エマ・ストーンよ、永遠に。『ゾンビランド:ダブルタップ』に寄せて

 その女優、エマ・ストーンとの出会いは『ゾンビランド』だった。荒廃しゾンビが彷徨う世界で、妹と共に生き抜く詐欺師姉妹の姉、ウィチタ役。のちに『EASY A』(小悪魔はなぜモテる?)、『スーパーバッド』と鑑賞。いつだったか、誰かがこう呼んでいるのを聞いた……。

ゾンビランド (字幕版)

ゾンビランド (字幕版)





「オレたちのエマ・ストーン



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ゾンビランド』より

 「オレたちのエマ・ストーン」とは何か? それは上記三作を観たところの印象によると、まあだいたいこんな感じだ。
 華のある美人なんだけど、親しみやすくて、「オレたち」つまり、しょーもないボンクラ男子の話も聞いて笑ってくれて、なぜだかいつも寄り添ってくれる存在。それでいてしっかり自己像を持っていて、自分の意志で一緒にいてくれる。ある意味、ファンタジーの具現化、善意の塊のような存在。ボンクラにとっての理想のパートナー像かもしれない。
 甘っちょろい設定だな、いねーよ、こんな女!とぶった切るのは簡単だが、彼女のキャラクターはそう言いたくない絶妙なところを突いてくる。『ゾンビランド』では男を騙す詐欺師役ということで、冷たい人間なのかと思わせるが、故郷が滅んだことを知ってショックを受ける主人公に、胸を突かれたような顔を見せる。ごくごく平凡な同情心、良心の表現だが……いや、この瞬間に欲しいものって、他にあるか? こんな平凡な優しさこそが、この世界で何より尊いんじゃあないか。このキャラクター性は、他作品にも共通する。


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ラ・ラ・ランド』より

 そんな定番とも言えるキャラになった「オレたちのエマ・ストーン」だが、その言わば最終回となったのがデイミアン・チャゼル監督の『ラ・ラ・ランド』だった。自分の店を持つとか、そんなわけのわからない誇大妄想を抱いたボンクラ男ライアン・ゴズリングを好きになって、並んで歩いてくれるエマ・ストーン
 しかし、悲しいかな、彼女には女優という夢があり、二人はそれぞれの夢のために道を違える。もうオレたちとは一緒にいてくれない。時は流れ、夢は夢でなくなり、ゴズリンは自分の店を持った。そこへ夫と共に訪れるエマ・ストーン。もしかしたら、二人が一緒にいられた未来があったかもしれない。だが、現実がつながっているのは、そうでないここだ。言葉をかわさず再び別れる二人。
 だけど、あそこで去り際に振り返ってくれるのが、やっぱりエマ・ストーンが「オレたちのエマ・ストーン」である所以なんだね。他の女優だったらシリーズを時々考えるが、あそこで振り返ってあの表情を見せる優しさ、甘さこそがエマ・ストーンなんですよ。例えばキャリー・マリガンだったら、振り返らずに店の外に出て、そこでやっと一粒涙を零すだろう。ガガ様だったらゴズリンの曲が終わった瞬間にはステージにいて、すかさず一曲決めるはずだ。ブリー・ラーソンなら……おっと話がずれた。思考実験は尽きないが、あのラストのあの味はエマ・ストーンでないと出せないんである。


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バトル・オブ・ザ・セクシーズ』より

 そして続いてやってきたのが『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』、これは史実、設定からして、まったく「オレたちのエマ・ストーン」とは関係ないことがわかっていた。エマ・ストーンが演じるビリー・ジーン・キングは、自らのセクシャリティ、テニス・プレーヤーとしての矜持を賭けて戦う。彼女の選んだ彼女の人生だ。「オレたちのエマ・ストーン」は今、「エマ・ストーンエマ・ストーン」になって、初めて自分自身のために戦っている。その戦いに「オレたち」の介在する余地はない。
 ……だけど、それは本当に関係ないのか? 今までずっとエマ・ストーンに寄り添ってもらった「オレたち」だからこそ……今こそ応援すべきじゃないのか? オレたちは今こそ「エマ・ストーンのオレたち」となって、自分の戦いを始めた彼女を支えるべきじゃないのか? 襲いかかるのはスティーブ・カレル。この男もまた自らの誇りを賭けている。重い打球に苦戦するエマ・ストーン。映画館の客席、否、コートの観客席で、自然と応援する声が出る。

