『マイ・ブラザー』
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銀行強盗で服役していた、厄介者の弟・トミー。海兵隊に所属する大尉である、人格者の兄・サム。美しい妻・グレースと二人の娘を持つサムは、弟の出所の出迎えに行った後、アフガニスタンへと飛び立つ。出所したはいいが、父に疎まれ兄嫁にも嫌われているトミーは、家族の中に入ってもうまくいかない。だがある日、アフガンでサムの乗ったヘリが撃墜されたとの報が届く。悲嘆に暮れる家族を支えるトミーは、やがて子供たちやグレースとも心を通わせるようになる。夫の死という悲劇から、家族は必死に再生していく。……が、サムは死んではいなかった。アフガンで捕虜となり、そこである体験をした彼は、別人のようになって舞い戻る……。
トビー・マグワイアと言えば『スパイダーマン』はもちろん、『カラー・オブ・ハート』『サイダーハウス・ルール』『楽園を下さい』などで、実力を示して来た演技力の持ち主。童貞チックなナイーブさを持った未熟な若者が、過酷な体験を通じて成長し、奇妙な老成した雰囲気まで漂わせる……。彼の代表作に通底する、彼ならではの存在感の発揮である。
だが、今作はちょうどその逆パターン。妻と子供、頑迷な父やムショ帰りの弟の心情まで理解する人格者の彼が、戦地から帰還した時には精神的に破綻した人間になっている。こりゃあナイスキャストだ。
演技的には後半が圧巻で、帰還した彼は完全におかしくなっているわけではない。以前のように良き夫、父であろうとし……だが、どうしてもそれが取り戻せない、という葛藤を演じる。子供に懐かれ、妻にも信頼された弟に対する劣等感と嫉妬に取り憑かれ、そういう妄想からどうやっても抜け出せない。時折戻る、理性的な眼差し……温かな笑み……だが、数瞬後には、ふたたびそれがやり場のない苛立ちと怒りにとって変わられる。
帰還した彼を出迎えた家族たちが、最初から抱えた違和感……居心地の悪さ……大袈裟な演出もなしに、淡々と、だが迫真感をもって描き出す。家中に充満するいたたまれない雰囲気。何もかもが以前と決定的に違うのに、放り出すことはできない。
事態の原因となった「戦争」に関しては、イデオロギーとして描くことを注意深く避けている印象。多くは語られない。いくつかの立場が、そっと提示されるのみだ。ただ、この崩壊した家族の姿を見れば、その悲惨さについてはもはや言葉を費やす必要はないだろう。
あ〜、しかし怖かった。並のホラー映画よりよっぽど怖い。身近な人間が別のものへと変わってしまう恐怖……これは普遍的なものだな。ナタリー・ポートマンの号泣演技や、長女役の子のコンプレックスの表現、海兵隊出身の父役のサム・シェパードの頑迷さなど、キャスティングの精度の高さも素晴らしい。
新しさはないが、丁寧に作ってある作品。こういう作品こそ大事にしたい。
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