"過去と現在の「スパイ」"『RED』


 アンチエイジング? 老人版『エクスペンダブルズ』?


 フランクは年金生活者。役所の年金課の窓口に勤めるサラという女性に、用事を装って電話することだけが楽しみ。だが、ある日、深夜のフランクの家を謎の特殊部隊が襲う。返り討ちにしたフランクは、次にサラが狙われることを予期して彼女を拉致……実はフランクは、元CIAだったのだ。かつての仲間を集め、自分が狙われる謎を追うフランクだが……。


 スパイって、今、何をやってるんだろう? 冷戦時代ならば、スパイは良くも悪くもカリスマ的な存在で、ヒーローとして扱うことも陰謀論の主役に躍り出ることもできた。
 だが、時は流れ現代。もはや、CIAには求心力はなく、ロシアのスパイに至っては今はもう名前さえも知らない。ジェームズ・ボンドが何でいまだに作り続けられているのかも、僕にはもはやよくわからなくなってしまった。ちっとも琴線に触れなかった『ソルト』のクラシックさは「強いスパイ」の時代はまだ続いているという幻想と、過去への無邪気な憧ればかりを感じ、冷めるのみだったものだ。


 この映画でも、現役のCIAは政治家や企業の傀儡と化している(かつての「治外法権」的な描き方も無論おぞましいのだが……)。それに立ち向かうのは、老いたりとはいえ、かつての激烈な時代をくぐり抜けてきた伝説の奴らだ……!
 「昔は良かった」「あの頃のスパイはカッコ良かった」……これは、のほほんとした緩いテンポで、年寄り軍団の活躍をぼんやり眺めるコメディ映画だ。街中で無茶苦茶撃ちまくったり、ただのおばさんが殺し屋だったり、映像も内容も実に戯画的だ。「一般人」メアリー・ルイーズ・パーカーも、段々そのスパイの世界にはまっていくことになる。


 しかし、ブルース・ウィリスの口にする恋が、『シークレット・サービス』と同じ立ち位置のキャラを演じるマルコビッチが、老人ホームに住むモーガン・フリーマンが、愛を失ったヘレン・ミレンが、資料庫にこもるアーネスト・ボーグナインが……ふとしたことでこぼれさせる重みが、「冷戦後のスパイ」という設定に少しばかりの真実味を立ち上らせ、「これは本来、もっとシリアスに描くべき物語なんじゃないの?」という疑念を抱かせる。これだけの大物キャスト集めたんなら、「あの頃は良かった」「スパイ最高!」以上のことにも切り込めたんじゃないか?


 これは寓話的な物語であるべきなのだ。かつてのスパイとその行く末、今のスパイはいかにあり得るのか、二つの世代を描くにあたって、過去と現在を浮き彫りにし、戯画的な中にも一片の真実をあぶり出す……そんな内容であって欲しかった。
 「かつてのスパイは、これからも戦い続ける……!」……うーん、やっぱりクラシックというか懐古主義的だよなあ。娯楽としての「スパイ映画」というジャンルにおいて、『スパイ・ゲーム』のように三行半を突きつけるのではなく、スパイそのものを肯定しようとするならば、こうして過去へ回帰するしかないのだろうか。だから、ジェームズ・ボンドは若返らなければならないのだろうか?


 まあこんなことを今さらぶつぶつ考えてしまうようなオレのような人間は、『グッドシェパード』やら『アメリカを売った男』の方を観ておけばいいと思う。

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