エマ・ストーン! エマ・ストーン! エマ・ストーン


 その声援に応えるかのように、急角度のダンクスマッシュが決まり始め、時代遅れの恐竜を圧倒する。この日のために走り込んできた、アスリートのスタミナが尽きることはない。いけ、いけ、エマ・ストーン
 作中では、あの後に別れる夫の人が、あるいはこの心情に最も近かったのかもしれない。彼もまた愛されることなく道を違えるが……それでも束の間、かけがえのない瞬間があったのだ。



 こういった後日談を経て、オレたちとエマ・ストーンの物語は、完全に終わったわけですよ。彼女は自分の道を歩き始め、きれいに終止符が打たれた。ちょっぴり物悲しくて、でも素晴らしいラストだった。いい関係だったんじゃないかな。

 しかしそこで『ゾンビランド:ダブルタップ』が来てしまうわけなんです。
 まさかの続編は、前作から10年、作中でも10年。もうアビちゃんとか言ってられないぐらい、アビゲイル・ブレスリンもすっかり大人になっている。もちろん、オレたちのエマ・ストーンも10年歳を取った。そしてオレたちの分身ことジェシー・アイゼンバーグもまた……。
 いや……なんか心配になっちゃうんですよ。これはつまり『ラ・ラ・ランド』では「夢」として描かれた、もう一つの未来なわけです。「オレたちのエマ・ストーン」と10年経ってもまだいっしょにいられる未来。でも10年経ってオレたちは、「オレたちのエマ・ストーン」と……果たしてそんなにうまくやれてるんだろうか? 関係は、始めるよりも続けて維持していく方がずっと難しいと言われます。10年という年月が経って、「オレたちのエマ・ストーン」もまた、変わってしまったんじゃないか。
 いや、「オレたちのエマ・ストーン」が変わらず「オレたちのエマ・ストーン」のままだったとしても、オレたちは今、その優しさに値する人間であるのかな。あれから、何か成長できているのかな。甘えるばかりのどうしようもない人間になってしまっているんじゃないかな。そんな結末を避けた『ラ・ラ・ランド』はどうしようもなく正しいんだけれど、でも、それとは違う未来もあったんじゃないか……その答えが、もしかしたらここにあるんじゃないか。

 そんなわけで観てきました『ダブルタップ』。
 いや……なんかすいません、ほんと。10年経っても相変わらずコロンバスことジェシー・アイゼンバーグは、口だけの頼りないヒョロヒョロモジャモジャした男で、目覚ましい成長なんてまったくしておりません。もちろん悪い奴じゃあないですが、意思も弱くて半端に傷つきやすい、ただの男です。10年経って、二人の関係もちょっとマンネリなんだが、そこで今さらプロポーズする外した感……。
 しかしそんな相変わらずの男に対し、たまにカリカリするんだけど、やっぱり帰って来てくれるエマ・ストーンの、10年経っても変わらぬ少しも気取らない感じな……。
 ああ……なんだろうな、「いつもありがとう」……これしか言葉が見つからない……。きみがいるから、この世界には価値があるんだ。これからもずっとずっといてください。フッ、これを手放すとは、やっぱりバカな野郎だったな、ゴズリンは……!

