"これが史上最強の脚本術「ズン=ドコ」だ!"『完全なる報復』


 社会派ドラマかと思ったら、カート・ウィマー脚本だった!


 二人組の強盗により妻子を無惨に殺された男、クライド。警察の証拠採取のミスで裁判が不利になることから、担当検事のニックは司法取引を選択。主犯格の男と取引し、彼を禁固五年で済ませる一方、もう一人を死刑判決に追い込む。だが、クライドはそれを認めてはいなかった。10年後、刑期を終えていた主犯格の男が惨殺される。わざと証拠を残し逮捕されたクライドは、刑務所の中から司法に携わる人間を次々と葬って行く。彼は犯人を生かした司法制度そのものに恨みを抱き、ニックを含めた全てを抹殺しようとしていた……。


 まずはwikiから一部引用してみよう。

http://ja.wikipedia.org/wiki/ズン=ドコ


 ズン=ドコは、映画都市ハリウッドのテトラボンクラ党に所属する「ボン・クラリック」と呼ばれる特殊脚本家が使用する脚本術である。
 『ソルト』までの脚本データの統計に基づき、常に観客の想像力の無理筋に回る事でネタ割れを回避しつつ、最小の伏線でほぼ不可能なサプライズを仕掛けるという非合理的な概念に立脚している。
 ズン=ドコはマスターすれば、飛躍的に脚本力が上がる事とされているが、基礎のハッタリをマスターするだけでも脱力は少なくとも120%上昇、一撃呆然の技量も63%上昇する。
 ズン=ドコ使いは多数の観客が持つ展開予想の向きを一瞬で判断し、その想像の軌道を予測しつつ伏線を張るため、論理破綻を怖れず積極的に観客を驚かせる。

 ちなみにこのズン=ドコと対をなすもう一つの流派にトン=デモというのがありましてね……。


 さて、実際は公開が後の『ソルト』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100726/1280153841)が、後半の破綻しっぷりさえもある意味、映画の推進力に置き換えているのは、それなりに脚本家の能力かな、と思ったのだが、今作はすげえ! サプライズが起きる度にストーリーに急ブレーキがかかる。テンポ悪く繰り出される展開が斜め上すぎて、逆に驚けなくなっている。主人公の検事達があたふたしてみせるが、実際に物証から丁寧に追いかけて行けば、簡単に仕掛けがつかめそうなものばかりなのに、自らの無能さと犯人への過大評価でそれをふいにしまくっている辺りが素晴らし過ぎる。
 全編に突っ込みどころが満載! 「うわあ、そうだったのか〜!」と白々しく驚いてあげながら観ると楽しいよ! 


 序盤に設定した「自らは一切手を下さず皆殺しにする」というハードルが、ちょっと高すぎたね。どんなものすごい仕掛けがあるんだ? どんなあっと驚くテクニックを見せてくれるんだ? という期待にまったく応えられず、迂回したり下をくぐるかのような回避行動ばかりを見せる。登場人物と言う「サクラ」がそれを驚いてみせる。
 さすがに大ネタ発覚の後は引っ張り切れず、社会派設定もどこへやら、取ってつけたようなラストで閉幕となった。なんつうか、頭で考えついて検証せずに書いたような脚本だね……。カート・ウィマーはやっぱり永遠に『ウルトラヴァイオレット』撮っておけばいいんじゃないかなあ……。