『カラフル』


 森絵都原作小説を、アニメ映画化。


 死んだはずの「ぼく」は、輪廻の輪から外されるあの世の一丁目で、修行挑戦の資格に当選。とある自殺した少年の肉体に入り、彼としてやり直すことになる。ガイド役のあの世の住人プラプラと共に、現世に戻ってきた「ぼく」。少年……小林真は、内向的でクラスではいじめられ、浮いた存在。そして、一見平凡で幸せそうに見える家族も、母親の不倫によって亀裂を抱えていた……。半年の修業期間の間に、「ぼく」は真の肉体に入った理由と、本来の記憶を取り戻せるのだろうか?


 原恵一監督作品、初鑑賞。


 いや、すげえ……なんてそつのない演出……。キャラクターの表情のつけ方など、ある意味記号的な表現も多く、非常にアニメ的だ。だが、それが最大限の効果を上げるように設計されている。実写では演技力に左右される分を考慮する必要がない。笑顔……泣き顔……不快の表情……単純な線の絵なんだが、感情をはっきりと表現してみせる。


 ただ、人間的に浅薄な(笑)主人公は、それらの感情を目にしてもなかなか受け入れることができない。少年の中に入った主人公の魂は、一般常識を除きそれまでの記憶を失っている、という設定。最初は、我々観客が没入しやすいようにそういう設定が取られているのかと思ったが、徐々に性格が浮かび上がってくる。クラスの状況をやや斜めから観ているような観察眼や、根はモラリストっぽいようだがそれ故の融通の利かなさ、幼稚さ……。


 真として生活し、真としてクラスメートや家族と関わるうちに、新たな関係もまた生まれて行く。そして、おそらく真の自殺の原因となったであろう、一学級下の少女の援交現場、そして母の不倫現場の目撃という事実にも、対峙することになる。
 単に言葉で聞かされたことでイメージした真が見ていたであろう世界と、それを先入観として認識した今の自分が見ている世界に、やがて微妙な齟齬が生まれてくる。人間は一面的ではなく、一見理解しえない行動の裏にも、複雑な感情が渦巻いているのだということを、やがて主人公は知ることになる。


 で、それがタイトルになっている『カラフル』に込められたテーマなんだけど……いったいどうしたんだ、ここだけ妙に説明的だった。原作は地の文で「色」のレトリックを強調しているのだが、映画では「クラスで透明な……」という台詞があるぐらい。物のたとえとしては、中坊の癖に急に気の利いたようなことを言い出したな……という感じで、非常にもったいない。主人公が絵が好きであることなど、ピースは揃っていただけに、ここを敢えて「色」というある意味ありがちな材料で例える必然性が、今一歩描けなかったのが残念。
 タイトルにつながらなくなるけど、後のプラプラの同じ台詞も含め、この説明台詞をばっさり切ってたらどうなっただろう? 作品に「誤読」の余地はあるか? たぶん、大丈夫と思うが……。


 う〜む、風評以上でも以下でもないな、原恵一……。


 尺と演出ががっちり噛み合ってて、2時間少しの間に、丁寧にテーマを語り説得力を生んでいる。
 割合、教条的と言うか、深い話とは全然思わない。むしろ、説教くさいぐらいだ。主人公の年齢設定通り、中学生ぐらいが観るにいい作品。無論、大人でも忘れがちなことでもあるのだが……。


 ところで、十年前に実写版が作られているんだね。これはもう、歴史から抹消ということでいいの? アマゾンのレビューが凄いことになってて笑える。兄貴がナースマニアってなに?


 さて、簡単にわかったような気になって絶望するな! 色んな面があって当たり前! 受け入れよう! そうしたら新しい世界が開けるよ! ……という今作を見ても、救われなかったきみ! そんなきみは、『ぼくのエリ 200歳の少女』を観るのじゃああああああああ!

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