 エマ・ストーンありがとう、ありがとうエマ・ストーン! アカデミー賞も取って、役の幅も広がって、本当に素晴らしい女優になったけど、同時に定番キャラもアップデートされ、「オレたちのエマ・ストーン」は今作でも健在だった。10年経っても変わらないもの変わったものを、作り物じゃなく確かに見せてくれた。これはリンクレイターの『ビフォア』シリーズにも匹敵する表現ではないかね。こうなると、また10年後が見たいな。10年後も大して変わらずにウダウダ喧嘩してんのかもしれないけど……でも、やっぱりいっしょにいたいね。

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ゾンビランド:ダブルタップ』より

ご無沙汰しております。最近やっていたこと

 実際のところ、映画感想も遅れがちな上になんだかマンネリだったので、思い切ってサボろうと思ったら随分と気楽になってしまいました。まあそのうち、また書くこともあるかもしれません。
 さて、サボってる間は本を読んだりしていましたが、最近はポッドキャストの編集のお手伝いなどやっておりました。
 去年、動画編集をこっそりやって遊んでいたのですが、お友達のペップさんがスタッフを募集していたので、じゃあ次は音声の編集もやってみるかと思い立ったのがきっかけです。

 今回は「ツイシネ」の『イコライザー2』回を編集しています(しゃべっているわけではありません)。他の回も面白いので、皆さん聴いてみてください。

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ルシフ様の2018年読了本

2018年の読書メーター
読んだ本の数:35
読んだページ数:10918
ナイス数:4

今夜もカネで解決だ今夜もカネで解決だ感想
予習のつもりで読み始めたが、結局当日を過ぎてしまった。50歳超えたらマッサージチェア買ってもいいかな。
読了日:01月08日 著者:ジェーン・スー
殺人鬼教室 BAD殺人鬼教室 BAD感想
積んでいたのを何気なく読んで見たら、思いのほか面白くてびっくり。作者の中では理に落ちる部類だと思うが、世界観に引き込まれて一気読み。
読了日:01月12日 著者:倉阪鬼一郎
ミステリークレイフィッシュ (双葉文庫)ミステリークレイフィッシュ (双葉文庫)感想
船上を舞台にした密室劇。このコンビの本も久々に読んだが、かつての切れはもうないか……。
読了日:01月29日 著者:飯田譲治,梓河人
IT企業という怪物 組織が人を食い潰すとき (双葉新書)IT企業という怪物 組織が人を食い潰すとき (双葉新書)
読了日:03月08日 著者:今野晴貴,常見陽平
ヒッキーヒッキーシェイク (幻冬舎単行本)ヒッキーヒッキーシェイク (幻冬舎単行本)
読了日:04月21日 著者:津原泰水
激震! セクハラ帝国アメリカ 言霊USA2018 USA語録 (文春e-book)激震! セクハラ帝国アメリカ 言霊USA2018 USA語録 (文春e-book)
読了日:04月26日 著者:町山 智浩
ユニクロ帝国の光と影ユニクロ帝国の光と影感想
8年前の本だが、ワンマンぷりを指摘された社長がまだ居座っているので、結果的に古びていない本になっている。ブラック企業を読み解くにも面白い。
読了日:04月27日 著者:横田増生
ユニクロ潜入一年 (文春e-book)ユニクロ潜入一年 (文春e-book)
読了日:04月28日 著者:横田増生
インフルエンス (文春e-book)インフルエンス (文春e-book)
読了日:04月28日 著者:近藤 史恵
女奴隷の烙印(らくいん) (光文社文庫)女奴隷の烙印(らくいん) (光文社文庫)感想
最近はシリーズ化を目指しているという話の大石圭だが、今作もその一つとなりそう。主人公姉妹の名がサラサとアリアなのは、『ゲーム・オブ・スローンズ』のような長寿シリーズになれという願いをこめてであろうか? シリーズ化したらいつもと変わらないキャラがまた違った動きを見せそうで楽しみでもある。
読了日:05月06日 著者:大石 圭
アラフォーからのロードバイク 初心者以上マニア未満の<マル秘>自転車講座 (SB新書)アラフォーからのロードバイク 初心者以上マニア未満の<マル秘>自転車講座 (SB新書)
読了日:05月15日 著者:野澤 伸吾
図解 ワイン一年生 (SANCTUARY BOOKS)図解 ワイン一年生 (SANCTUARY BOOKS)
読了日:06月15日 著者:小久保尊
スウィングしなけりゃ意味がない (角川書店単行本)スウィングしなけりゃ意味がない (角川書店単行本)感想
凄まじい情報量と身体性でナチス政権下のハンブルグを一息に駆け抜ける。戦争文学だが、踊り、歌い、演奏しているかのようなリズム感。それは歩くということでも生きるということでもある。
