『グラントリノ』

 妻に先立たれ、家族とも疎遠になり、愛車を磨くだけが生き甲斐の日々を送る老人ウォルト。だが、隣に越して来たモン族の少年が、愛車グラントリノを盗みに入った事をきっかけに、彼の人生に大きな変化が訪れる。心を閉ざしたきっかけはなんだったのか。人は変わる事が出来るのか。人の心に何かを残す事が出来るのだろうか。


 ガンコジジイである主人公だが、孤独であるが故の品格があり、対比される善意の方が押し付けがましく感じられる。どうしようもない偏屈な人間かも知れないけれど、そこには一本通った筋があり、決して譲るわけにはいかないのだ。ただ、その筋をメインストリームとすると、脇道にどうしても余計な意地が派生してしまい、それがその筋の美しさをスポイルしてしまう。
 描写として、芝生が大事、よそ者嫌い、人種差別主義、そういった部分があるからこそ、理想主義に留まらない人間くささが表現できる……と口で言うのが簡単なんだけど、やはりそのメインの部分がぶれないからこその表現であって、これはやはりイーストウッドの重みがないと難しいよなあ。


 春巻きと鶏肉団子の美味しさに偏見が吹っ飛んだ後半以降、モン族の少年に己の生き方を伝える中、主人公の行動がどんどん純化されていく過程の描写が素晴らしい。
 いや、誰でも思いつきそうな、ベタなストーリーラインなんですよ。でも、そのストーリーの中で、西部の地域的状況や、『父親達の星条旗』などでも描かれた戦争について、あるいは人種的問題にまで目配りしつつ、自らの贖罪までやってのける……映画でありながら、今生きている我々の抱えた問題とも密接に関わっている。傑作。

父親たちの星条旗 [DVD]

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