2009/12/31 Dynamite!!〜勇気のチカラ2009〜 試合感想後半

 続きです〜。
 結局放送無しは3試合。圧勝過ぎる試合とグダグダ過ぎる試合がカットか?

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▼第10試合 DREAM×SRC対抗戦 Round.5 フェザー級 5分3R
○所 英男(チームZST/DREAM)
判定3−0
●キム・ジョンマン(韓国/CMA KOREA/KTT/SRC)

 所は大きい打撃を打てるようになって、強くなったなあ。多少劣勢になっても、一発で引っくり返す目が出て来たし、コンビネーションもいい。そうは言ってもサンドロ相手ならぶちのめされ、DREAM勢の負け越しが決まってたろうが……。
 ジョンマンもやっぱり緊急オファーと言う感じで、スタミナなかったね。後半、返しのフックがボディに行くのは、疲れてるから上に打てないという単純な理由で……。それでも一発当てて盛り返したのは良かったが、15分の間にあそこしかチャンスがなかったというのは、他の局面で圧倒されてたから。
 フェザー級勢が惨敗する中、一応勝ったんだから、所はビビアーノと共に敵討ちに乗り出すべきだな、うん。次はサンドロ戦で……。


▼第11試合 DREAM×SRC対抗戦 Round.6 ライト級 5分3R
川尻達也(T-BLOOD/DREAM)
判定3−0
横田一則GRABAKA/SRC)

 横田の会見での挑発、川尻の魔裟斗戦での売名も虚しく、見事にカット。非総合ファンから揶揄されがちな、男同士が抱き合ってる試合の典型だったらしいが……。
 総合ファン的には、あれだけ寝技から逃げるのが上手い横田をあそこまで押さえ込み続ける川尻すげえ、という、川尻VSブスカベ戦みたいな評価でいいのかな? DVD買ったら一応見ようか……いや、どこにでも動画があるんだろうが、もう面倒くさい。


▼第12試合 DREAM×SRC対抗戦 Round.7 フェザー級 5分3R
金原正徳パラエストラ八王子/チームZST/初代SRCフェザー級王者/SRC)
判定3−0
山本“KID”徳郁(KRAZY BEE/DREAM)

 相手がやや大きいことを考慮してか、以前の飛び込むスタイルに戻して来たKIDさんなんだが、金原は完全に想定済みという感じで、ヒザと右ストレートを突き刺して来る。2ラウンドにはあわやジェヒ戦の再現かと思われた前のめりっぷり。最終ラウンド、意地で左をぶち込んだのはさすがだったが、金原は余力充分。
 んん〜、レスリングだめ、ムエタイスタイルだめ、K-1ルールだめ、以前のスタイルもだめ、ここ2年でKIDさんの全てが否定されたかのような空気が満ちている。KIDさんが変わったのか、格闘技界が変わったのか、まあ両方だと思うし、あんだけテレビでビッグマッチやり続けた人は何をやっても研究されてしまっているということもあるんだろうが。
 「3連敗すると引退考えるんですよね」と、また須藤元気がお気楽にキラー発言をかまし、追いつめられたKIDさんに強烈な意味付けを与える。「総合はまだ2連敗」と言い張って続行するだろうけど、次は本当に後がない。
 宇野、秋山がUFC行きする中、変な義理堅さを発揮して日本に留まったのだから、もう逃げ場はない。次はとうとう所の踏み台になる番なのか?


▼第13試合 雷電杯ヘビー級 5分3R
吉田秀彦(吉田道場
判定3−0
●石井 慧(北京五輪柔道100kg超級金メダリスト)

 雷電杯ってなんだ? むしろ「歌手に君が代を歌わせる」ためだけに急遽ねじ込まれた設定とさえ思えてしまったのだが……。
 まったく届かない距離で、力強いワンツーを伸ばす石井。ガードは下がるし、踏み込みは浅いし、まったく当たるような気がしない。会見の欠席など、正直言ってこれは、自信がなかったからビッグマウスは自粛したということではないのか? 事前情報では「センスがない」などと散々な言われようだった石井の打撃だったが、確かにその通りだというしかない。逆に右をかぶせて圧倒する吉田。
 コーナーに詰めた後、ヒザを打ったり足を取ろうとしたり、色々やろうとした必死さは買うが、強烈な金的をぶち込んでしまった辺り、やはり経験不足は否めなかった。
 現行のルールなら、せめてテイクダウンは取れないと勝てないんだが、吉田が重過ぎて動かず。

