UFC115 やっとオッサンになったミルコ・クロコップ


 結果は先に見ちゃったけど、やっとミルコVSバリー観た!
 K-1対決ですな。
 ちまたでは賛否両論のミルコさんでしたが?

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 1ラウンド、早々に右をもらい、腰を落とすミルコ。二度目では左目も腫れ上がり、序盤からピンチの連続だ。しかしながら追撃をかけないバリーにも助けられ、スタンドの応酬が続く。バリーも蹴りを狙ってるせいか、パンチの手数は少ない目で、ミルコを圧倒する程のボクシングテクニックがあるようには見えない。右のサイドキックで距離を取るミルコ。左のフックなども出して、思い切りがよく見える。

 2ラウンド、早くも踏み込みの速度が鈍って来たバリー。スタミナが怪しい。ミルコはまだ動けている……と言うか、この試合では最後の最後まで運動量が変わらなかった。序盤は圧倒しかけていたバリーだったのだが、テイクダウンを取ってから一気に流れはミルコに。パスを許ししがみつくバリーは、やはりグラウンドはザルだ……。

 左ハイを飛ばす3ラウンド。脚を刈られて倒される場面はあったものの、プレッシャーをかけて詰めて行く。踵落としのパフォーマンスも見せ、スタミナの切れたバリーをパンチラッシュで圧倒。金網際でしがみつくばかりのバリーを、チョークで切って落とした。

 ふーん、いや良かったじゃないか。相手のウィークポイントをついて、光を消し去っての完全勝利。

 ミルコももう35歳、思えば前戦での肘のKOもそうだったのだろうが、もう完全に左ハイは捨てたと見ていいんじゃないか。スタンドバウトが続いたこの試合、左ハイを狙ってる様子はなかった。右サイドキックで距離を測りつつ、フィニッシュは左フックかアッパーか……。幾度か打ったハイは、バリーが誘ったのに合わせた、ミルコ自身に取っても見せ技でしかなかったんではないか。試合展開は互角、当たれ当たれと闇雲に逆転を狙って打ってる風ではなし、そうでないならローやミドルの布石なしで打つ理由はない。
 もうミルコは左ハイを狙うスタイルを研究されつくしていることを悟り、PRIDEファンの期待と裏腹に、自ら過去の遺物として封印しつつあるように思う。
 ミルコという選手には、かつて最強幻想を託したファンの思い入れが物凄く強いが、その最強幻想を最も信じていたのは、他ならぬミルコ自身だったのではないか。政界進出、PRIDEとUFCの制覇、ヒョードルを倒し、いずれはクロアチア大統領。それはまあ大袈裟としても、ビッグマウスなだけ、一時の勢い、そう言い切れないだけの説得力があの「妖刀」左ハイを決めるスタイルにあり、ミルコもそれを頼みにしていた。
 ……が、UFCに来て屈辱の惨敗。そのスタイルはことごとく空転し、見るに耐えない敗退が続いた。PRIDEファンはショックだったが、一番ショックだったのも、ミルコ自身だよね。敗戦後のインタビューでも左ハイに関する質問は多く、それが上手く行かないことを漏らしていた。何で決まらないんだ、何で当たらないんだ、オレはこれで世界を取るはずだったのに……。
 おそらくドスサントスに心を折られて完敗して、やっとミルコは左ハイを諦めたんじゃないか。もう永遠に当たらないということを、心のどこかで認めたんではないか。

 大事にしてきたものを捨てるというのは、とても辛いことだ。格闘家にとってファイトスタイルと言うのは、命にも等しいものだろう。すごい葛藤があったに違いない。
 でも……捨てて初めて……引退ギリギリのところにきてやっと何か……心が軽くなったんじゃないか?
 いいじゃないか、肘でもパンチでもチョークでも、最後に勝ったら……そう思ったら何か……身体まで軽くなったんじゃないか?

 フラッシュダウンを二回奪われ、ハイキックの軸足を刈られ……しかしミルコには動揺した様子は見られなかった。ペースを崩さず、淡々と最後まで攻め続けた。寝技を避け続ける神経質さ、打ち負けて攻め込まれるムラっけ、かつて弱点とされたそれらは、見当たらなかった。幾つかある引き出しからこだわりなく取捨選択し、的確に技を差し込んで行く姿……それは、ベテランの総合格闘家そのものではなかったか。
 果たして、スタンドスキルしか頼みのないバリーは、スタミナ不足の弱点を露呈し、まさに総合力で敗れ去った。

 勝利をアピールするミルコの姿は……なんだろう、どこか物足りなげにも見えたし、でも充分嬉しそうでもあった。インタビューでジョークを口にして去って行く彼の背中は大して大きくは見えなかったが、でも軽快だった。

 オレは世界最強、オレはスーパースター、オレは全てを得るべき男……。そんな傲慢な野心を、やっと彼は捨てたのだ、左ハイと共に。もう引退間近のオッサンだけど、契約終わるまで、もうちょっと闘ってみよう。その後はどうしようかな……。今、考えているのは、きっとそんなことだろう。

 幻想はなくなった。熱狂した日々は遠くに去り、今は35歳になってくたびれてオッサンになったミルコ・クロコップが残るのみだ。寂しいけど、でもミルコ自身が捨てた夢を追い求めるのはやめよう。それは、彼に思い入れを押しつけて追い詰めるばかりだ。
 ミルコはオッサンになったけど、だからって、あの時抱いた夢が消えるわけでも汚れるわけでもない。彼の業績がなくなるわけでもない。あの日の熱気をミルコと共有したなら、今のミルコも受け入れよう。そして、いずれ来る彼の最後の戦いを見届けよう。母国クロアチアのファンの次に、我々日本のファンこそがそうすべきはずだ。

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