読了日:08月01日 著者:佐藤 亜紀
別冊映画秘宝 決定版ツイン・ピークス究極読本 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)別冊映画秘宝 決定版ツイン・ピークス究極読本 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)
読了日:08月02日 著者:高橋ヨシキ,滝本誠
わたしの本の空白はわたしの本の空白は
読了日:08月05日 著者:近藤史恵
ウンディネ (ハルキ・ホラー文庫)ウンディネ (ハルキ・ホラー文庫)
読了日:08月07日 著者:竹河 聖
春から夏、やがて冬 (文春文庫)春から夏、やがて冬 (文春文庫)
読了日:08月20日 著者:歌野 晶午
GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ (角川文庫)GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ (角川文庫)感想
まさに『WWG』とでも呼べるアニゴジ前章だが、二作目にて最高潮! 流れるような筆致で書き綴られるオタク設定、一体どれだけガイガンが好きなんだ……!
読了日:08月25日 著者:大樹 連司(ニトロプラス)
恥知らずのパープルヘイズ―ジョジョの奇妙な冒険より― (ジャンプジェイブックスDIGITAL)恥知らずのパープルヘイズ―ジョジョの奇妙な冒険より― (ジャンプジェイブックスDIGITAL)感想
第5部もアニメ化ということで、読んでなかったこれを予習で。色々とつじつま合わせに頑張っている感もあるが、意外に面白くて、やっぱり5部が好きだなあ、と実感。
読了日:09月02日 著者:上遠野浩平,荒木飛呂彦
七王国の玉座〔改訂新版〕(上)(氷と炎の歌1)七王国の玉座〔改訂新版〕(上)(氷と炎の歌1)
読了日:09月15日 著者:ジョージ・R・R・マーティン,岡部 宏之
七王国の玉座〔改訂新版〕(下)(氷と炎の歌1)七王国の玉座〔改訂新版〕(下)(氷と炎の歌1)
読了日:09月16日 著者:ジョージ・R・R・マーティン,岡部 宏之
夫婦で歩んだ不妊治療夫婦で歩んだ不妊治療
読了日:09月20日 著者:矢沢心,魔裟斗
モニター越しの飼育 (角川ホラー文庫)モニター越しの飼育 (角川ホラー文庫)感想
時々あるパターンなのだが、もう一山欲しいところであっさりと終わってしまった……。えっ、人は殺さないの?
読了日:09月20日 著者:大石 圭
王狼たちの戦旗〔改訂新版〕(上)王狼たちの戦旗〔改訂新版〕(上)
読了日:09月22日 著者:ジョージ・R・R・マーティン,岡部宏之
王狼たちの戦旗〔改訂新版〕(下)王狼たちの戦旗〔改訂新版〕(下)感想
ドラマとは違いも多いが、こっちのラムジーの登場シーンには完全に騙された! 最悪ですね!
読了日:09月25日 著者:ジョージ・R・R・マーティン,岡部宏之
剣嵐の大地(上) 氷と炎の歌 3剣嵐の大地(上) 氷と炎の歌 3感想
「穢れなき軍団」回は、文章でも最高だな……なんという名調子。
読了日:10月02日 著者:ジョージ R R マーティン,岡部 宏之
剣嵐の大地(中) (氷と炎の歌 3)剣嵐の大地(中) (氷と炎の歌 3)
読了日:10月05日 著者:ジョージ R R マーティン,岡部 宏之
剣嵐の大地(下) 氷と炎の歌 3剣嵐の大地(下) 氷と炎の歌 3
読了日:10月05日 著者:ジョージ R R マーティン,岡部 宏之
乱鴉の饗宴 (上)乱鴉の饗宴 (上)
読了日:10月07日 著者:ジョージ R R マーティン,酒井 昭伸
乱鴉の饗宴 (下)乱鴉の饗宴 (下)
読了日:10月08日 著者:ジョージ R R マーティン,酒井 昭伸
竜との舞踏 上 氷と炎の歌 (ハヤカワ文庫SF)竜との舞踏 上 氷と炎の歌 (ハヤカワ文庫SF)
読了日:10月08日 著者:ジョージ R R マーティン
竜との舞踏 中 氷と炎の歌 (ハヤカワ文庫SF)竜との舞踏 中 氷と炎の歌 (ハヤカワ文庫SF)
読了日:10月09日 著者:ジョージ R R マーティン
竜との舞踏 下 (ハヤカワ文庫SF)竜との舞踏 下 (ハヤカワ文庫SF)
読了日:10月11日 著者:ジョージ R R マーティン
震える教室 (角川書店単行本)震える教室 (角川書店単行本)感想
なかなか端正なゴーストストーリーのようですなあ、と半分タカをくくって読んでたら、『呪怨』ばりに物理的に殺しにくる奴が急に来て、悲鳴をあげたわ。怖い怖い、もう!
読了日:11月22日 著者:近藤 史恵
「最前線の映画」を読む(インターナショナル新書) (集英社インターナショナル)「最前線の映画」を読む(インターナショナル新書) (集英社インターナショナル)
読了日:11月29日 著者:町山智浩

