"未来への囮作戦"『孫文の義士団』


 大阪アジアン映画祭2011にて、一足先に鑑賞!


 辛亥革命前夜……日本に亡命していた孫文が、香港へと帰還する。わずか1時間の滞在に、しかし彼を忌み嫌い、そして怖れる清朝は、圧倒的多数の暗殺者達を送り込む。孫文を抹殺し、革命の火を消すために……。活動家のシャオバイは、資金援助を申し出ている新聞社社長のユータンと共に、孫文が全国の活動家達と蜂起の計画を練る滞在時間の間、彼を守り抜こうと計画する。だが、暗殺団の動きは早く、護衛に当たるはずの元軍人達は壊滅させられてしまい、シャオバイも敵の手に落ちる。一人残ったユータンは、シャオバイに託された計画と、孫文に心酔する息子に応えるため、新たに護衛に当たる者を集めるのだが……。


 怒濤のドニー・イェン出演作4連発が話題?の2011年ですが、今作はドニー出演作という枠だけでは語れない、超大作でありました!
 革命の計画の打ち合わせのため、香港にわずか1時間だけ滞在する孫文清朝の暗殺者から身を守るべく、革命家の教師レオン・カーフェイは、清朝と決別した元・将軍とその部下達30人、日頃は京劇団に扮して身を隠し、この日のために準備していたつわもの達に護衛を依頼します。これで十二分に対抗出来る、と思いきや……。
 密告を受けてその京劇団を暗殺団が襲撃! 敢えなく全滅! えええええええ! で、レオン・カーフェイまでとっ捕まってしまう……。
 その協力者だった新聞社の社長ワン・シュエチーが軍人全滅を受けて、あわてて新しく護衛をかき集めるわけだが、彼は革命の実務には今まで関わって来なかったので、そういう人脈がない。で、揃ったのは大男、アヘン漬けの物乞い、博打漬けの汚職警官、人力車引き、京劇団の歌姫……大丈夫なのか、こんなメンバーで!?


 ……まあ見てるこっちは、キャストが大変なことになってるから、博打打ちなのにつええええええ! なんでこんなに蹴りが切れてるんだ!? となっても、そりゃあ我らがドニー・イェンですから!ということで納得するんですけどね。
 しかし何なんだ、この豪華キャスト……。


 エリック・ツァンが警察署長。さすがはアジアン映画祭の客層だ、出てきただけで笑いが起きる! この役は……『カサブランカ』だよね(笑)。
 顔に傷メイクでいつものイケメン返上のニコラス・ツェー。無学、文盲、ボスへの忠誠心は人一倍という純朴キャラを熱演! 写真館の娘への求愛が泣かせる。
 そしてレオン・カーフェイは教師役で、彼もイケメン役は完全に卒業なんですな〜。今回は孫文護衛作戦の中心人物、序盤で早々と退場か?と思いきや……。革命と犠牲というテーマを観客に語る役回り
 一方、イケメンを一向に卒業しないレオン・ライ! 登場シーンは大変なことになってるのだが、再登場のシーンでは場内大爆笑! いやいやいや、超カッコいいシーンなんですけどね!
 我らがドニーさんは、汚職警官で最初は敵方、しかも博打やって密告しての繰り返しで、ダメ過ぎるオーラが全開! ははあ、今回は普通の役の人なのだな、と思ったら、元嫁役のファン”美貌”ビンビンに発破かけられて、戦い出したらやっぱり強かった……。


 さて、ここまではおなじみのスーパースター軍団。逆に京劇団の歌姫役の子は初めて見たが……子供? ジャッキー版『ベスト・キッド』のジェイデンの彼女役の子を、そのままもうちょっと成長させたような平べったい顔で、絶望的なまでに華がないぞ! ちょっと向こう行ったらファン・ビンビンが「これが美貌です」と言わんばかりにふんぞり返ってるのに、なんなのだこのキャストは? ……と思ったら、クリス・リーという香港のトップ・シンガーなんですな……マジかよ! エンディングでは主題歌まで歌ってるよ! いや〜、かつてウー・バイとジェイ・チョウを初めて見た時も、まったく同じ事を思いましたなあ……。このクリス・リーも、ライブ動画見たら子供がステージに立ってるようにしか見えないんですが、歌い出すとかっこいいです。
 そして211センチの巨漢メンケ・バータル……でけえ〜、と思ったらバスケの中国代表で、中国人初のNBAスタメンになった男だそうだ。いい味出してます。


 そんなこんなで、キャストをざっと羅列するだけでかなりの文章量になってしまいましたが、おなじみの俳優陣だけでなく、歌手やスポーツ選手まで引っ張ってきたあたりが、かつてない総力戦という感じで、作中の雑多な面子集めた感じとかぶって良いのである。


 メインのラスト一時間の攻防戦がほぼリアルタイムなので、そこまでが言うなれば全部前振りなんだけど、全然長くない。名優ワン・シュエチーさんが、美味しいとこもって行き過ぎ。登場時は、息子の言う事がわからない頑迷なお父さんというステレオタイプなキャラかと思いきや、息子と同じく熱い性格だったことが明らかに……。手料理作るシーンにバカウケ。そしてその飯を食いながら全員が「この戦いが終わったら……「オレ結婚するんだ……」「少林寺に帰るんだ……」「故郷に……」「娘に……」」と死亡フラグをバンバンにおっ立てまくります!
 こういう豪華キャストで、各キャラに見せ場割り振ったら散漫になりがちなんだが、プロット的には「孫文を守る」一点集中で、それに各エピソードが絡む構成。それぞれに目的は違えどやることは同じ、という形に落とし込んだのは上手い。


 さて、あれやこれやで実は最強メンバーなんじゃない?と思える義士団ですが、追いかけて来る清朝の暗殺者はどえらい数。しかも街中だというのに周りの被害無視で猛攻撃、さらに全然自らの命を顧みない! そしてそのリーダーを務めるのが『レッドクリフ』の趙雲ことフー・ジュン! えええええええ、あの赤ん坊連れて逃げてくれたあの人が、今度は追いかけてくるのですか。それは怖い……。そして『鉄拳』と『パンドラム』の武術家ことカン・リーが、かの二作を超える殺意の波動全開でドニーさんに迫る! ドニーはストライクフォース王者相手に勝てるのか?


 今回のために8年がかりで仕上げたと言う超豪華セットの中で、怒濤の大市街戦が展開され、一般人をバンバン巻き添えにしながら壮絶な追いかけっこが繰り広げられる。飛び道具に爆薬にあれこれ飛び出し、ドニーとカン・リーのバルクールは、宙舞い過ぎ難易度高過ぎで、もうバルクールじゃないレベル。その中に一瞬の静と動をメリハリよく組み合わせ、テンポを崩さず重厚なストーリー性をつなげていく。
 禁断症状でそうなほどの疾走感と中毒性を持ちながら、ストーリーはあくまでシリアスに重い。革命、自由、それに払う代償の重さと意味。史実を下敷きにしながら、徹底的に娯楽に徹し、なおかつ深みを失わない。
 そして、元より「革命いまだ成らず」。映画は観客に問いかける。中国人は……いやさ我々は、今、自由な世界に生きているか? 作中の登場人物、一人一人が為した、自らの心の革命を我々も為せるのか?
 見る度に発見がありそうな、何度でも見たい傑作だ。

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