『ローラーガールズ・ダイアリー』


ローラーガールズ・ダイアリー [DVD]

ローラーガールズ・ダイアリー [DVD]

 ドリュー・バリモア、初監督作品。


 テキサスの田舎町。娘の美人コンテスト優勝に燃える母の元で、ついていけないものを感じていたブリス。ある日、何気なく手に取った「ローラーゲーム」のチラシが彼女の人生を一変させる。
 17歳という年齢を22歳と偽り、入団コンテストに参加したブリスは、小さな身体を活かしたずば抜けたスピードを開花させる。彼女の加入と熟達とともに、チームも上昇気流に乗って行く。だが、勉強と偽ってチームに参加していたことが両親にバレてしまい……。


 天才と称された子役時代から、ヤク中、アル中、自殺未遂とお決まりの転落コースを辿るかと思われながら、『ウェディング・シンガー』で見事な復活を遂げたドリュー。製作者として『チャーリーズ・エンジェル』のような娯楽作品もものしているが、『25年目のキス』というティーンの青春時代にスポットを当てた作品も作ってきた。
 その彼女が初監督作に選んだのは、そのティーンの少女を主人公にしたスポ根ムービー!


 美少女なんだが田舎くささが抜けず、ひ弱な印象もつきまとう主人公。母の期待と自分とのギャップを常々感じていた彼女が、自ら一歩を踏み出す、というのがストーリーの骨子。意を決して、バスを乗り継いで一人入団コンテストを受けに行くシーンが素晴らしい。知らない路線で、老人ばかりが乗っているバス。走り出すと、通っている学校やバイト先のハンバーガーショップが通り過ぎ、遠ざかって行く……。降りた先に広がっているのは、見知らぬ街と見知らぬ風景。孤独感と先行きへの不安が伝わり、胸が締めつけられるようだ。
 よく知らなかったルールをコンテスト直前にレクチャーされ、果たしてずっこけまくる主人公。先程の不安感を引きずり、やっぱりダメなのか……と思ったその瞬間、コースに慣れて駆け出した彼女は……何か、矢のように速い! なんじゃ!? と思う観客の気持ちと、コンテストを見ていたチームの選手たちの驚きがシンクロする。
 思いもかけない才能を発揮した主人公は、その後、ますますローラーゲームにのめりこんで行く。


 この主人公を演ずるのは『ジュノ』のエレン・ペイジ。いやねえ……もう……全編に渡って……輝いているんだ、これが……。冒頭、鬱屈した状況にありながらも、押さえ切れないエネルギーがふとしたことで漏れ出る。箱のふたを隙間程度に開けたら、強烈な光が射すような……。
 スケートで走り出し、自己を解放した瞬間、その輝きがどっと溢れ出る。素晴らしい躍動感に、見てるだけで笑みが零れ、愛おしさがこみ上げてくる。信じられない、なんていう才能なんだろう。こんなキュートなビールの一気飲みを見たことがあっただろうか? こんな様になるファッキューのポーズを見たことがあるか? 痩せた小さな身体も、傷ついた表情も、全てが圧倒的なまでにリアルだ。ただあるがままに生きている君が、こんなにも輝いている。それがすごく嬉しい。


 彼女を映し出すすべてのカットに繊細な愛情がこもり、気配りの行き届いた巧みな人物配置がそれをよりいっそう引き立たせる。
 家族の関係……友情……恋愛……ほろ苦さのまつわるそれらを、カメラは優しく切り取る。全ての関係が対置され、クライマックスに向けて、エレン・ペイジのローラースケートとともに疾走していく。溢れんばかりの映画的興奮がありながら、心はとてもとても穏やかだ。


 奇跡のような、素晴らしい映画。まだまだ、書き切れてないことがたくさんあるよ。今年、これを見ずしていったい何を見ると言うんだろう?