読書メーター

ルシフ様の映画映画ベストテン

 ワッシュさんの毎年恒例ベスト10企画に参加します。

d.hatena.ne.jp


 今年は映画映画ということで、なかなか思いつかず悩みましたが、好きなところから10本!

1.喜劇王

喜劇王(廉価版) [DVD]

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 チャウ・シンチーが売れないエキストラを演じる一本。シンチー映画初体験のインパクトもあったが、戯画化された映画作りの裏側が面白い。
 って言うか、まさかの続編が公開だよ!

2.七小福

七小福 [Blu-ray]

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 ジャッキー、サモハン、ユン・ピョウの京劇時代を描いているが、この頃の師の教えは三人の映画作りにも受け継がれている。

3.ヴィジット

 シャマラン初のPOVにして、映画作りを通して自己言及する映画。

4.エド・ウッド

エド・ウッド (字幕版)

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 バートンの映画愛が爆裂する。

5.その男ヴァン・ダム

 ヴァン・ダムが映画を通して自分語り!

8.女優霊

女優霊 [DVD]

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 これは撮影したはずの映像がじわじわおかしくなるシーンが怖いのよ。

9.桐島、部活やめるってよ

桐島、部活やめるってよ (本編BD+特典DVD 2枚組) [Blu-ray]

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 ゾンビ映画映画!

10.ザ・プレイヤー

ザ・プレイヤー [DVD]

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 最後のカメオ出演が面白いので。


1.喜劇王(1999 監督:チャウ・シンチー リー・リクチー)
2.七小福(1988 監督:アレックス・ロー
3.ヴィジット(2015 監督:M・ナイト・シャマラン
4.エド・ウッド(1994 監督:ティム・バートン
5.その男ヴァン・ダム(2009 監督:マブルク・エル・メシュリ)
6.イングロリアス・バスターズ(2009 監督:クエンティン・タランティーノ
7.スクリーム(1997 監督:ウェス・クレイヴン
8.女優霊(1996 監督:中田秀夫
9.桐島、部活やめるってよ(2012 監督:吉田大八)
10.ザ・プレイヤー(1993 監督:ロバート・アルトマン

“オレはアレだ"『ボヘミアン・ラプソディ』


映画『ボヘミアン・ラプソディ』日本オリジナル予告編解禁!

 フレディ・マーキュリー伝記映画!

