『機動戦士ガンダムUC9 虹の彼方に(上)』『機動戦士ガンダムUC10 虹の彼方に(下)』福井晴敏

 ついに明らかになる、「ラプラスの箱」の最終座標。立ちはだかるネオ・ジオンの残存艦隊を前に、単艦で挑むネェル・アーガマ。背後からフロンタルのシナンジュと、リディのバンシィが迫る中、バナージはユニコーンを駆り、ついに「箱」へと到達する。宇宙世紀の始まりに秘められた、その秘密とは?


 ふい〜、終わった終わった。とてつもない大作だったね……。
 明かされる箱の正体の地味さ加減に愕然。「宇宙世紀」という設定を考え抜いて作ると、なるほど、こういうテーマになるか。
 テーマに関しては、「ニュータイプ」にしろ「父と子」にしろ「連邦とジオン」にしろ、徹底的に練り込まれ、きっちり着地させている。娯楽作家としての福井晴敏が一級であることを、また証明してみせたと言っていいだろう。ただ、やはり元からある『ガンダム』という素材を福井ワールドに落とし込みすぎたきらいは感じられるし、ガンダムらしいタームを万遍なくまぶしてあるにも関わらず、どこか座りの悪い部分もつきまとった。これが『逆襲のシャア』後のガンダムの正史として認識されることに、若干の抵抗感もある。


 なんというか、カッチリまとまりすぎてしまっているんだよね。やはり富野ガンダムの混沌というか、テーマ性のみに走らないところ、どこかすっきりしないものを抱え続けるストーリー展開に対して、綺麗になりすぎてしまっている。奇跡が起こってアクシズの地球落下が回避されてる一方で、ハサウェイがチェーンをぶち殺しているような、ああいう落ち着かない気持ちに欠ける。ファーストやZの、テレビシリーズであるがゆえのその場のフィーリングで作ったような澱みがなく、ある意味ブランドが確立された恵まれた状況で製作されたことが完成度を高めた代わりに、「歴史」の中にあるべき不条理や矛盾が失われ、閉じた世界になってしまったような気がするな。


 フル・フロンタルに、他のキャラクターが投影した「シャア」像の貧困さ(絶対的なカリスマ……)も、もったいなかった。ここらへんを描き込めば、逆にこのフロンタルと言うキャラクターの危険さ、空疎さももっと出たと思うんだがなあ。シャアっぽい台詞をしゃべるが、まったくキャラがシャアじゃなかったからね。生身のシャアを知る人間が、幼児期のミネバ以外、誰一人出て来なかったからな。
 シャアと言うキャラクターの、強固な意志など感じられない、女の扱い一つとってもどこか行き当たりばったりなところ。「やってみるさ」という台詞に象徴される、何も確信が持てない中で戦い続けている、当たり前の人間臭さに対して、フロンタルの抱えた「シャア」的イメージはあまりに薄いのだ。「シャアってかっこいい!」という「誤解」はポピュラーなイメージだが、それをそのまま盛り込んでしまったことで、設定等ここまで練り込んだ作品の中で、富野作品に大きく及ばない部分を印象づけてしまったように思う。


 とはいえ、ファンにこんな口を叩かれることを承知の上で、「それでもオレがやるんだ!」と真正面から取り組んだ作者の勇気と決断には敬服する。『G』以降のパラレルワールド路線や、世界観しか共有しない『0083』などの何かが足りない作品群とその作り手に対し、その志の違いは群を抜いている。こうしてこの『ガンダムUC』という作品を完成させ、宇宙世紀の正史の一部を我が物とする位置まで、『川の深さで』で「任務完了……!」をやってた作家が上り詰めたその事実。この作品の善し悪しを別にして、そのこと自体には圧倒される思いである。ファンがいくらほざこうが、すでに『ガンダムUC』は歴史の一部、それもかなり重要な部分になってしまったのだ。行動する人間が勝つ! 作ったもん勝ち! 恐るべきエゴイズム!


 今後、福井ガンダムの第二弾があるかどうかは知らないが、『SEED』『00』の路線と並ぶ二枚看板となる可能性は秘めているように思う。そうなると、当然「アナザー」である前者に対し、福井ガンダムは「スタンダード」ということになってしまう! ガンダム見て育った世代の作家、言うなれば一ファンでしかなかった人間が、正真正銘本道である宇宙世紀の担い手として君臨するのだ。書くものは全くトミノ的でない人間が! これほどに自尊心を満足させることもないのではないだろうか? よく新たなテレビシリーズを撮る監督が「歴史あるシリーズに対してプレッシャーを感じ……」なんてことを殊勝に言っているが、福井晴敏はそんなお仕着せのコメントなど、ぶっちぎりに超越してしまった!
 言うなればまさに……


「オレが、ガンダムだっ!」


 色々と不満もあるが、それでも面白い作品だったと思うし、映像化も楽しみ。今回もクシャトリヤの活躍は最高過ぎたね。マリーダは『スパロボ』でこそ生き延びようぜ! バンシィあげるから!
 そして、次の福井ガンダムでこそ、本当に本当の福井キャラである「ヒイロ・ユイ」の登場を希望するぜ!

ROBOT魂[SIDE MS]  ユニコーンガンダム (デストロイモード)

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