2009/10/26 K-1WORLDMAX2009決勝 試合感想 後編
続きです。
トーナメント、その他試合、総括。
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▼第2試合 世界トーナメント準決勝 3分3R延長1R
山本優弥(青春塾/2009年日本準優勝)
VS
ジョルジオ・ペトロシアン(イタリア/サトリ・グラディエートリウム・ネメシス/2009年WKNインターコンチネンタルオリエンタルルール王者)
とにかく、山本の株の急騰ぶりは目を見張るものがあった。ドラゴ戦の内容あってこそだが、その精神力と確かな技術で脚光を浴び、「パンチはポイントをずらせば効かない」などの発言も多いに幻想を掻き立てた。もっとも、実力差は大きく、かつてのハート冷え冷えの佐藤にも膝で沈められまくったイメージもあり、今回も顔面こそ耐えるもののペトロシアンのテンカオに粉砕されるのではないか、というのが僕の予想。それでもミドルの蹴り合いの場面など作り、粘りに粘るシーンは見せるのではないか、と思ったのだが……。
ローから入る山本に、ペトロシアンはノーモーションのハイキックで応戦。コンパクトなフックを合わせ、山本の前進を封じる。速い! フックが速い! もっと詰めるかと思われた山本だが、もう自らの攻撃さえ当たらない距離まで下がってしまった。数発の打撃で距離をキープしてしまったペトロシアンは、左ストレートも伸ばして攻め込む。これも速いし、綺麗にガードの隙間を打ち抜きそう。
一分過ぎ、コンビネーションを狙った山本だが、ほぼ同時に始動したペトロシアン、返しの左ストレートをあっさりとヒットさせ、ワンダウン。もうほぼ決まったぐらいのパンチで、ピンポイントで打ち込んでる。
立ち上がった山本だが、クリーニング屋のおばちゃんたちに、余計にショックな場面を見せるだけの結末に……。正確にガードの隙間にねじ込んだペトロシアンが圧勝。
あ〜、精神力を誇るジャパニーズに「カミカゼ(笑)」と、そんなもんもクソもない圧倒的なリアリズムを見せつけて勝つ、という、正しき外国人選手の姿。これだよこれ、これがK-1。K-1の歴史は、日本人が惨めに粉砕され続けて来た敗北の歴史。これがあるからこそ、魔裟斗や佐藤の勝利の価値があるんだ。ドラゴを倒しても、高みは遥か彼方にある。でも敵わずとも挑み続けることが素晴らしいんだ。
しかしやばい、ペトロシアン。どんな技術の攻防よりも、一発のストレート、一つのKOは雄弁だ。存在としての強さを見せつける。
▼第3試合 世界トーナメント準決勝 3分3R延長1R
アンディ・サワー(オランダ/シュートボクシングオランダ/2005&2007年世界王者)
VS
ブアカーオ・ポー.プラムック(タイ/ポー.プラムックジム/2004&2006年世界王者)
youtubeの煽りで見たら、やたらとかっこ良かった二人。頂上決戦、三度。
1ラウンド、スロースタートしてしまうサワー。トーナメントを考えて、序盤からプレッシャーをかけるかと思われたが、やはりそれは本来のペースではないか。先に前進し、きっちり前蹴りの距離を合わせるブアカーオ。接近しては膝を打ち込み、サワーのフックを見切っては、組んでの崩し、足払いで倒す。
まるで、先日から「崩しor投げ」論争が起きていたのを嘲笑うかのような、意図的な「猛攻」だ。前蹴りで距離をキープし、長いパンチを当てに来たサワーのわずかなバランスの崩れを見逃さず、一瞬で倒してみせる。つかんでるのもほぼ一瞬、これではレフェリーも分けようがない。
やっぱりサワーはブアカーオが苦手だな……。ボクシングでは圧倒的に勝るはずが、この日はフルショットのコンビネーションを打てるベストの距離に、ほとんど入れなかった。もちろんブアカーオも自分のパンチの距離にも入らないのだが、ミドル、ハイ、前蹴りを駆使し、組んでは崩してサワーをコントロールする。
しかし、サワーは相当歯痒く、いらついていたろうが、それでも自分のペースも変えなかった。ここでうっかり蹴り合いにでもシフトすれば、ますますブアカーオのペースにはまる。機能しないながらもプレッシャーを掛け続け、自らのコンビネーションの距離に入ろうとするサワー。「前進」と「手数」「単発のヒット」でも判定では勝てると踏んでいたかは定かではないが、虚仮の一念、執念でブアカーオに迫り続ける。
試合は、当然のように延長へ。いや、物凄い競り合い。お互い意地になって、絶対にスタイルを変えない。自分を信じられない者に勝利などない、それを感じさせるそれぞれの戦いぶり。
