ますます今後が楽しみだ……!
一番熱狂してたのは日本のファンで、ちょっとしたホラーだった。あのシーンとか、完全にゾンビ映画じゃんよ! そして、あの「いいよーいいよー」言ってお婆さんにどつかれてたのは、篠山紀信だったのか……。
二、三日「チチチチチチチチ、チェリーボム!」言って遊んでた僕ですが、ituneにあったので、買ってしまおうか考え中です。これ買ったら、本物のジョーン・ジェットとシェリー・カーリーにも、今でもいくらか入るのだろうか? そんな程度には、彼女達に思い入れるようになれた映画。
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