 ふ〜、やっぱりデビューが一年遅かったね。去年なら、曙戦でデビューできてたのに……。それか若翔洋でも戦闘龍でも良かったし、K-1ファイターでも良かったんじゃないかw 一年練習してしまったために、もう言い訳が効かない。吉田にきっちり経験の違いを見せつけられてしまった。
 そうは言ってもまだ初戦だし、柴田みたくまずはプロレスラー相手にやりなおせばいいと思うんだが、ギャラがアレなのかね……。


▼第14試合 DREAM×SRC対抗戦 Round.8 ヘビー級 5分3R
アリスター・オーフレイム(オランダ/ゴールデン・グローリー/初代ストライクフォース世界ヘビー級王者/DREAM)
KO 1R1分15秒 ※左ヒザ蹴り
藤田和之藤田事務所/SRC)

 藤田また小さくなったか? 何の迫力もないが、アリスターは相変わらずでかい。見合っても距離が違い過ぎて、藤田のフックはまったく届く気がしない。左のヒザを狙うアリスターだが、シュルトさんばりに斜めの軌道から上がって来る。これは藤田は見えないだろ……。
 そして唐突に訪れたフィニッシュ。アリスターは左インロー、右フックから左ヒザ! 教科書通りの散らしで、藤田はガードしようとしたんだけど、ヒザというよりはハイキックの軌道だったね……。
 顔面を抑えてロープからはみだす藤田。その時は「イタタタタ!」という感じだったが、しばらくして意識が飛んだか、瞳孔全開でぴくりとも動かず! いやあ、いつの日かビッグイベントで死人か再起不能の事故が起きるんじゃないかと思うのだが、それがこの日だったかと一瞬考えてしまったよ。島田のストップもクソもないナチュラル(ただし薬物疑惑あり)な事故という感じで、ヒヤヒヤしましたね。
 え〜、やっぱりあまりに実力差が大きいマッチメイクはやめた方がいいと思います。


▼第15試合 DREAMヘビー級ワンマッチ 5分3R
ゲガール・ムサシ(オランダ/team Mousasi/Red Devil International)
TKO 1R1分34秒 ※レフェリーストップ
ゲーリー・グッドリッジトリニダード・トバゴ/フリー)

 放送無し。意義も何もない、時間の無駄なマッチメイク。ロートルいじめ。こんなことやってるからアメリカに逃げられるんだろ。


▼セミファイナル(第16試合) DREAM×SRC対抗戦 Round.9 ライト級 5分3R
青木真也パラエストラ東京/DREAMライト級王者)
一本 1R2分17秒 ※アームロック
廣田瑞人(フリー/SRCライト級王者)

 テレビではこれが放送最後。廣田は危険察知が遅れ、腕を取られてしまった時はすでに終わっていた。意地でタップはしなかったが、そのままポキッ!
 いや〜、青木強い! 完全にプラン通りの試合運びか? そして横たわってうめく廣田に中指を突きつけ、そのまま観客席にもファッキュー! 小川の前で飛行機ポーズを敢行し、折ってやったぜとばかりに右腕を指し示す。いや〜、凄過ぎる。勝ち誇ったような態度も含め、存在そのものが放送事故w 最近の彼をプロレスのヒールになぞらえる声をよく聞くが、ヒールってのは「憎まれ役」を敢えてこなす人のことと思ってたが……。そんな上等なものじゃないだろう。マニア向けの小ネタの脈絡ない連発、ガチの強さと対照的ににじみ出る人間性のウンコっぷり。試合後に謝罪したそうだが、廣田に謝ったわけじゃあるまい。もてはやす人間もいることだし、間違いなく何度でも同じ事をするだろう。
 タップしないのをへし折るのは当たり前のことだろうが、仮にも王者がいけないフィンガーポーズを取るというのはいったいなんだろう。廣田は会見でも大人しいもので、癇に障るような発言と言えば「試合がつまらない」「子供だな」ぐらいのものか? 意趣返しならば「試合は秒殺一本で面白い」ということを見せつけた上で、きっちり礼儀正しく「いや、大人です」というところを見せるべきなんだろうが、

「そうだよ〜! 僕は子供だよ〜! わ〜い!」

と言わんばかりの挑発。大友克洋の『童夢』みたい(笑)。社会性がママと中井さんと笹Pぐらいのとこで止まっているんだな。だからと言ってその人たちに責を負わすのは酷だろうが……。

 そして……なんだろう、この映像を、いくら視聴率下がる時間帯とは言え、ニッポンの大晦日のお茶の間に平然と流してしまうTBSは……。「格闘技とは残酷なもので、敗者は全てを失い勝者に辱められても受け入れなければならない過酷なものなのです、それを体現するのが青木真也!」というポリシーのもと番組作りをしている……んじゃねえよなあ、もちろん……。

