”ネバー、ギブアップ”『モリーズ・ゲーム』
アーロン・ソーキン監督作!
2002年冬季オリンピック予選。モーグルによるオリンピック出場を目前にしたモリー・ブルームは、最終演技で壮絶に失敗し、選手生命を絶たれる。一年後、怪我から回復した彼女は、厳格な父の元を離れ、ロースクールへの進学もふいにして、カジノのアシスタントに収まる。華やかな世界に生きるようになった彼女は……。
ものすごいテキスト量の脚本を書くアーロン・ソーキンだが、今作でいざ自分が監督としてリハや撮影をしてみたら役者が息継ぎする暇もなくて、『ソーシャル・ネットワーク』の監督したデヴィッド・フィンチャーに電話して「息継ぎできなくない?」と聞いたら「……うん」と言われたとかなんとか……。
今回もすごい早口でモリーこと主演ジェシカ・チャスティンがしゃべりまくり、モノローグの量も大変ことになっている。久しぶりに表示されてる字幕を「一回しか読めない」経験をしたわ。
モーグルの選手だったが、オリンピック出場を賭けた競技で壮絶に大コケし、引退。そもそも子供の頃にもスパルタ練習のせいか脊椎を痛めていて、競技者としては完全に終了。オリンピックに行った兄など家族にも引け目を感じるようになり、学業も中断してまさかの賭けポーカー場経営のアシスタントを始めるのであった。
大変頭も切れて決断力に優れた人でもあることはわかるのだが、胴元やってちまちま儲けているあたり、プレーヤー志向がなくそこはアスリートとしての挫折にも関わっているのかな。狂気じみたカリスマ性はなく、堅実かつ素朴な一面も備えている。
実際、独立してポーカー場を始めるのだが、こういう商売ごとは気苦労ばかり多くて、せこせことした気遣いやサービスを積み上げるのが大変で、ちっとも華やかな感じはしないのである。
カジノに入り浸る大物俳優として、マイケル・セラが凄腕を見せているのだが、まあ彼の立ち位置的に、「ああ、こういう中堅クラスの俳優が出入りしてたのな」と思ってしまう。実際はどうもトビー・マグワイアらしく、他にデカプーやベンアフなども来てたそうで、誰か一人ぐらいカメオ出演してくれてたら良かったのにな。
情報量こそ多いが、決め絵にも華やかさにも乏しく、良くも悪くも脚本の映画だな、という感じ。まあまあ自伝通りになぞっているのであろうが、裁判における「よく考えたら、大して悪いことはしてないよね」が全てで、特別すごいこともしていないしな……。
ありきたりのフィクションを超越した実話力がないせいか、父娘ネタとかベタなところに着地させてくる。ケビン・コスナーパパはいまいちわざとらしく、不倫野郎としての詳細は省いてるせいか人物像も固まっていない感じでしたね。スケート・リンクのくだりは大げさなんで省いて、法廷と食事シーンぐらいで良かったんじゃないか。
ラストで、このモリー・ブルームという女性の本質とは、ということを描いたシーンは引っ張っただけになかなか見事でありました。全体としては悪くないが突き抜けておらず、まずまずというところか。
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公開時の感想。これでキャップさんの出てる映画は揃ったな……。
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多分、これが最後になるであろうライブの映像。
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劇場で見たが、これも記念として購入。
”デスロードを行け”『タクシー運転手』
光州事件を映画化!
