才能のなかったもう一人の僕『エド・ウッド』
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大昔に自伝は読んだ。内容はほとんど覚えてないんだが、でもその時に感じた肌触りのようなものが、なんとはなしに甦る。
このエド・ウッドという人間の、とにかく熱意がすごい。映画作りに対する情熱、往年の怪奇俳優ベラ・ルゴシに対する偏愛、アンゴラのセーターを愛するフェティシズムと女装趣味。全てをあけっぴろげにして、何の恥ずかし気もなく、隠そうともせずに突き進む。もちろん映画化されたことによって誇張はあるのだろうが、常人の域を超えている。実話であるとか、何も知らずに見ていたら、奇矯だが情熱的な主人公の活躍譚と錯覚するだろう。
だが、これは実話で、ハリウッド映画のサクセスストーリーの文法はあてはめられない。どれだけ熱意があっても、エド・ウッドには絶望的に才能がなく、その熱意ゆえに自らの作った映画は傑作であると、信じ込んでいる。ボール紙のセットが崩れても、役者がとちっても、彼には何一つ目に入らない。盲目的に前進し続ける。
製作業においても同様で、大会社のプロデューサーや著名女優に、なりふり構わず突進を繰り返すし、堂々と成功を約束する。どれだけ不評をかこっても、落ち込むのは一瞬だけ。すぐに立ち直り、再び突撃。
乗せられてサイテー映画に手を貸す役者やスタッフたち。不可思議な熱意に魅せられたかのように……。
幼少期からホラー映画を偏愛してきたティム・バートンにとって、エド・ウッドは他人ではないのだろう。世の中に認められなかった自分自身。エド・ウッドがベラ・ルゴシに注いだ愛情と同じだけのものを、バートンはこの映画に注力しているかに見える。当時のスタジオや風俗を再現した細部の作り込み、エド映画そのままの映像……。スティーブン・キングをして「ベラ・ルゴシになんということをさせるんだ」と酷評させた水たまりでのタコとの格闘シーン。老体に鞭打ってタコのぬいぐるみと絡み合うルゴシ=マーチン・ランドー。熱に浮かされたようにそれを見つめ、感極まったように「カット」を告げるエド=ジョニー・デップ。在りし日が甦ったかのようだ。
できた映画こそサイテーなものばかりだったが、晩年のルゴシを始め、関わった人間たちにとってはそうとばかりも言えなかったのではないか。現実は優しくはないが、その中でも人は優しく在ることが出来る。愛情と温かみに溢れた一品だ。
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