"弟よ、ここらで俺らの得意技、見せてやろうぜ!"『ロビン・フッド』


 弟のトニー・スコット監督の『アンストッパブル』と続けて公開!


 十字軍に従軍する射手ロビン・ロングストライド。帰還途中のフランスでリチャード王を失った軍を仲間と共に抜け出したロビンだが、亡き王の王冠をイギリスに持ち帰ろうとするロバート・ロクスリー卿が何者かに襲われる場面に出くわす。襲撃者を撃退し、王冠とロクスリー卿の剣を故郷に持ち帰る事を約束したロビンは、死んだロクスリーに成り代わって彼の故郷ノッティンガムに向かう。そこでロクスリーの妻と父に出会った彼は、替え玉としてロクスリーを演じることに。一方、リチャード王を失ったイギリスは弟のジョン王が戴冠。その混乱をつき、フランスが攻め込もうとしていた……。


 リドリー・スコットの史劇は『キングダム・オブ・ヘブン』もまあまあかな、という感じだったし、最近作『ワールド・オブ・ライズ』なんかもアメリカの覇権主義の否定と現地へのリスペクト精神は買うが、映画としては別に……というところ。今作も、そんなに期待してなかった。
 ……んだけど、冒頭の城攻めのシーンから、やたらと盛り上がるんだよな。かつて『13ウォリアーズ』という映画を年の初めの方に見て「まあクライマックスは結構迫力あったよね」と言ってたのが、数ヶ月後に『グラディエーター』の冒頭の戦闘シーンを見てあまりの完成度の違いに「……もう『13ウォリアーズ』はなかったことにしよう」と考えたのを思い出した。
 どこで撮影してるのか知らないが、ところどころに入る空撮のシーンが素晴らしい。森の中の細い道を、ロビンの白馬を先頭に四騎が疾走するカットとか、目がその白に釘づけになる。
 細部まで行き届いた美術も相俟って、画面上のどこに目を凝らしても、一部の隙もない。馬が走る早さだけとっても、下手すりゃ落馬しそうな速度を出してるという感覚をきっちり演出し、作り物っぽさを感じさせない。
 やっぱり、このクラスになると地力が違いすぎるよね。特に何作も手がけたジャンルで、何度もコンビ組んでるラッセル・クロウを起用してるんだから、安定度が群を抜いている。


 見る前は、熱く痛快ながらちょっと辛気くさい『グラディエーター』みたいな内容を、想像していたのだ。原作の「ロビン・フッド」もけっこう閉塞感強かった印象あるからね。
 しかし冒頭から、勇猛果敢なカリスマ指導者リチャード獅子王と十字軍遠征を全否定! 暴君ジョン王が立ち、名君いなくなってどうするんだろ……対抗する存在がないだろ……と思ったら、ズバリ「大憲章」が登場! マジか! 民主主義!?
 オレが昔読んだ「ロビン・フッド」では、ロビンも民衆もみんなして英雄王の帰還を待ちこがれていたんだが、この映画ではロビンが十字軍に従軍しながらも飽き飽きしてて、王様に十字軍の意義を問われバッサリ切り捨てちゃう。
 そんな感じで原作と全然違うんだけど、もともとロビン・フッドってのは数々のエピソードの集合体で、限りなくフィクションに近い人物なんだよな。だからまあ、こういう解釈もあり。
 だが主人公はただの射手のおっさんで、騎士でもなんでもなかったのが替え玉になってしまう、という展開は、そのフィクション性を逆手に取っていて面白い。この手があったか、と驚いた。


 一応、出生の秘密が後半に明かされるんだけど、基本的に一戦士のおっさんでしかない主人公。最初、仲間と言えばいっしょに従軍してた二人だけなんだが、軍で出会った豪傑リトル・ジョンがそこに加わる。ロクスリー卿の剣を届けにノッティンガムを訪れ、そこで彼の父と妻に出会う。さらにその村に来た新しい神父の協力も得て、村人達の信頼を得て、さらに森に棲む夜盗となっていた少年達も味方につける。同じ北方の豪族たちとも同盟し、大きな勢力を作る。
 ここでロビンの仲間になっていく人たちは、それまで全然関係なかった他人同士。でも、それが協力しあっていく。なんで? その方が楽しいし、生きて行くにも便利だし、何よりそうしたいんだ。人のために働いて戦って感謝して感謝されて、それで充分だろう? ラストの森のシーンですごく象徴的なカットがある。
 先に挙げた『キングダム・オブ・ヘブン』の十字軍や『ワールド・オブ・ライズ』のアメリカの覇権主義への否定に続き、今回はアンチテーゼとしてこうした単純な「助け合い」が提示される。民主主義とか正義とかなんとか言い出すと大層なことに聞こえるけど、それは本当はこういう「困った人がいたら手をさしのべる」というような、すごく簡単で身近な事から始まるんだよね。


 今作は戦闘シーンもすごい迫力で人もバンバン死ぬんだが、そこにリアル志向はむしろなく、正義の味方が白馬で駆けつける寓話的な英雄譚になっている。あるかと思った辛気くささは全然なく、シリアスながらも明るく、ベタな笑いも交えた王道のストーリーだ。「巨匠」と呼ばれる人はなんかどんどん小難しい映画を撮るようになってしんどいな〜、その演出力で王道のアクションものとか作ってくれたらすごいだろうに……と、時々思うが、まさにその願いを叶えてくれた映画。


