『ボトルネック』米澤穂信

ボトルネック (新潮文庫)

ボトルネック (新潮文庫)

 初読み。


 事故死した恋人を弔うために、彼女が転落死した崖を訪れたリョウ。だが、何かに誘われるかのように崖から落ちた彼は、気がついた時、故郷の金沢へと戻っていた。しかしそこは、死んだはずの兄が生きており、別れたはずの両親が共に暮らし、そして知らない「姉」の存在するもう一つの世界だった……!


 性格暗くてダメな主人公と、明るくて頭の切れる「姉」の対比がやたら強調される。もう一つの世界では死んだはずの人間は皆生きていて、それは姉の存在故であり、主人公の「不在」故であった……と言うのが、まあ途中でだいたいわかるのだが、それがそっくりそのまま捻りなく作品のテーマでもある。


 ……と、そういう風に規定された世界の中の描写としてはよく書けてると思うんだけど、読めば読む程、主人公がそういう人間だからこういう結果になった、とは思えなくなる。もともとそういう風に「ダメな主人公」と「良く出来た姉」に分けて設定された世界そのものが存在し、出てくる人間はすべて、単にそのテーマをなぞって、粗筋通りに動いてるに過ぎないように思える。要は綺麗すぎるのだ。姉のおかげで銀杏の木が切られたら、人が助かる。犬のウンコが木の根元にあったら、子供が死ぬ。その逆は決してありえない。貫井徳郎『乱反射』と同じ臭みを感じる、筋書きありきの箱庭の世界だ。


 そういう世界で苦悩する人間を見ても、そういう設定なんだからしようがないっしょ、としか思えない。共感しようのない作り物だ。唯一、その世界をぶち壊して脱出することを、主人公にも姉にも期待したのだが、彼らは狭い世界のルールに従って、そこにあり続ける。


 SFの短編でこんな話、誰かがとっくに書いてないか? う〜ん、なんだこの薄っぺらさ。何がボトルネックだか。世界は瓶じゃねえよ。


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