"その男には荒野が似合う"『オーシャン・オブ・ファイヤー』

 BDで鑑賞。


 19世紀末、ネイティブ・アメリカンへの弾圧が過酷を極め、彼らの生活に密着したマスタングが撲滅されようとしていた時代。ネイティブ・アメリカンと白人の混血である馬乗りフランク・ホプキンスは、愛馬であるマスタングのヒダルゴと共に幾多の長距離レースを勝ち抜き、故郷を支援してきた。そんな彼に、4800キロに及ぶアラブでのレースを主催する王族からの招待が届く。巨額の賞金があれば、マスタングを救える。フランクはヒダルゴと共に、未知の大地たる砂漠に挑むのだが……。


 実は劇場で観て、DVDで観て、もう三回目だったりする。何か好きなんだよなあ。


 ネイティブ・アメリカンと白人の混血である主人公と、同じく混血馬のマスタングであるヒダルゴのコンビが、純血のアラブ馬とイギリス馬を向こうに回して戦うという、一見わかりやすい対立構造。アラブの金持ちをカウボーイが凹ませる、という意図も無論あるのだろう。が、ネイティブ・アメリカンの文化の破壊に対する反省とマスタングの保護を掲げる今作は、やや単純化されすぎたきらいはあるものの、スポーツマンシップによって互いに認め合うことを描く。


 偉い人、悪い人、嫌なライバル、いい女の子、とわかりやすすぎるぐらいの人物配置。しかし、そうしたステレオタイプなキャラクターが並ぶ中で、上記の生い立ちや馬との関係を一身に背負ったヴィゴ・モーテンセンはさすがの存在感を発揮。『ロード・オブ・ザ・リング』の公開直後ということで、アラゴルンばりのカリスマを引きずって、一人『ダンス・ウィズ・ウルブス』ばりのキャラを熱演。憂いを称えた表情でうなずくと、それっぽく見えるから不思議だ。単純な話なんだが、文字通りたった一人で深みを生んでいる。それにしても、中つ国の草原に続き、果てしない砂漠を行く姿は素晴らしい。昨年の『ザ・ロード』でもそうだが、荒野を行くのが似合う男だ。


 監督はジョー・ジョンストン。平板で癖のない演出だが、熱砂の中東は恐ろしくも美しく撮ってあるし、2時間16分と長いランタイムをフルに使い、丁寧な前振りから起承転結を押さえた作劇で、遠大なレースの時間経過をうまく描いている。
 定石をわきまえて無理なことをやっていない分、クライマックスもきっちり盛り上がる。長距離レースの最後のスプリントってのは燃えるよなあ。


 レース後、アメリカに戻ってきた後の大草原のシーンは、何回観ても泣ける。ヴィゴ・モーテンセンの目ににじむ涙に泣ける。エンドロールでこれが実話だったことを知り、また泣ける。つうか、同じ年に公開してた『シー・ビスケット』より三倍は感動したなあ。愛馬との絆の話もいいし、断然こっちの方が面白いよ!


 馬による長距離レースというと、いまいち馴染みがない……と公開当時は思ったが、後に始まった『スティール・ボール・ラン』とか読むとまた趣きが違う。
 まあそんな大傑作とか言わんけど、馬好きにも嬉しい良作だ。今回BDで観たが、馬の毛並みまで綺麗に見えてより感動。未見の方はぜひ!

スティール・ボール・ラン (1) ジャンプコミックス

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