”拙者、不殺の銀行強盗でござるよ”『ザ・タウン』
ベン・アフレック監督第二作を試写で鑑賞。
”アメリカで最も銀行強盗の多い街”チャールズタウン。父に40年の刑に処せられた伝説の銀行強盗を持つダグは、幼なじみのジェムらと四人でチームを組み、同じように銀行強盗を繰り返す日々。巧みな手口で追跡を逃れてきたが、ある日、やむを得ず人質に取った女支店長に、何か証拠を握られたのではないかと疑念を抱く。偶然を装って出会い、探りを入れるダグだが、期せずして激しい恋に落ちていく……。
監督第一作は観ていないのだが、主演はしていないのな。今回は監督・脚本・主演。さて、こうワンマン体制になって、果たしてどのような手腕を発揮しているのか注目していたのだが……なんじゃこりゃ!
まあこの主人公のキャラ設定が素晴らしい。まわりは全員荒くれ者の前科者、主人公自身もかつて所属していたホッケーチームでチームメイトを殴った過去あり。結局、銀行強盗に身を落として生きている。が、その中で主人公一人だけは、酒も飲まずクスリもやらず、品行方正に生きているのだ! さらに女にも一途! 父親の刑務所への面会も欠かさず、いなくなった母の行方を気にかける親思い! ホッケーへの贖罪意識も持っている! そして本業の銀行強盗でも、暴走しがちな幼なじみジェレミー・レナーをなだめ、自らは不殺を貫いている!
なんじゃあ、この調子のいいキャラクターは?
この主人公は、舞台となるこの街の象徴的な人物である父親と同じ末路を辿るのを内心怖れており、いずれ足を洗って街を離れることを夢見ている。酒や殺しから距離を置いてるのは、「オレはお前達とは違うぜ」というポーズなわけだ。
しかし、タイトルにもなっている「タウン」の呪縛は強く、そこでの生き方は彼の身体に染み付いており、かつて彼の替わりに殺人を犯した、言わば暗黒面である幼なじみとの腐れ縁も断ち切れない……のかと思いきや、主人公は最初から最後までこの距離を置いたスタンスを保ち続けてしまう。
うーん、おかしいな。この話は、貧しい土地に生まれ、犯罪者としての粗暴な生き方しか知らない男が、いつしか過ちに気づき、そこから逃れ出ようとする、というストーリーなんだよね?
でも、映画始まった時からこれだけ距離を置けてたら、もう半分以上成功してるじゃん! この映画では、主人公の内面的変化はほぼ描かれない。最初から理想的な人物像である彼は、あとは如何にして「物理的に」この街を逃れるか、という課題しか持っていないのだ。
母への想い、恋愛、銀行強盗、街からの逃避、父親の名声、幼なじみとの関係……色々と背負わされてるはずのテーマが出てくるが、どれもさらっと台詞で説明されたり流されたりで、順番になんとなく片付いていくのも、それが原因。物語が始まった時点で成長し切っていると設定されている主人公は、その場その場でその性格づけに則って答えを出すだけなので、作品内での葛藤が起こりえないし、その結果としての変化が生まれないのである。逃れたくても逃れられない性とでも呼べるものが、まったく表現できていない。
うわあ、今日日スーパーヒーローだって、自らの行為に逡巡し、葛藤するんだぜ? 土地のしがらみと犯罪を題材にした映画で、それをかくも悩みなくやっちゃうとは……。どのテーマももっと掘り下げようがあるはずなのに、「人格者」という結論ありきなので、その答えこそ間違っていないものの、何の共感も呼ばないし、高いレベルに昇華されてはいない。言ってることやってることは正しいはずなのに、なぜか主人公が身勝手に見えるのもそのためだ。
これを監督・脚本・主演でやっちゃうベン・アフレック。若気の至りじゃすまないナルシシズムだね。誰も止めなかったの? これ……。
他も色々とひどい。
スペシャリストな銀行強盗四人組が、主役・幼なじみ・デブ・ヤセという組み合わせもひどい。「おまえたち4人はチームだ」という台詞があるが、役割分担もこの見かけ通りの通り一遍。幼なじみのジェレミー・レナーは完全に引き立て役、後の二人の扱いは完全に人数合わせで、見かけでわかりやすく違いをつけただけ。
ヒロインと恋に落ちるくだりもあっさりとしたもので、「オレの魅力」が前提だから、細かい過程は描かれずなんとなく最後まで行ってしまう。しかしこのヒロインも主体性ないな〜。若くして銀行の支店長なんだからキャリア志向なのかと思いきや、あっさりそれを捨ててボランティアに走る姿勢も嘘くさい。主人公こそが銀行襲ったキャリアの破壊者なのだが、その罪を「軽減」するためにそういう設定にしているのだろう。
銀行強盗の元締めやってる「花屋」が、一目見たら忘れないピート・ポスルスウェイト。登場シーンがまったくの無言で凄みがあり、これはかっこいい、と思っていたら、後半べらべらと墓穴を掘るような真相をしゃべくり出すのでガッカリした……。殺されフラグ一丁!
中盤以降、FBIに目をつけられ、完全にマークされてしまうのだが、それでもクライマックスはやっぱり強盗。これは如何にして監視の目をかわすのか? 相当高難易度、というかどう考えても無茶だろうが、どういう風に描くのだろう……と思ってたら、FBIが全然監視してなくて、あっさり強行! FBIの担当者は証拠こそつかめないでいるが主人公を本ボシと睨んでいるので、部下を貼り付かせるぐらいはしてるのかと思ってたのだが、見事に何もしてなかった。そして、計画前、何度も何度も台詞で「このヤマは危ない」と連呼する主人公。だから、もうちょっと危険性を具体的に描こうよ!
そして、監督・主演やったら自分のアップを延々映したくなるのはわかる! たぶん、みんなそうだ! でもベン・アフレックのアップは何分も映し続けるには耐えないよ! マット・デイモンと交互に映したら余計にしんどい!
「スターで人格者、女にもモテるオレ様」が「前提」となった、ベン・アフレックによるベン・アフレックとベン・アフレックファンのための映画。昨日書いた『マチェーテ』http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101117/1289959620とはある意味、対極だな……。他人に対してやれば愛だが、自分に対してやったらただの自慰だろ……。
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