『ウォーロード』


 ひさびさのジェット・リー主演作だあああ〜! 日本公開遅過ぎるけど……。


 太平天国との戦いで、部下全てを失った将軍。とある村の女に拾われ、一夜の関係を持つ。孤独に村を彷徨う彼は、侠気溢れる二人の山賊と出会い、互いを認め合う。だが、そこで彼は、昨夜の女が山賊の妻であることを知った……。 ある時、清軍の略奪によって全てを奪われた山賊たちに、彼は自分たちも軍に入る事を持ちかける。行きずりの人間を殺し、その血で義兄弟の誓いを立てる「投名状」によって固く結束した三人は、決死の覚悟で戦いに身を投じて行くのだが……。


 将軍にジェット・リー、山賊の兄貴にアンディ・ラウ、弟分に金城武という豪華キャスト。まあこないだの『三国志』なんかとは出来が違い過ぎて驚くし、ドラマの重厚さでは『レッドクリフ』よりも上だな。


 褒賞や家族の平安のため、と山賊を説き伏せて軍に入らせた将軍は、やがて「誰もが迫害されることのない、真に良い世を作る」という大望を語る。そして、その目的のために犠牲を厭わず、仲間さえも切り捨てる……涙ながらに。目的のためには出世と権力が必要であり、戦いが終われば不必要な武力は内乱のもととなる……。
 そんな将軍に反発し、義や約束を重んじ、家族との平凡な暮らしを求める山賊。


 対立する価値観のぶつかり合いが、画面上に提示される。卑劣ながら実効的な価値観と、実直だが理想でしかない行動。ジェット・リー演ずる将軍の行動は、アンディ・ラウ演ずる山賊の想いを理解しながらも、最終的には受け入れない。
 見えている、と思われた主人公の心の中が、いつからかわからなくなる。大義を掲げ、そのために邁進している。犠牲は全て平和な世のため……本当にそうなのか? ラストシーンに到って、彼の眼前に置かれた金色の座は、権力の隠喩だ。彼が欲していたものは、平和なのか、権力なのか、名誉なのか、安らぎなのか、愛なのか、何一つ判然としない。そういうものなのかも知れない、「本当の気持ち」なんてどこにもないのだ。真実を求めながら損得を計算し、多くのものを天秤にかけながら愛を語る。もはや彼自身にもわかっていなかったのではないか。
 かつて自らを救った山賊と、行きずりで身を任せた将軍。ともすればあっさりと「救い」として美しく描かれるかと思われた女もまた、最後に己の心を吐き出す。
 金城武演ずる末弟は、単純であるがゆえにそれらすべてを理解出来ず、愚直に誓いを守る事に固執するしかなくなる。


 いや〜、渋い! そして重く見応えのあるドラマだ。この複雑なキャラクターを演じ切ったジェット先生が、もはや童顔を笑われることもあるまい。
 『スピリット』以来の弁髪も拝めるし、題材が題材だけにないかなと思っていた格闘アクションも、最後にきっちり用意されている。非情の関節蹴りを連発するところが、またリアリスティックで最高!
 これは傑作ですよ。

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