 役者陣も素晴らしい。
 ケイト・ブランシェットに萌え死に! knight(騎士)とnight(夜)をかける、超古典的間違いで赤面! なにこれ、可愛過ぎる。香港映画かよ!と突っ込むようなベタなツンデレっぷりに呆然としたが、そういやあ香港映画の女優陣、マギー・チャンやらロザムンド・クァンやらも、三十過ぎてもベタベタな笑いを平然とやってて超可愛い。あれはオリエンタルの神秘、東洋の専売特許だと思っていたが、さすが毛唐でもケイト・ブランシェットは全くの別格だった。これはおそらく現代の女優ではジョディ・フォスターさえも到達できなかった境地だ。最近「エロティック」はしょっちゅう見てた気がするんだが、「ロマンティック」は久々に見たような気がするぜ!
 そんなかわゆいケイトなのだが、決め所では当然決めてくる。クライマックスでは当然馬上の人となり、戦場へ駆けつけるのだ。この人『エリザベス ゴールデン・エイジ』でもやらかしてたんだっけ? いや〜、『ロード・オブ・ザ・リング』の何がダメって、クライマックスでガラドリエルが乱入してこないなんてあり得ないよね! ケイトさん、ロビン・フッドじゃなくて、僕と結婚して下さい!


 ラッセル・クロウの肉体派アクションにもバカウケした。ロビン・フッドなんだから当然弓の達人なんだが、引き絞るカットの表情などさすがのキメキメっぷり。西洋の剣のアクションはいわゆる「動」ばかりで、常に振り回し動き続けることが多いが、弓矢という武器はその中でも一瞬の「静」を演出できる稀有な存在なのだ。対比として決め所でびしっと見栄を切る、この格好良さが素晴らしい。
 波間で腰まで水に浸かった状態での戦いで、ラッセル=ロビンは互いにぶつかりそうな二隻の船の間に追いつめられる。小型ながら結構重量ありそうな船で、これに挟まったら終わりだ、どうやって脱出するんだロビン?と思ってたら、次の瞬間、ドドーン……あれっ、挟まった!? え、これは死んだか重傷だろ……! 敵も勝ったと思って踵を返す。が、次の瞬間、両手で船を押しのけながら、海中から立ち上がるのだ! 当然、無傷! すげえ! 80年代のシュワちゃんみたいだ!


 オスカー・アイザックのジョン王もいいね。暴君キャラなんだが、どこか単純なところがあって、兄リチャードに対するコンプレックスが強い。真性の悪人ではなく、母から抑圧され兄と比べられ続けた結果、兄のように尊敬されてみたいという願望も持っているのだ。一時は大憲章を飲むなど、まったく話がわからないでもないキャラクターとして描かれる。
 イギリスを困窮に陥れたのはリチャードと十字軍遠征である、と言う事も語られ、カリスマ性があってみんなを魅了して戦争しちゃう名君よりも、バカだけど民の権利を認める王様の方が、もしかしていいんじゃないか……と思わせてくれる、今作のテーマの一角を担うキャラ。
 『シャーロック・ホームズ』『キックアス』に続いて悪役のマーク・ストロングも、いつもとほぼ同じ、プチ小物臭を漂わせる悪党キャラ。最初から最後まで期待を外さない悪辣っぷり。
 マックス・フォン・シドーが出てたのにも驚いたなあ。まだ生きていたのか……とか思ってしまいました。もう80超えてるよね?


 監督のリドリー・スコットももう70を軽く超えてしまっている。だが、だからこそ堂々とベタに回帰し、ツンデレを演出することも出来たのかもしれない。
 トニー・スコットの『アンストッパブル』も、聞いてる話通りの娯楽大作なら、まさに彼のお家芸なわけだ。ハリウッドも好況なわけではないし、この時期にこの兄弟が、自分の得意とするジャンルでエンタメに徹した作品をそれぞれ発表したということには、何か意味があるのかもしれないな。


リドリー・スコット
「おい弟よ、ここらで一つ、俺らの得意技、見せてやろうじゃないか」


トニー・スコット
「そうだな、兄貴……!」


 ……とまあ、そんな会話があったかどうかは知らんけど(笑)、この『ロビン・フッド』からは、リドリー・スコット健在! 意気盛ん! 今日も好きな映画を楽しんで作ってるよ! という雰囲気しか感じないのだ。それに乗っかって、こっちも楽しくなってくる。
 会社のロゴのタッチを模したエンドクレジットもカッコいい! 最後の最後まで楽しませてくれる娯楽大作、見て損はないですよ。ところどころ、「なんか展開早いな〜」と思ったところは、例によってディレクターズカットで見せてくれることでしょう。楽しみ!


<追記>
 ディレクターズ・カット版をチェック。森の子供たちとの交流が、やはり大幅に追加されてました。あれじゃやっぱり唐突すぎるからなあ。これがあるからラストも生きる。他にも、羊を助けようとして泥にはまるブランシェットさんと、それを助けるラッセル・クロウなどおいし過ぎるシーンが! 追加分は15分と、リドリー・スコットとしては普通の部類だが、やはり後から観るならこっちのバージョンで間違いない。

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