『劇場版マクロスF イツワリノウタヒメ』


劇場版マクロスF?イツワリノウタヒメ? [DVD]

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 テレビ版に新設定を加えて、前後編で映画化。


 ……だったんだな、いや〜てっきりこれ一本で独立してるのかと思ってたんだが、思いっきり途中で終わった。トータル9時間強のテレビ版が、2時間2時間の前後編になり、なおかつ大筋はそのまま、ということで、かなり刈り込まれた印象。アルトとランカが最初から知り合いだったりする。
 う〜ん、この作品の三角関係というのは、ほぼ同時期に出会ってるからこそ、ランカとシェリルが対等なんだよなあ。後から出て来た方が分がいいに決まってるじゃないか。


 個人的に、この作品を評価したのは本当にテレビ版のラストを見てからで、そこに到ってようやくヒロイン二人の設定とキャラクター性、「ヴァジュラ」という「敵」のスタンス、それを利用せんとする人間の思惑、「歌」が歌である意味など……それら全てが結実していた。
 キャラクターの関係性はベタでありふれているし、こんなドンパチやってる中でなんで歌うねんという突っ込みには、作中だけの苦しい解釈が提示されるばかり。映像、演出の完成度、楽曲の素晴らしさ「だけ」で見せる作品と思っていたのだが、最後の最後で、延々と続けられてきた背景の描写、特に「ヴァジュラ」の細かい行動の意味が明らかになり、それら全てがシリーズ通したテーマ性と合致して、奇跡的なエンディングを迎える。


 ……が、どうもこの映画版は、そういったストーリーを描くにはまったく尺が足りそうにない……。
 グレースはこの前半からすでに「たくらんでますよ」オーラ全開、ついでに尻も乳首も見せた。「ヴァジュラ」の行動も、ほんとうにさわりだけしか描かれず、こともあろうに「ギャラクシーの陰謀」で片付けられている。これは後編でミスディレクションとして処理されるだろうが、それにしてももとから争っていた船団でもなし、背景説明無しに陰謀論とかスパイとかを持ち出されてもなあ……。


 陰謀論者、陰謀論で話が進行する世界って、ものすごく狭く感じられるんだよね。広大な宇宙で異文化と出会うのが「マクロス」シリーズで、「フロンティア」という作品は「それにしても、こんな怪獣ムリムリ!」と提示した物ともわかり合ってしまった、そのテーマを忠実になぞった作品だったのだ。だが、この前編を見る限りでは、その部分を描き切れそうにない。


 代わりに何が描かれているか……いや、残ったかと言えば、それは個人の物語なんだな。ランカが前に進むまで、アルトが自分を認めるまで、シェリルが他者を認めるまで……それはそれで別に悪い話じゃないんだが、テレビ版ではそれがきちんと描かれていた上に、まだ多くの要素があったわけで……。陰謀論と同じく、何でもかんでも個人のアイデンティティの確立とつながる話というのは、どうも狭苦しい。「マクロス」シリーズは広大な宇宙で(以下略)。


 さて、いみじくもミシェルさんから「また逃げるのか」と言われる主人公、早乙女アルトさんなんだが、彼に関してだけは、テレビの時から何がいいのかさっぱりわからない……。今回は尺が短くなって決断が早いから(笑)、そんなに優柔不断に見えない。歌舞伎役者時代の描写が弱く、いったいそこの何から逃れてきたのかもよくわからない上に、「役者」であるという設定が、今のキャラクターに何一つ投影されていない。直情的で鈍感で、もっとも役者に向いていないタイプに見える。さらに、いくら才能があっても若手がすぐに評価される世界でもないはずだろう。それに、「逃げて」きてから出会ったであろうミシェルが、いったい何を差して「また」とか言ってるのかもよくわからない。これは兄弟子の台詞で充分なはずで……。
 要は「少々女性的なイケメン」というカテゴリのためにしか、この元役者という設定の存在意義がないんだよなあ。「役者」から逃げ出した、という事の意味が作中で語られないために、その後パイロットになったという事の意味も希薄になる。
 「役者イヤ」→「飛びたいからパイロットになりました」という人間を、ある者は「逃げた」と言い、ある者は「背中を押してくれたの」と言い……どっちなんだよ! このせいでミシェルというキャラも、言ってる事が正しいのか正しくないのかわからんから「兄貴風吹かして厳しい事言ってみせるメガネ」という属性以上のキャラクターになれないのだ。で、ランカやシェリルがなんでこのアルト君の事を好きになったのかもよくわからない。さらに、映画では始まった時点でランカはもう好きだっていうんだから……。


 うん、やっぱこの話の人物描写はイマイチだね。今回は「オズマ&ブレラ」の「ダブルお兄ちゃん」そろい踏みが見られたのは面白かった。これはスパロボでも合体攻撃してほしいなあ。


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