ブアカーオも、もうすでに選手としてのピークは過ぎているのだろう。かつてのような凄まじい切れもなく、神懸かり的なディフェンスも、一発で昇天させるような殺人パンチも影を潜めた。だが、ムエタイの歴史は、そんな底の浅いものではない。齢十を数える遥か以前から戦い続けてきた男の引き出しは、そんな小さなものではない。距離を制し、サワーの攻撃をことごとく寸断する。今の限界ながら、完璧に仕上げてきたことが伺える。
対して幾度倒されても、意地のロー、渾身のボディを振るうサワー。ぶつかり合う執念と執念、延長もまた当然のように判定へ。
スプリットながらサワー。ワンマッチ、他の相手ならばブアカーオだったかもしれない。しかしこれは、王者を決めるトーナメント。「K-1」という「倒すか倒されるか」という様式に則って攻め続けたサワーにわずかに軍配が上がるのは、致し方ないことだ。このルール、この判定基準、この相手に対し、この戦い方では勝てない。それだけのことである。
それでも……これこそがムエタイであり、彼こそがその奥義の境地に辿り着きし者、ブアカーオ・ポー・プラムックである、それを見せつけた素晴らしい戦いだった。
▼第10試合 世界トーナメント決勝戦 3分3R延長2R
ペトロシアン
VS
サワー
満身創痍の王者サワーと、無傷で上がって来た挑戦者ペトロシアン。だが、かつてサワーを退けた前戦さえも霞むような進化を遂げたペトロシアンは、先程のブアカーオの動きをなぞるようなテクニックでサワーの距離を外しながら、信じられないような速さで打撃を打ち込んで行く。
流血しながら前進するサワーだが、やはり得意のコンビネーションの距離に入れず、必殺のクロスも届かない。接近戦でも組んだ瞬間に跳ね上がって来ている膝蹴りにボディを抉られ、得意のブロックも突き破られ、万事休す。
2ラウンドにダウンを奪われながらも、決して心は折れず前進し続けるサワー。これこそがアンディ・サワーだ。これが王者の誇りだ。
だが、表情一つ変えずに冷静に攻撃し続けるペトロシアンの牙城をついに崩すことが出来ず。
実に2005年以来の、新王者の誕生である。それもクラウス、サワーを圧倒的に飲み込んで、だからな。とはいえ、一度王者になったと言っても、まだ倒すべき相手は残っている。
ブアカーオ、佐藤、キシェンコ……彼らを倒さずして、トップは名乗れない。
そしてそれよりもまずは、今年を限りにMAXを去る、「反逆のカリスマ」だ。
魔裟斗の「大晦日、空いてる?」は、なかなか良かった。まるで女でもダンスに誘うかのような、軽い言い回し。答えは簡潔に「イエスorノー」でいいように……。
本来、格闘技ってのはそういうものなんだよな。突き詰めれば、MAXというイベントも日本の格闘技界も関係ない。強い男が一人、もう一人の強い男に自らの存在を賭けて身一つで挑む。たったそれだけのこと、魔裟斗という個人と、ジョルジオ・ペトロシアンという個人がいて、その二人が闘う、それだけのことに、過剰な意味付けも何も必要ない。飽くことなき野心と闘志でもって世を従え、自らの人生を飾り立ててきた反逆者が、最後の相手に自らのキャリアに汚点を残した男ではなく、イベント屋に色を付けられる前の無色の若き王者を選んだことは、何か象徴的に感じられる。
あらゆる野心を満たしてきた男は、最後の最後に自らの色に染め上げたMAXそのものを粉砕し、自らこそが最強と宣して終わるのか。それとも真なる最強に膝を屈し、己のかつて座った王座こそが頂点ということを証明して去るのか。……いずれにせよ、もはや彼自身には、何一つ傷はつかないのだ。
だからこそペトロシアンは、この二度と闘うことのない相手に勝たなければならない。MAXや格闘技のためなんかではない、他ならぬ彼自身のためにだ。
いや〜、なかなか面白かった。ここまでやっても最後は魔裟斗の話になってしまうあたりが、今のMAXの限界。来年以降、いかに魔裟斗の影を振り払うか、勝負はすでに始まっているぞ。
動画でざっと見ましたが、キシェンコは圧勝。相手の選手は最初は勢いよかったが、後半はガンバルマンになってしまったな……。キシェンコは佐藤と同じく、ちょっとスタミナ重視に作り替えて来てるかな?
ドラゴはコヒさんを問題にせず圧勝。しかしなんだ、コヒさんのあのジャブは……。踏み込んでストレート狙ってくれと言わんばかりの単調かつ威力もリーチもないジャブで、あの後のカウンターを狙っていたわけでもないらしいことは、壮絶なもらいっぷりからもわかった……。
日菜太はまだ見てませんが、まあ想像通り? ローブローの当たりっぷりと、最後のダウンだけ確認しとこうか。
さあ、来年はまず日本トーナメントから? ちょっと企画、面子、システムのテコ入れを考えた方がいいんじゃないかと思いつつ、淡々と続けることこそが大事なのかも、という気もするよ。
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