「あ、これも二分ぐらいで終わったのか、ちょうど入るじゃん。さっきの抱き合ってばっかだった試合と、わけわかんねえ外人の試合よりいいだろ。編集もしなくていいし」

「え? でもこの試合最後にちょっと……」

「は? いいよいいよ、時間ないんだし。早く終わったんだからKOなんだろ! え? い……一本? なんでもいいよ! もう時間ねえんだから早く流せ!」

……というようなやり取りが現場であったかというと、それはありえないだろうけど、格闘技のイメージのこととか何も考えてないのは間違いないよね。むしろ悪意があるようにさえ思う。

 まあでも、今後こういうシーンが繰り返され、他の選手によってまでファッキューがされるようになれば、僕はもうそのイベントを見るのはやめますよ。DREAMは、ほんとに今回の青木のフィンガーアクションがいかんと思ってるなら、罰金なりなんなりのルールを作るべき。ほんとに熱くなってやったんなら、それでもやるでしょう。そうじゃなくてこれは、「かわいがられてる人間」の暴走じゃないんですか?

 この試合の写真はいろいろあったが、GBRのレポートの島田が顔を覆ってる写真がオススメだな。打撃でボコられるのには無頓着なくせに、こんなところでだけ神経細いふりするなっつうの(笑)。


▼メインイベント(第17試合) 魔裟斗引退試合 K-1ルール 3分5R延長1R
魔裟斗(シルバーウルフ/K-1 WORLD MAX世界トーナメント2003&2008優勝)
判定3−0 ※50−48、50−47、50−48
アンディ・サワー(オランダ/シュートボクシングオランダ/K-1 WORLD MAX世界トーナメント2005&2007優勝)

 大晦日の魔裟斗ってのは、仕上がりの出来不出来はどうあれ、「パンチでも打ち合って倒しますよ」と言いながら、きっちりローキックで沈めてしまう試合の繰り返しだった。大口を叩きながらも絶対に負ける闘いはしない……それが今までの戦績に結びついているし、その良くも悪くもズルいところがある意味魔裟斗の本質なのではないかと思う。
 今度の試合前、「かつてなくパワーアップしてる」「何ラウンドでも関係ない、倒すから」と発言。これをラストマッチ、自らの集大成へ向けた意気込みの現れ、過酷なトーナメントを回避して選択した調整の仕上がりへの自信からの「本音」と捉えた者は多かっただろう。僕もそうだった。ボクシングとローの距離で、壮絶にコンビネーションを回転させて打ち合う試合を想像していた。だが、その裏で、魔裟斗とその陣営は、それら全てをフェイクとし、常の試合と同様、あくまで手堅く勝つための戦略を練っていたのだ。

 1ラウンドは正直イーブンで良かったと思うが、ここで見せた右フック。サワーの正面のブロックの横から叩き付ける軌道。去年から魔裟斗は右フックも使うようになったが、カラコダ戦のKOは顎にねじ込むような一発だったのに対し、外からやや回すような一発。フィニッシュブローとしてイメージしてるのはこれか?
 今回のポイントは切れを増したジャブと、常より多用した右ロー。左ジャブで先手を取り続け、サワーにブロックさせる。それによって前進を止め、サワー得意のコンビネーションの距離に入らせない。もちろん序盤はサワーも無理に入ろうとせず、ここで得意のインローを返して来る。だが、魔裟斗陣営はこれも想定済みで、すぐに右ローにつなげ、効かせられないまでも一発でもインローの数を減らすことにこだわった。サワーが崩れればブロックの脇から右フックを叩き込み、プッシングで距離を取る。
 ローで削って得意の連打の距離に持ち込む、というのがサワーのいつもの戦略なのだが、これを距離を外す事で封じ込めたのが先のブアカーオ、ペトロシアンだった。魔裟斗はそんな器用な真似はできないだろうし、そんな考えはなく打ち合って来る……と思いきや、やったのだ、その器用な真似を! ジャブで突き放し、回転のあるフック、ボディ、飛びヒザの当たる距離に入らない。ローとワンツー以外の攻撃は出させないぞ、という戦略だ。
 ジャブと右ローで固めた後でフック系のパンチを当て、突き放す。サワーの前進を許してしまうバックステップも多用しない。
 て、手堅い……。4ラウンドまで、サワーの右のクリーンヒットは一発のみ。これは効いたと思うが、後が続かない。果たしてイライラがつのったか、やや強引に出てフックを狙い、ローキックをつなげたサワーに魔裟斗の右フックが直撃! ちょうど体勢が崩れたところだったせいか、ばったり倒れてダウン! ああ……あせって距離を間違えたか……魔裟斗戦特有のプレッシャーと言うか、2007年のブアカーオもこれにはまったのだ。
 そこからしかし怒濤の反撃を見せ、魔裟斗をぐらつかせるサワー。今度は完全に効かせたが、魔裟斗は踏みとどまってこらえる。サワーが前に出るのに合わせてクリンチまで使って……!
 うん……そう、この瞬間になんとなく感じたこと。魔裟斗は「一番強いままやめる」と言っていたが、それは単に「地位」のことでしかなく、打たれ強さも含めて自分がもう下降線に入っていることに気づいていたのではないか。試合後のインタビューでサワーは、「思ったよりパワーも強さも感じなかった」と言っていた。それは負け惜しみではなく、実感だったのではないか。「強くなっている」と連呼しながら、実は魔裟斗自身、フィジカルが上がる一方で着実な衰えを感じていたのではないか。そしてその自覚こそが、今回の試合で正面切って打ち合うのではなく、距離の間隙を突いて手堅く戦う策を選択させたのではないか?
 最終ラウンド、しかしその戦術もサワーの強打の前に崩壊寸前。が、魔裟斗は残った貯金を吐き出す勢いで前に出る。温存していた打ち合いで、サワーがリズムに乗り切る前に封じ込めようと言う、これもまた戦術だ。果たして、最終ラウンドは五分のまま終了。
 判定は無論、魔裟斗

