『サマーウォーズ』


 ネット上の仮想世界OZに依存した社会。高校の先輩の頼みで「バイト」することになった健二は、田舎に連れて行かれ婚約者のふりをさせられることに……。その頃、OZの内部では、謎のアカウント盗用事件が多発。やがて、ネット世界は崩壊の危機にさらされ、全ての事象は田舎の屋敷に収束して行く……。


 『時をかける少女』の時にも思ったが、この監督、ムードと勢い重視で、ディティール甘めなとこは相変わらず。大風呂敷を広げて一気に畳み込む手法が巧みで、かつての『僕らのウォーゲーム!』と同じくラスト1秒まで見せ切る。ネタを詰め込む時点で、掘り下げようと思えばいくらでも掘り下げられそうな部分が、かなり単純化されていて、それが何か、甘くおざなりな印象を残す。
 旧家を飛び出した妾の子という、負の臭いがプンプンと漂う設定を入れておいて、実はおばあちゃんっ子でしたというオチをつけるのにはいささかガックリした。おまけにそこに事件の発端まで押し付ける作劇には、ちょっと引いてしまう。姪の初恋の相手である、というエピソードで辛うじてバランスが取られているが、今朝、ちょうどウィニー開発者の無罪判決のニュースを読んでいたので、余計に同情的になってしまった。


 舞台になる家は、金も食べ物も家族もネット(笑)もある理想の世界で、飯食わずに格ゲーやってても怒られない。実に素晴らしい。意外に細かいところにこだわらないお婆さんは最高である。世界のために戦う事も大事で、葬式の準備も大事。世界のためにスパコンの冷却も大事なんだけど、遺体が腐らないように氷を置く事だってもちろん大事なんである。甲子園も大事だし、孫の結婚も大事だ。黒電話も大事だし、インターネットとOZも大事です。家族にも色々な人間がいて、でもそれらは全て等価である。それは妾の子であっても同じで、彼を糾弾する他の家族には、自分たちがいかなる価値観の中で育まれ、生かされているかがわかっていない。
 余所からやってきた主人公一人だけが、束の間、かすかにそれに触れる。その辺りの間合いの取り方、構成力が素晴らしい。


 ……が、なぜその理想的な世界を、田舎の旧家に象徴させちゃうのかな(笑)。これじゃ『三丁目の夕日』と同じで、あのメルヘンのような昭和35年と同じく、観客はありもしない理想の田舎を夢想してしまい、口々に古き良き田舎礼賛を唱えるんじゃないか? お婆さんのキャラクターに象徴される精神は、「田舎だから」「古い家だから」「えらいお婆さんだから」成立するものでは決してない。ストーリーに合わせて単純化した道具立てが、いかにも仇になっている。


 反面、ネット描写は一方的に悪者にされる某国(この場合の某は、金のかからないテロなら北朝鮮、金のかかるその他のことならアメリカを指す)を始め、アバター、グラフィック、DSなどえらく単純化されているのが、シンプルでいいんじゃないか。マニアックな知識を詰め込んでも面白くなるとは限らないし、監督の持ち味の映像感覚がダイレクトに発揮されていて面白い。なぜか格闘になるのは単なる趣味であろうが、クリエーターが趣味を具現化しなくてどうするんだ! ここは断じて支持するぞ!
 アクション部分の映像のスピード感も素晴らしく、最後の計算のシーンも、主人公が限界まで力を振り絞る過程がよく描けていて、思わず応援したくなる。所々入る犬のカットもいい感じ。


 なるほど〜、実際に見ると、賛否両論溢れ出るというのがうなずける映画だった。絶賛したい部分がある反面、どうしようもなくしようもない部分も目につく。
 ただ、今作は相当「売れる」ことを意識してるような気がするなあ。それが何か不必要な要素までも取り込ませたように思える。取りあえず今回ヒットはしたんだから、監督は次作以降、自分の作家性を信じて、もっと趣味に走った作品を撮ってみてほしいね。


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