ああ、麗しのオランダ 第一日目



 ……というタイトルで始まったはいいが、正確には「なんちゃってオランダ」なんだな。
 今回行ったのは、

http://www.huistenbosch.co.jp/top.html

 どうだ! ベタだろう! 前回の鳥取が、市内ブラブラの貧乏旅行だったので、今回はちょっぴりリゾートしてしまおう、というコンセプトなのだ。
 しかしネットで宿も予約しちゃったのはいいが、国内旅行も回数を重ねるうちに、どんどん無計画になっていくのはなぜだろう。

名古屋(19歳)
博多(20歳)
鎌倉(21歳)
高松(22歳)
仙台〜東京〜松戸(23歳)
熊野(24歳)
水戸〜松戸(25歳)
沖縄(26歳春)
高知(26歳秋)
白馬(27歳春)
串本(27歳秋)
鳥取(28歳春 前回)
佐世保(28歳秋 今回)

 見よ、この華麗なる一人旅遍歴。人に歴史あり、とはこのことですな。とはいえこの間、ずいぶんと旅のスタイルも変わったのである。経済的余裕の増加と正社員となったストレスの増大により年二回に増えた。精力的にマップなど持って地方都市を回り続けたあの熱意は薄れた。ミステリにはまっていた時期は古本屋めぐりなどもしていたが、めっきり読書量も減った今、もうまわりに古本屋がなくとも「別にいいや、欲しい本もないし……」とまったくの無欲。出歩くのが面倒くさくなり、沖縄を皮切りに「どこにも行かずホテル(リゾート)でゴロゴロし続けよう」という企画が幅を利かせ始めたのである。
 今まで、一応旅行前はガイドブックのようなものも買っていたのだが、それも今回とうとう買わなかった。宿取って電車の時間を調べただけでぶらりと出てしまう無計画ぶり。出かける寸前、「こんなことで本当に大丈夫なのか……?」とちらと思ったのだが、内なる声は「ま、いっか……」と呟いた。うーん、きっと破滅に直進する人間というのは、たぶんこんな精神状態になってるんじゃないか。
 大体の交通費とかは計算して出て、新大阪駅のみどりの窓口へ。片道16000円ぐらいだと思っていたのだが、みどりの窓口の受付嬢に往復きっぷをすすめられる。一週間以内に帰ってくれば、1割引だそうだ。バババババと計算が執り行われ、佐世保までの往復切符とそこからテンボスまでの追加の切符、往復の特急券、合わせて十枚ほどの切符が一時に発券されてしまった。すげえええ〜、なんて有能なんだ。うちの劇場のチケットスタッフなんか比べものにならんよ。しかしそうは行っても時間はかかり、切符が揃ったのは発車6分前だった。やばっ! しかもギリギリで買ったせいで、新幹線の特急券新神戸からしかなく、そこまでは立つことになったのだった……。

 新幹線での読書は図子慧『君がぼくに告げなかったこと』。男子校で起きた死亡事件を、寮に住む学生たちが解き明かす……という青春ものテイストの作品。いやあ、出産とかなんとかあって、この著者はもう廃業したかと思っていたよ。復活おめでとうございます! 『桃色珊瑚』ほどの危うさはないが、独特の透明感は健在で、お約束のやおいテイストも全開!(笑) 恩田陸の『ネバーランド』なんかよか百倍いいよ。
 しかし今回も頭の調子は良く、内容がスイスイと入ってくる。自転車通勤のせいでめっきり読書量も減っていたが、やはりそのせいで、こういう「物語」の成分が不足していたような気がするな。ここんとこずーっとはまってた、格闘技のリアリズム、勝負の世界の厳しさ、やるせなさ、それゆえに報われるもの……。それらはもちろん必要なものだったのだけれども、それとは別にこういう小説に描かれた切なさ、美しさ、残酷さ、そして何よりも優しさは、現実の世界では簡単には触れられないものだ。忘れかけていた感触、現実の狭間で凝り固まりかけていた僕の心が、束の間、柔らかくほどけたような感じがしたものである。

 特急と合わせて4時間ほど電車に揺られたら、そこはもうハウステンボス。駅を出て川の対岸を眺めると……おおおおお、風車が回っているよ。うーん、オランダですね。
 ブラブラとホテルに移動。チェックインしたら、ちょっと市内とか出てみようかな、と当初は考えていたのだが、ついたら疲れていた。荷物放り出して一息入れる。ツインの部屋を一人で使ってるから、超広いぜ。
 転がって、会社の子から借りたマンガ『闇の末裔』を読みふける。国家公務員たる死神コンビの活躍を描いた少女マンガ、なんだが、巻を追うごとにコロコロとストーリーが変わり、現在は絶筆中という困った作品だ。これもやおいテイスト全開。で、後でわかったことだが、別に持ってきた貫井徳郎『空白の叫び』もかなりホモっ気のきつい内容で、持ってきた本すべてがBL(?)という非常に笑える事態だったのであった。
 テンボスは明日ゆっくり行くとして、とりあえず周辺の散歩。水とお菓子を仕入れ、夕日の下でぼーっとソフトクリームをなめたりして……風が気持ち良い……いやあ……気分いいですねえ……。しばらくぼんやりした後、ホテルに戻り……おお、広い中庭があるぞ。……ちょっとだけシャドーしよう。5分ほどパンチのコンビネーションとミドル、前蹴り。ああ……なにをやってるんだオレは! たまらん! この好き勝手さ加減がたまらん! いつも好き勝手やってるとはいえ、やっぱりちょっと遠慮してるんだなあ、と実感。職場は狭いしな。

 夕食もホテルで……ということで、全然出歩く必要がない。旅行というより「ホテル住まい」という感じですな。しかしレストランの生ビールはムッと来るぐらい高かったのでやめておく。トルコライスは美味でした。で、デザートバイキングも、一応全種類食べてみました……(笑)。
 部屋で『空白の叫び』読み始め。少年犯罪を扱った作品……内容に関しては明日の分に回すが、主人公の少年三人の一人が、やたらとガンプラ作りにはまっている。オレもガンダムは好きだが、プラモは面倒くさくて作らない。しかし小説は製作行程とかを細かく書いてあって、その部分はとても楽しかったのであった。で、ちょっと疲れたので何げなくテレビをつけると……「HEYHEYHEY」でGacktが出ていて、なぜかやたらと熱くガンダムの話をしているではないか! うーん、これこそシンクロニシティだね。
 1階の売店でオランダビール買ってきて、これをちびちびとやりながら続けて『のだめカンタービレ』の第一話を見る。マンガは読んだ事ないが、まあそのうち読むだろう。上野樹里はわりとタイプだなあ。飾らない感じと、いくらバカの役をやっても決めるとこではきちっと決められる知性、頭や部屋や着てるものは汚くとも存在そのものは汚れていないと感じさせる存在感、うーん素晴らしいね。そして、敗北し挫折し心の傷を背負った男が、つまらないプライドをかなぐり捨てて再び立ち上がる姿には、無条件に燃えるものがある。この第一話だけで一本のお話として完結している構成も良いですな。

 そんなこんなで夜も更け……あ………ねむ……。風呂に入って、ベッドに潜り込むと、一日目は早くも暮れていくのであった……。