"カンフー王国入門編"『ドラゴン・キングダム』

 ナルニアで思い出したので、旧サイトで書いた文章を再録。試写会の感想。


 いや〜皆さん見ましたか? 『少林少女』(笑)。私は見てませんが、あまりにひどい内容だったようで、会社の上司も「ブルース・リーを舐めるな!」と激怒してました。パッケージだけ持ってくることの愚……というか、そのパッケージさえも移植できていないという、オリジナルはおろかコピーにも失敗するという日本映画界の劣化ぶりを端的に表現した事実でしたね。
 しかしながら、チャウ・シンチー御大が出張っていなかったから笑い事で済んだものの、こういった香港映画に対する冒涜行為が今後も続くとなると、頭の痛いところです。


 そんなこんなが頭にあったちょうどその頃、行ってきました『ドラゴン・キングダム』試写会。


 ジャッキーとジェットの初競演……ということで、とにもかくにも話題性は高かったわけですが、どうにも心配性が板についている私。スターが出演したもののビッグネーム頼りで内容がスカスカの看板倒れになってることや、ハリウッド資本ということでこのコラボレートを十二分に生かせるのか? ただ共演しただけの看板だけの作品になってないか? はたまた『少林少女』の悪夢……二人の業績を冒涜するようなものになっていないか? 香港映画の精神に唾を吐くような、リスペクトなき作品となっていないか? などと開始前から不安はピークに!
 なんか知らんがジェットもジャッキーもそれぞれ二役やってるということで、同一人物やら双子やらの経験もある二人ながら、「あまり奇をてらったことをすると失敗するんだよな……」とそんなとこまで不安に! 監督と脚本はアメリカ人だし、大丈夫なのか……。
 冒頭、ジェットの孫悟空の大暴れシーンの後、舞台は現代へ。『トランスフォーマー』のシャイア・ラブーフをちょい思わせるひ弱そうな青年の登場。今回の主役は彼、ということで、いやあ、ほんとに大丈夫なのか……。彼はカンフー映画が大好きだそうで、チャイナタウンのある店に中古DVDを買いに出かけるも、ちょっと格闘技やってるらしい近所のチンピラにボコボコにされます! あちゃ〜見てられないよ……と、ここでオープニングタイトル!
 ……このオープニングタイトルの内容はここでは伏せますが、これが出た瞬間、私の思ったこと。


「ああ、これは大丈夫だ……」


 これなら安心だ、心配しなくても、これならそうひどいことにはなってない……。よくよく考えるとあまり映画本編に関係ないオープニングタイトルなんですが、いやあ、これなら無問題。このオープニングだけで、アメリカ人の監督も脚本家も、「ただのオタク」、つまり「僕たちの仲間」だということがわかってしまいました。
 さて、この映画のストーリーですが、現代の平凡な青年が、謎の力によって異世界へ迷い込む。伝説の棒の所有者であることから、彼こそが予言の人物であることを伝えられ、伝説の猿を救い、悪しき将軍の統治からその世界を救うべく、仲間と共に戦いに挑む……。
 そういうわけで猿をライオンに変えたら『ナルニア国物語』とまったく一緒です。


 酔拳の達人ジャッキー、謎の女武術家との出会いを経て、謎の少林寺僧ジェットも出現。で、誤解からいきなり「ジャッキーVSジェット」というこの映画最大の見どころが中盤に勃発! 今回は武術指導がユエン・ウーピンということで……まあ身も蓋もない言い方をするなら、お山の大将二人を仕切ってやれるのはこの人だけ、ということなんでしょうなあ。正直、まったく必然性がなく、せっかくの競演なんだし対決させんわけにはいかんだろう、という大人の事情的な対決だったものの、二人のテクニックの引き出しの多さが見られたバウトで、なかなか楽しめましたね。そういうオタク的観点から見ても80点ぐらいは軽く取ってるわけで、これはやっぱりオタクの作った映画なんだなあ、と思ったのでした。
 ジャッキーはただの酔っ払い、ジェットは僧侶なのに大人げなさ過ぎというキャラクターで、ここらへんもまったくお約束を外しておりません。まさに定番ですね。しかし初競演ということで、いったい見ているこちらはどういう気持ちになるものかなあ、とちょっと見る前は計りかねていたんですが、実際見てみると、ああ……まったく……違和感ねえ……って言うか、前も競演してなかったっけ……? いや、してねえよなあ……。


 なかなかここらへん、表現するのが難しいのですが。
 まず実際は映画に関係ないオープニングのタイトル。それから西遊記をモチーフにしたストーリー。おなじみの酔拳少林拳、数々のクンフー技。ユエン・ウーピンによって展開されるワイヤーワークの数々。そして、アメリカ映画であるにも関わらず、ロケ現場となった中国の大地。もちろん、ジャッキー・チェンジェット・リーという存在。コリン・チョウなどサブキャラクターの面々。
 それらはすべて、同じ世界観の中に生きてるんですね。香港において、遥か昔から作られ続け、今なお新作が生まれているカンフー映画武侠映画、ひいては香港映画というジャンルと、その中心である様式の美が主流として存在している。ジャッキーもジェットも、他を圧する存在ではあるんですが、でもその香港映画というジャンル、そしてその源流たる中国武術……僕はこの映画のタイトルにちなんで、キングダム……「王国」と呼びましょう。ジャッキーもジェットも、今まで競演したことはなくても、同じカンフーの王国の住人であることに変わりはなく、同じ世界、同じ様式美の中でそれぞれ生きてきた。今、初競演を果たしたが、それはたまたま分たれていただけの道が交わったに過ぎず、同じカンフーの王国の住人同士が出会うべくして出会った。違和感がないのは、そういうことなのですね。
 そう、そしてこの「王国」の名を冠された作品もまた、僕たちが今まで見てきたジャッキーやジェットの映画、その他香港映画と同じく、カンフーの王国へと僕たちを誘ってくれます。最も偉大な二人を道標として……。さあ、我々も出かけようではありませんか。今はDVDを買ってるだけの何も知らない白人青年とともに、僕たちの愛する王国へと……。
 旅の終わりに青年が目にしたものを、皆さんが僕と分かち合ってくれることを願ってやみません。

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