 二十世紀最高のチャリティコンサートとして知られるライブ・エイドのステージに立つ、「クイーン」のメンバーたちとフレディ・マーキュリー。彼らの出会い、数々の名曲の誕生、愛と確執……全てはステージ上で結実する。

 自分はまったく洋楽に無知で、クイーンとフレディの名前と、いくつかのめっちゃ有名な曲は聞いたことがあるかな、という程度。あ、吉良吉影のキラー・クイーンの元ネタだってのは知ってますよ。
 まあそんな感じだったのだが、ブライアン・シンガーの遺作(死んでないけど、まあ今後メジャーでは撮れないかもだし)ということで行って参りました。
 FOXのファンファーレで遊ぶのはシンガーらしいよなあ、と思いつつ、フレディの後ろ姿から始まるオープニング。

chateaudif.hatenadiary.com
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 登場した瞬間からすでに歌の上手いフレディの、ブライアンとロジャーとの出会い。ボーカルに逃げられて意気消沈してる二人の前でフレディが歌って見せて……えっ、なに、もう泣けてきたんですけど……。
 ブライアン・シンガー男児への性的虐待で訴えられてるし、現場じゃ腐れパワハラ野郎であるという噂も絶えない男なのだが、どうして撮る映画は毎回こうも優しいんだろうな。この後も三回ぐらい泣けてしまったが、役者の表情、クローズアップの切り取り方が抜群によくて、何とも言えず染みるのである。

 ゲイとしても知られる監督シンガーがフレディ・マーキュリーを撮るということで、ちょっとは歴史的な文脈を押さえておかないと楽しめないだろうか、と思ったが全くの杞憂。音楽でつながったメンバーの関係と、破天荒ながら裏にマイノリティとしての寂しさを抱えたフレディのキャラクターを中心に、ライブエイドに始まりライブエイドに終わる構成で一気に駆け抜ける。確執やすれ違いはありつつも、クイーンの音楽だけは不変で、反目していた家族さえもいつしか認めあうことになる。揉めることもあるが、「音楽性の違い」では争わない。実に清々しい。

 ただこの洋楽音痴のノンケ男であるオレからしてみても、実話、実在の人物ベースの伝記としてはあまりにも「引っかかる」部分がなくて、もうちょっと破綻したところもあったんじゃないの? そういうところも含めてフレディの魅力だったんじゃないの?とも思ったところ。乱脈な暮らしぶりや金遣いの荒さなどはさらっと流される程度で、性関係なども悪い男といい男が妙にわかりやすく出てきて、あまりに図式的と言うか……。「映画」でありすぎていて、現実はこんなにわかりやすくフラグを回収しないからこその実話なんじゃないの。
 シンプルにソフィスティケートされた「マンガ・世界の偉大なミュージシャン フレディ・マーキュリー編」を読んでるみたいな感覚で、『博士と彼女のセオリー』や『サンローラン』のような、実在の人物が物語的なお約束を逸脱し始めるような迫力には乏しい。

chateaudif.hatenadiary.com
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 ただまあ、結局これはブライアンら残ったメンバー他、現存する関係者が関わり許諾して作ったものなので、史実と違ったとしても、彼らが酒でも飲みつつ「フレディはなあ、ほんとにいいやつだったんだよ。寂しがりやでな……。俺たちはいつも音楽で通じ合ってた家族だった。あいつがエイズを告白した時に、俺はな……」とか何とか語るなら、それはウンウンと聞いたらそれでいいんじゃないかな。またそのうち別のクイーンの映画も作られるかもしれないし、史実に忠実なのはその時でも……。

 楽曲は本当に最高で強くて、安直に使った『スーサイド・スクワッド』の予告がバカみたいに思えてくるな。今回は歌詞もほとんど対訳がついてて、コアファンでもなく語学力もない身には非常にありがたかった。なんだかんだで好きな映画で、爆音映画祭ででももう一回見たいし、UHD買って家でも大音量でかけたいところだな。
 ライブエイドでは別に泣かなかったのだが、職場の映写窓から見たら袖や舞台下にいるスタッフ気分で見られて楽しかった。あとはあの病院の医者や患者もテレビで見ていっしょに「エ〜オッ!」やってれば良かったのになあ。

ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)

ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)

“これが地獄の業火だ”『テルマ』(ネタバレ)


