『ウルヴァリン』


 試写で鑑賞。
 『X-MEN』シリーズからのスピンオフ。


 元シリーズの何が面白いって、ブライアン・シンガー監督の「アクション映画? まあそうだけど、オレがやりたいのはね……」と言わんばかりの細やかな心理描写。映像スペクタクルとして見るといささか抑制が効き過ぎな印象だった『1』『2』だったが、今作では……。


 主人公ローガンの子供時代から物語は始まる。なんと南北戦争前。ミュータントの力で実の父親を殺してしまった彼は、同じくミュータントであった兄とともに、戦地を渡り歩く。南北戦争から二度の世界大戦、ベトナム……。戦う事しか知らなかった二人だが、やがて兄は戦いと殺戮そのものに取り憑かれて行く。
 この戦地転戦がそのままオープニングタイトルなんだが、これがゴキゲンな出来。戦場を駆け抜ける異形の二人。


 二人は、米軍の秘密部隊にスカウトされ、同じような能力を持つミュータント達と組んで特別な任務につくことに……。ここで登場する他のミュータント達が、色々な立場でその後の物語に絡むのだが、それぞれにちょっとずつ見せ場が与えられていて面白いのだ。他にも、全編通して多くのキャラクターが出てくるのだが、一人も無駄な登場人物がいない。それぞれが一つの見せ場、キャラクターの心理の構成に有機的につながっている。


 そういう部分があるからこそ、アクション部分も光り輝くのだよ。強烈な再生能力を持つウルヴァリンだが、手から飛び出す骨状の突起の攻撃力は低く、兄であるセイバートゥースのより獣的な運動能力に及ばない。だが、復讐のために骨格に未知の金属「アダマンチウム」を注入する手術を受け入れ、まさに不死身の超人に生まれ変わる。
 元シリーズでは「近寄らなきゃ役に立たない能力」という印象だったのだが、今作では「どんなものでも豆腐のように切り裂く」という能力を最大限に生かし、多彩なアクションシーンを演出する。


 序盤からちょっとずつ伏線を張り、ストーリー面でも映像面でも詰め込みながら魅せ切る手腕。こいつは熱いぜ。大して期待していなかったのだが、なかなかゴキゲンなアクション映画で、シリーズのファンは見て損しませんよ。