『スペル』


 銀行の融資窓口で働くクリスティンは、次長への昇進を控え支店長の期待に答えるべく、ローンの支払い期限延長を求めたジプシーの老婆の懇願を突き放し、彼女に恥をかかせる。その日の帰り、駐車場で老婆に襲われた彼女は、コートのボタンを奪われ、そこに呪いをかけられる。その夜から、彼女の周りで怪現象が起こり始めた……。


 「映画秘宝」のインタビューで読んだのだが、監督のサム・ライミは少年時代、父の経営する電気店で店番をしていた。ある夏の暑い日、若い夫婦が来てエアコンを買おうとしたのだが、所持金が少し足りなかった。そこでサムはあるだけの金で売ってあげようとしたのだが、父が帰って来て彼を叱り、その若夫婦を追い返してしまった。サムはその時、「困ってる人を助けないのが商売なら、もう絶対にごめんだ。もっと人に夢を与えるような仕事をしたい」と思ったそうな。


 ん〜、こういう記憶ってのは永遠にクリエーターの心に根付き、作品が作られる度に鎌首をもたげるのだなあ。このお父さんは、こういう映画が撮られ、こういうことがインタビューで語られることによって、ある意味呪われているんだろう。
 この融資を断られる寸前のお婆さんの描写が、ちょっとぞっとしたね。片目は濁ってて、咳をすると痰が黄色い。爪は汚くて、ずっと机をとんとん叩いている。歯は総入れ歯。窓口に置いてあるアメを全部持って帰る。見た目確かにすごく汚い。嫌悪感を抱け、と言わんばかりだ。だが、これこそが「踏み絵」なのだ。
 老婆の見た目と、ローンの延長は何も関係がない。無責任な支店長に判断を丸投げされた主人公には、選ぶ自由があったのだ。目の前の昇進、支店長におべっかを使うライバル、社会的地位を求める彼氏の母親、酒浸りの自分の母親、昔太っていた自分へのコンプレックス。全て、老婆から家を奪うことと何の関係もないことなのだ。だが、それら全てに突き動かされ、主人公は老婆をはねつける。


 そこからの三日間の呪いの描写は、サム・ライミ的趣味の良さ(笑)を堪能出来る作りで、まあ悪くはないんだが、もうちょっと手作り感が欲しかったなあ。CGはイマイチだった。とはいえ、肉体的な恐怖が連続で襲いかかって来るあたりや、老婆との格闘シーンの生身の躍動感など、じつにヴァーリトゥード。ホッチキスには爆笑だね。
 オチも含め、ちょっと古くさい感じは否めないが、そこらへんも含めて楽しめる。ライミファンは必見だろう。