『湘南ランナーズ・ハイ』倉阪鬼一郎

湘南ランナーズ・ハイ

湘南ランナーズ・ハイ

 ひさびさに読みました、クラニーです。


 湘南国際マラソンに参加した主婦・幸子と、併走する長男の海人は、レース中に夏乃という参加者と出会う。幸子も夏乃も、フルマラソンは初挑戦。幸子の応援で大騒ぎの夫・大造と娘のなぎさと共に、家族は一丸となってマラソンに挑む。そして、膝に故障を抱えたまま懸命な挑戦を続ける夏乃の側にも、父である義介が、彼の仲間である「湘南ランナーズ・ハイ」のメンバーとともに併走していた。
 完走を目指す二つの家族は、さまざまな想いを抱えて、ゴールへ向けてひた走る。


 作者のウェブ日記を見てたら、ファンと結婚して湘南へ移り住んで娘も生まれて自分はマラソンに挑戦……と何とも幸せ満開。そんなバカな、自他ともに認める社会不適応者が……!と驚愕したが、ハッピーになるのは誰にも可能なのだ。
 そんな作者が自らの体験をもとに描いた『42.195』に続くマラソン小説。ここ三年ばかり追いかけてなかったが、当たり外れの多い作者の作品としては、中堅レベルで良い出来の作品。『泪坂』あたりと同じく、「怪奇小説家」らしい作者の上品さ、書き過ぎない抑制された感覚が前面に出ている。どうも「本格ミステリ!」「本格ホラー!」となると、力みかえってしまうところがあるからなあ……。


 描かれる家族像も、ベタなようでいて、きっちり施された仕掛けによって、最後に凡百の装いが剥ぎ取られる。シンプルだが、美しい構成だ。
 気軽に読めて、後でじんわりくる佳品。出来れば、このランクの作品は文庫書き下ろしで読みたいところ。

42.195 (カッパノベルス)

42.195 (カッパノベルス)

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