【公式】『テルマ』10.20公開/本予告

 トリアー甥ことヨアキム・トリアー監督作。

 ノルウェーの田舎町で両親と暮らしてきたテルマは、大学に行くためオスロで一人暮らすことになる。だが、両親の抑圧と監視は離れても続いていた。同級生アンニャとの出会いと恋が、両親の異常な監視とテルマの秘められた力をやがて浮き彫りにする……。

 あの無表情でいるだけで笑えてくるイザベル・ユペールさん出演『母の残像』が監督一作目で、二作目はこちら。アメリカ映画ではないのでキャストは共通せず。前作は『メランコリア』ばりの野ションベンシーンが印象的だったが、今作でも発作を起こした主人公がいきなり失禁し、オシッコへのこだわりを見せつける。どうしても入れたいけど重要なところでは使えないから最初に入れた、という趣の、性癖を感じさせるシーンだったなあ。

chateaudif.hatenadiary.com
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 主人公は超能力の持ち主らしく、発作を起こすと同時に怪現象が起きる。最初は念動力っぽいのだが、生き物を操って呼び寄せるようでもあり、瞬間移動まで起きて、これはちょっと相当凄まじい能力なんじゃないか、という気がしてくる。消えた人が再び出てくるまで時間があったりして、もはやテレポートですらない。

 彼女が子供の頃、父親は一度彼女を殺そうとしたという鮮烈なシーンがオープニングにあり、過去に何かしらあったことが示唆される。成長して以降続いているのは執拗な監視だ。母親からの毎日の電話、フェイスブックによる交友関係のチェック……。そして原理主義的なキリスト教の価値観の押しつけ……頻繁に挿入されるのは魔女狩りのイメージで、なかなか露骨だな……。医者の癖に天動説やら神は七日間で世界を作った的なことを言い出すあたりも最悪なのだが、娘の手にロウソクの火を押し付けて「地獄の業火は決して消えない」と教えるあたりなど、正味、頭がおかしい。
 で、そのことを初めて「おかしい」とはっきり言ってくれた女の子を好きになってしまうのだが、能力は彼女の意思さえコントロールし始める。女の子のそれ以降の行動はすべて力によって操られたものと言えるのだろう。あの言葉だけはきっと本物だったのだろうが……。

 父親には発現していないが、どうも祖母も過去に同じような現象を起こしたらしく、薬漬けで老人ホームに入っていることが明らかに……。
 制御が効かないという点でのみ見ると、作中の発作で表現される癲癇とその患者を隠喩しているとも取れる。悲劇として語られる赤ん坊であった弟の死に関しては意見が別れるところで、病ゆえの事故とも取れるし、欲望を実現化する能力の悪しき側面とも思える。
だからと言って、母親や娘を薬物によって自由を奪い葬り去るのか、という話でもある。この父親の抱く「使命感」そのものが、まさに「魔女狩り」の元凶だったのではないかな。
 母親は息子を亡くしたことでショックで投身自殺を図り、両脚が動かなくなって車椅子生活をしている。それゆえに夫に依存する状態になっているのだが、夫が自分のやっている事に迷い傷ついている時に「あなたは悪くないのよ」と言ってあげる姿は、『ミスティック・リバー』でショーン・ペンの妻を演じたローラ・リニーの役回りに似ているな。これは過ちなのではないかと怯える夫を、正しいことにしておかねば都合が悪くなるという立場からの「永遠の嘘」で補強してあげて、それによって自らの立場をも守ると言うか……。

 そんな父親を「神」として「地獄の業火」で裁き、母親の脚を「キリスト」として癒してみせる姿は実に痛烈な皮肉になっていて、そんなものはそもそもいないのだと突きつけているかのようだ。作中の台詞でもあるが、「神=悪魔」であり「魔女=キリスト」であると言い切るような展開はなかなか大胆で、他の何者でもない「テルマ」なのだ、というタイトルにもつながってくる。

