『ハート・ロッカー』


 アカデミー賞制覇の戦争映画。


 イラク……アメリカ侵攻後のこの地で、駐留する米軍を狙い、爆弾テロが頻発する。班長を失った危険物処理班に新たに配属されたジェームズは、命知らずのプロフェッショナル。任務終了まで三十数日を残し、砂塵の中で危険なミッションが続く……。


 ガイ・ピアースがいきなり爆殺されるオープニングを経て、主人公が交代で登場……あれっ? K-1アレクセイ・イグナショフは、いつ映画デビューしたんですか? ……というぐらいレッド・スコーピオンに似ていた主演のジェレミー・レナー、『28週後』で見たはずだが、まったく記憶にない。


 爆弾処理の緊迫感と、熱砂のイラクの暑気がひりひりと伝わってくる演出が素晴らしい。
 周囲の民間人を退避させるも、遠巻きに見守る彼らの中に、爆弾犯が混じっていることも想定される。起爆を匂わせる動きがないか警戒しながら、肝心の爆弾を解体せねばならない。砂の中……車の中……そして……。爆弾はあの手この手で隠され、起爆装置も容易にその姿を見せない。手動での起爆……時限装置……あらゆる状況下で、処理班は命を賭けて解体に挑む。


 主人公の軍曹は、しれっとした怖れ知らずぶりを見せる。しかし、そこから感じられるのは肝の座った強さではない。もはや危険に対する恐怖が麻痺したかのようにさえ見える、非人間的な何かだ。およそ人間のやることと思えない非道な爆弾テロに対し、そうやって何かを「止めて」しまわない限り、生き抜くことが出来ない。


 三十数日に渡る、いくつかの爆弾解体の任務を、映画は淡々と追う。今日は一日生き延びられるだろうか……? そんな問いが繰り返される。一つの事件、一つの爆弾、一つの死……。その先には、何も見えない。戦いは終わらず、爆破は繰り返される。何人かの犯人を射殺するが、何も変わらない。
 観ている間、「早く終わらないかな」と思った。映画のことではない。主人公たちのいる状況が、だ。悲惨で、救いがなく、なんの情感もない。ただ人が瞬時に死体に、あるいは文字通り「粉」に変わる。これが、戦争だ。これが、イラクだ。これが、僕達の生きている世界だ。
 もちろん、何も終わらない。何も変わらない。憎しみの連鎖はただ続き、処理班の任務も決して終わる事はない。


 あくまで地味に徹し、リアルなロケーションで緊迫感を再現。よく出来た映画だったなあ。少なくとも『アバター』よりは賞に相応しいよ。ジェレミー・レナーの顔と名は覚えておこう。