『母なる証明』


 田舎町で起きた女子高生の殺害事件。知的障害を持つ青年が容疑者として逮捕され、刑事に誘導されるまま自供書に拇印してしまう。誰もが彼を犯人と信じて疑わない中、青年の母親だけが無実を信じ、たった一人で真犯人を探し始める……!


 ウォンビン大好きの韓流ファン、あらすじと予告編から母の愛を謳った感動作だと思って観に来た奴、ざまあ! これは、イケメン要素とも凡百なお涙ちょうだいとも無縁な、サスペンス映画なのだ!
 主人公である「母」も含め、この映画には超人的、理想的な人物など一人も出て来ない。心のどこかに浅ましさと愚かさ、矛盾を抱えた普通の人間ばかり。それら心性が絡み合うことによって、事件はわかりやすい筋書きなどないままに加速して行く。
 登場人物一人一人の心根が生み出した事象、互いに相関関係などないそれらがパズルのピースのようにはまった時、「真相」は明らかにされる。だが、「真相」はあくまで「過去にあったこと」でしかない。そして、その「真相」さえも飲み込んで、人の営為はただ流れて行く。母の愛もそれを変える事はできないのだ。


 大筋は単純なのだが、それら全てを構成する状況と人間の心理を描き切った演出力が素晴らしく、画面には一ミリの隙もない。娯楽作品にありがちな魅せる要素を徹底的に排し、リアリズムで描きながらなお、その現実感と生々しさでもって我々を画面に引き込んで行く。
 これこそ映画、と言うべき傑作だ。

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