 晴れ晴れと引退して行く魔裟斗を見つつ、なにか釈然としない気持ちが残るのは、この「だまされた……!」という感覚だろうな。魔裟斗が求めていたのは、引退試合でのサワー相手の「勝利」ただ一つで、KOなど出来たら儲け物、ぐらいの感覚だったのだ。
 4月の引退会見以来、魔裟斗はずっとこのシナリオを練り上げ続けていたに違いない。ファンの期待するKO勝利を目標に掲げ、得意のビッグマウスを叩く。雑誌媒体が競って書き立てるフィジカルトレーニングでパワーアップの幻想を最大限まで煽る。試合をしてないんだから、マスコミはそれぐらいしか書く事がない。そしてその幻想に真実味を持たせ、内心感じていた弱体化を覆い隠すため、絶対に負けるはずのない立ち技素人・川尻を生贄としてKOで葬る。やはり魔裟斗強い、魔裟斗パワーアップしてる、去年のダメージももうないし、大晦日は怨敵サワーを倒すためにバチバチの打ち合いを見せる……そんなイメージを作り上げた。その裏では、サワーの距離を外し打ち合いを避けて封じ込めるための戦術を着々と用意していたのだ。
 そう、全てはフェイクだったのだ……! この大晦日の引退試合、「勝って終わる」ためだけの……!

 このプラン全てが瓦解しかけた瞬間、それこそがペトロシアンの圧倒的優勝だった。だが、骨折が発覚。彼への挑戦は流れ去る。「サワー戦は運命」。今なら魔裟斗がそう言い切った理由がわかる。人が運命を感じる時……大金が手に入った時、好みの異性に巡り会った時、全てが自分のために上手く転がっていくのを感じた時……! 自分を初めてKOするかもしれない最強王者が消え、プラン通りにサワーに落ち着いた瞬間、魔裟斗は本当に強くそう感じたに違いない。天はオレに勝って終われと言っている……!

 壮大な、あまりに壮大な引退絵巻。巨大なカリスマとして膨れ上がった自らの発言の影響力を最大限まで発揮し、この舞台をしつらえる。試合など、後は盤上の駒を予定通りに動かすに等しい。そのための競技力も無論、彼は兼ね備えている。類い稀なる自己プロデュース能力と競技力の両輪、彼はそれを最後まで使い切り、競技力が衰えバランスが崩れる寸前に、全てを完結させたのだ。
 まさに武蔵流ならぬ「魔裟斗流」、小比類巻など遥かに凌ぐ「ストイック」さと「ナルシシズム」を持ち合わせ、須藤元気よりも遥かに「トリックスター」であった。それこそが「魔裟斗」だったのだ……!

 いや〜、やられたね、まったく。自分を大きく見せながら、身の丈にあった戦術を幾重にも用意しておくクレバーさ。まさに一世の巨人であった。彼より強い選手は出て来ても、こうして歴史さえも動かすほどの人間が再来するには、今後十年は待たなければいけないだろう。
 しかし、最後の最後で打ち合いへのアンチテーゼを提示して、「勝ちゃいいんだよ!」と去って行くあたりがまた小憎らしい。さらば、そしてありがとう魔裟斗。2002年以来、たくさん楽しませてもらいました。そして魔裟斗劇場、最後の公演をきっちり締めくくってみせてくれて、ありがとう。もうアンコールはしません。あなたのことは、きっと永遠に忘れないよ。

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