 冒頭とラストのドローン撮影がなかなか鮮烈で、まさに「神の視点」のようにも見える。『フォーガットン』ではまさしく空から見ている者の目線だったわけだが、話の内容では「神も悪魔もおらんわ、ボケ!」と言っているようで、やっぱり見ているものはいるのかな、とも思わせる。
 ラストで戻ってきた女の子も、絵面だけ見たらハッピーエンドと取れるものの、どこかしらイマジナリーフレンドのようにも見えるし、もしかしたら改めて「創造」されたものなんじゃないの、という気さえする。神かよ!
 力があろうがなかろうが、病だろうがそうでなかろうが、結局、自分は自分として生きるのだ、そうあるべきなのだ、というメッセージを親殺しと共にお届けする快作だが、そこには単に痛快なだけではなく、弟殺しも含めて絶大な力と共にその業を引き受けるか否か、という問いかけも含まれている。自由とはかくも厳しいのだ……。

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”これが俺のスタイルだ”『負け犬の美学』


映画『負け犬の美学』予告編

 マチュー・カソヴィッツ主演作!

 中年ボクサーのスティーブはわずかなファイトマネーで戦い続けているが引退も間近。ピアノを志す娘のために、学費とピアノ代を稼ぐために、妻の反対を押し切ってチャンピオンのスパーリングパートナーになることに。強打のチャンプに対し向かっていくのだが……。

 40代半ばになったロートルボクサーが主人公。さすがに引退を考えているが、節目の50戦まではまだ試合を続けていたい。ボクシングが好きなんだ……しかし13勝35敗という戦績でなかなか試合も組まれず、金も一向に稼げない。本業?はレストランの厨房で、奥さんは美容師。娘がピアノをやっているので、家にも練習用のピアノを買ってやりたい。

 そんな彼に訪れたチャンスは、復帰戦を間近に控えた元チャンプのスパーリングパートナーになること。ただまあロートルなので、奥さんは「ボコボコにされて使い捨てられるよ!」と大反対。

 果たしてスパー初日から打ち込まれ、「老いぼれじゃん! 全然相手にならねえ!」と失格の烙印を押される……。が、ここからロートルの意地、負け続けてきた者として、王座陥落したチャンピオンが現在陥っているメンタル面の陥穽を指摘することで、信用を得る。トレーナーを差し置いて作戦を提言したり、そこかしこで存在感を見せることに。

 これがさらなるサクセスにつながって、コーチ業の夢が開けたりしないところが、実におフランス映画らしく地味でシビアで、だがそれがいいんだな。チャンピオンとも通じ合う部分を見出すんだけど、別に親友になったりするわけじゃなく、スパーリングパートナーはスパーリングパートナー、チャンピオンはチャンピオンで交わらない。互いのスタイルを真似して見せるところで、大きな違いがあることを実感する。

 ただ、人にはそれぞれの生き方があり、負け犬には負け犬の生き方があるし、自分なりの人生や幸せがあるのだ。ボクシングもそれと同じで、チャンピオンが急遽ブッキングしてくれた最後の試合で、初めて脚とテクニックを駆使したファイトを見せる。ちょっとチャンピオンのファイトスタイルと通じるところもあり、ここが彼とのシンパシーの部分だったのかな。

 娘ちゃんがいい味を出していて、最初は家でピアノを弾けなくて、好きは好きなはずなんだが練習不足でド下手なのな。父はスパーのギャラでピアノを買ってやり、やっと練習できるようになる。父親の試合を見たいと言ってたのに、滅多打ちにされる公開スパーを見せて以降はもう見たくないというようになってしまって悲しい! で、花道となる最後の試合は見に来るのかというとこないのであった。ここら辺のお約束の外しっぷりもフランスだなあ。
 お父さんはこの子が「持ってるか?」とピアノの先生に聞く。ギフト、と言うか、天から与えられた才能が果たしてこの子にあるのか。自分はボクシングの才能を持っていなかったが……。
 ラストは、この娘ちゃんのピアノの発表会で締め。正直、上手いとは言えないけど、最初に比べればめちゃめちゃ上達しているし、いい演奏になっていた。好きで続けていても報われるとは限らないが、何かしらやり切ることが重要なんじゃないかな……。

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