『恐怖』


 『リング』シリーズの脚本を手がけた、高橋洋の監督作品。


 旧日本軍が内地で行った人体実験……人間の脳に直接電流を流し、幻覚を見せる。だが、複数の被験者は、幻覚でない何かを見た……。その記録であるフィルムを見た脳外科医の夫婦はその現象に取り憑かれ、ひそかに人体実験を繰り返すようになる。
 ある日、車内で練炭自殺を図った自殺サイトの同調者が、廃病院へと運び込まれた。その病院こそが脳外科医の実験場であり、サイトでの自殺者募集は、実験台を確保するための罠だったのだ。そして、実験台となった自殺志願者の中には、別離していた外科医の長女の姿もあった。
 一方、行方不明となった姉を捜す次女もまた、不可思議な夢を見るようになる。


 監督作品は初めて見たが……んん〜、この作品全体を覆う「固い」雰囲気はなんなんだろう? 役者陣のアクションが、硬直した表情、微動だにしない佇まいなど、とにかく不安を煽ろうとするような所作に満ちているのだが、とにかく全編に渡ってそれなので、非常にぎこちなく感じられる。片平なぎさも目ばかり見開いていて、なんなんだこれ?
 『フォース・カインド』的なトンデモ科学に取り憑かれた母子の物語ということで、しかし情緒的なものはなるべく廃したかったのかな。よくある愛憎劇は描かれず、家族関係は単に「そこ」に居合わせた人間同士のつながりでしかない。だが、「現象」そのものを描くにはこの映画の規模は低予算すぎるし、フックとしての人間関係さえ排すると、入り込める要素が何一つなくなってしまう。


 監督には、なにか原風景のようなものがあるのか? どうもそれが巧く伝わって来ない。表現したいことはあるように思うのだが、それの正体は見えて来ない。観念的なものを描くにしても、もう少し直球な何かが必要だと思うのだが……。


 で、この『恐怖』というのも、内容がタイトル負け。こんな包括的なタイトルは似つかわしくない、端的に言えば小品ですよ。グロ描写や不条理なラストなど、小品と割り切ってみればそれなりに見どころもあるのにもったいない。これはまったく話題にならないわけだ……。

映画の魔

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