"国境に集まり輝く元気玉"『マチェーテ』


 『グラインドハウス』のフェイク予告から派生したスピンオフムービー。


 テキサス州。メキシコからの不法移民を弾圧し、国境に柵を作ろうとする上院議員を狙撃させるべく、一人の男が雇われる。南米からやってきたと思しき、凶悪な風貌と、常人とは思えぬ佇まい。だが、依頼した議員の側近は、彼を罠にはめ、議員狙撃の犯人として始末しようとする。しかし男は負傷しながらも、並ではない機転と強さで、追跡を逃れていく。彼こそは「マチェーテ」。かつてメキシコの連邦捜査官であり、妻子の仇を討つべく悪を追う、伝説の男だった!


 オレがダニー・トレホを初めて観たのは、高校出た辺りだったか……。『アナコンダ』で蛇にかじられ、その次が『コン・エアー』のレイプ犯。(それ以前に『ヒドゥン』もビデオで観てたはずだが、記憶にねえ!)。この2作で彼に対して抱いたイメージは、


「凶悪そうな見た目通りに知性が感じられず、定型パターンにおいても3番手以下にしかなれない、典型的な序〜中盤の噛ませ犬的悪役俳優」

(『アナコンダ』における序列 1.女王の大蛇 2.ジョン・ボイト 3.戦士の大蛇 4.トレホ)
(『コン・エアー』における序列 1.マルコビッチ 2.ブシェミ 3.レイムズ 4.トレホ)


……であった。さっきからフィルモグラフィを眺めてても、後の作品で観たもの……『リプレイスメント・キラー』『6デイズ7ナイツ』『レインディア・ゲーム』『トリプルX』『レジェンド・オブ・メキシコ』……うーん、出演シーンをまったく思い出せない……。たぶん観た時は、


「わ、あの怖い顔の人まだ出てるよw」


と、結構喜んでいたはずだが、それでは記憶には残らないのだな……。


 それでも『スパイ・キッズ』シリーズでは良い役をもらえてたそうで、うーん、ロバート・ロドリゲスって義理人情に厚い奴なんだな……と思った記憶あり。
 最も最近に観たのはもちろん『プレデターズ』。早々に殺されていたが、ツイッターなどで時々見かけた「あのトレホが、あんな簡単にやられるなんて、もったいない! もっと活躍が観たかった!」と言う声には、「いや、あのトレホだから、いつもどおり簡単にやられたわけじゃないの」と思っていた……。


 で、この「嘘から出た真」なわけだ……。


 未だにオレは当初の印象が拭えず、「トレホさんが主役w ネタ映画だろwwww」という感覚から逃れられないでいる。
 それは当然で、出発点がそもそも違うわけだ。トレホ愛に満ちたタラ公やロドリゲスが、「トレホ主役で映画撮れたらいいよね。『グラインドハウス』企画に合わせて予告だけでも作ろう」というところから始まった。それを観たファンからの支持によって、フェイク予告が本当に一本の映画になってしまった。


 だからこれは、愛が集まって出来たような映画なんだよね。元気玉みたいな。ロドリゲス達、トレホ大好きスタッフが、「トレホさんに元気を分けてくれ!」と叫び、トレホファン、『グラインドハウス』ファンやロドリゲスファンが、みんな空に手をかざし、アメリカとメキシコの国境にその小さな光が集まっていって、やがて巨大な光の玉が生まれた。


 未だにトレホさんの魅力の何たるかが皆目わからないオレは、自分で手をかざすことはしなかったし、なぜそんなに盛り上がっているのか全然わかっていない。


 だけど、どこかの誰かがトレホさんに送った元気の光が空を流れていく様は美しいと思うし、それがこの大きな輝きとなったことは、素晴らしいことと思うのだ。


 前置きが長くなったが、映画の内容は………うーん。
 傷だらけのフィルムを模したオープニングのテンションが素晴らしい。大流血、臓物、尻、切株、セガール! すげえええええええ! が、これは物凄い傑作なんじゃないか、と思ったのも束の間、画質が元に戻ったら、急に普通の勢いになってしまった。なんかフェイク予告編の印象と違うな……。っていうか、これ現代の話だったんだ? 「チェンジ!」とか言ってるし。てっきり、タラ公が若かりし頃に劇場に通い詰めてた時代ぐらいは、再現してるのかと思っていた……。
 この手の豪華キャスト映画にありがちな、各キャラに見せ場が与えられて散漫になる構造からも抜け出せてないし、基本的にその見せ場の羅列になってしまってるよね。それを無理に陰謀とか何とかでつなげた妙に現代的な設定も、主人公のキャラクターにそぐわない物と化している。絶対、80年代ぐらいの舞台設定にしといた方が面白かったと思うんだが……。


 もう66歳なのに、今までならあり得なかったような見せ場と役得を与えられたトレホさんは、きっと物凄く頑張ったんだろうなあ。やっぱり身体動かないのに無理してる感は否めないし、集まった豪華キャストが「マチェーテ、恐ろしい奴だ!」「マチェーテ、素敵……!」と連呼しても、それは「前提」だよね……という印象を払拭するには至らない。
 しかし、大量の血飛沫と内臓、美女とおっぱいに囲まれたトレホさんと、それを演出したスタッフ、観ているファンはきっと幸福なのであろう。そして、それに混ざれずに傍から眺めてるオレも、少しはそれを分けてもらったよ。

コン・エアー [Blu-ray]

コン・エアー [Blu-ray]

アナコンダ<Hi-Bit Edition> [DVD]

アナコンダ [DVD]

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い

人気ブログランキングへご協力お願いします。