1980年5月……ソウルのタクシー運転手マンソプは、ドイツ人ジャーナリストのピーターを乗せ、破格の運賃で光州へと向かう。直前の検問をすり抜け、人気の少なくなった市内に入った二人の前で、大規模なデモが動き出す。それはこの後起きる韓国史に残る出来事の前触れだった……。
他にも映画はあったが未見で、まあぼんやりとした知識しか持っていなかったが、相当に凄惨な事件であったということだけは知っておりました。
映画はその予備知識に反してのんびりと始まり、タクシー運転手ソン・ガンホが呑気に歌いつつ仕事中。地元ソウルでも学生による民主化デモは盛んだが、迷惑顔で意義も何も知ったことではない。この実に平凡で、政治に関心もなく、家族と生活のことで手一杯というキャラクターは実にわかりやすい。
そんな彼が、全然報道されてないけど実は一触即発の事態が近づきつつある光州に、外国人ジャーナリストの依頼で行くことに。破格の運賃にホクホクだが、検問が厳しく裏道を通ってやっと到着。しかし、街は閑散とし、学生デモだけが気勢をあげる不穏な雰囲気。
ほのぼのしたコメディのように始まり、ガンホさんがそこをベタにやりきってて面白いのだが、そこをやりきればやり切るほど後半の衝撃度とギャップが生まれる。光州事件に関する予備知識がなくても、主人公同様にかえってその落差を十二分に味わえる作りになっている。
このジャンル、前半緩くしておいて、後半落とすテクニックの基本であり集大成になっているんではなかろうか。平凡なキャラを主軸にした体験型映画を、非常に丁寧に構築している。
まあ後半の狙撃シーンと、その後の病院の阿鼻叫喚ぶりを見れば、それは同国人だろうが他国のジャーナリストだろうが怒りに震えますわね。ユ・ヘジンら、現地のタクシー運転手とのつながりも出来て、彼らも共に活躍するあたり、実際に銃撃を車体を盾にして防いだというエピソードが生かされている。……と言いつつ、クライマックスは軍の車と壮絶カーチェイスを決めて、やりすぎ感も出しちゃうあたりが最高ですね。
主人公脱出後もまだまだ犠牲者が出て武装蜂起に発展するなど、現実はどんどん悪い方向に突き進んで行く。これを経てもまだ民主化には年月を要し、権力の横暴に対して権利を勝ち取ることの困難さを改めて突きつけられます。
映画が公開された後に名乗り出てきた、息子さんの声明を読むと、まあ現実の「タクシー運転手」は映画の前も後もまた違う人生を歩んでいたことがわかり、いささかフィクション性に対して冷めてしまうのは否めない。先に名乗り出ていれば、また違ったアプローチで映画も作られていたかもしれないですね。
とはいえ、大変面白くかつ重厚な映画でありますよ。
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“夜のプールで”『青春の名のもとに』
OAFF2018『青春の名のもとに / In Your Dreams / 以青春的名義』予告編 Trailer
大阪アジアン映画祭2018にて。
16歳の男子高校生、張子行は夜の学校のプールに落ちた女性を助ける。翌日、彼女は彼のクラスに代理教員としてやってきた。家庭や学校生活に鬱屈を抱えた張子行は次第に彼女に惹かれていくのだが……。
今回の香港ナイトはこちら。脚本家であるタム・ワイジェンの初監督作で、女教師と男子高校生の年の差恋愛もの。なんかAVみたいな設定だな、と思ったが、割と最近韓国映画でも『女教師 シークレット・レッスン』なんて映画もあった。こちらもしっかりセックスが絡む話だったが、今作もそうかな? しかし主演女優はカリーナ・ラウということで、なんぼなんでも年の差がすごいな……。
新人の初監督だが、カリーナ・ラウが脚本に入れ込んで、自分がやりたいと言ったそう。男子高校生はボケ老人になった父親を世話しているのだが、この父親が往年のアクション・スタートン・ワイさん! えーっ、こんな年寄りになってたか、とちと驚いたが、もちろん今作ではアクションを封印。大陸に去った妻の帰りをひたすら待ち続ける、夢見る老人。息子は息子で母が去ったシーンを強烈に覚えていて、結構トラウマになっているのだな。帰るわけないじゃんとわかっていて、父親との認識には相当ギャップがある。
で、顔はおぼろげだがヒールやらストッキングが印象に残ってる母に、カリーナ・ラウ先生の面影を重ね合わせるのであった。まあこちらはよくあるちょい可哀想なマザコン、という感じだが、さすがに「本気」というところまでは突っ込まないものの男子高校生に癒しを求めるカリーナ・ラウ先生の危うい感じはさすがだったな。もともとちょっと顔が怖くて、綺麗系のメイクもしないものだから、何をやっても割合マジに見えていちいちぎょっとさせられる。
正直、そこまで奥深くに立ち入らない話の展開含め、地味は地味だが細部にセンスを感じ、小品ながらなかなかいい映画だったんじゃないの、という後味。クライマックスの「ベッドシーン」も変な緊張感がありましたな。
監督は、大学時代に親友が先生を好きになってしまい、それを責めてしまったのが心残りだったということで、今作は彼女のために作った、とのこと。すごい深いテーマじゃあもちろんないが、高校生にも大学生にも男子にも女子にも若年にも中年にも時に訪れる、心の揺らぎや不安定さに見舞われる一瞬を切り取った映画と言えるかもしれないですね。
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“世界は虚しい。戦う価値などない”『女は二度決断する』
ダイアン・クルーガー主演作。
ドイツ、ハンブルクでトルコ移民のヌーリと息子と共に暮らすカティヤ。だが、ヌーリと息子のいた事務所が突如爆破される。トルコ人犯罪組織が疑われるが、捜査は遅々として進まない。事件直前、歩き去る白人の女を目撃したカティヤはそれを警察に訴え続けるが……。
移民二世で、薬物の売買に関わって服役していた過去のある夫と結婚した主人公は子供をもうけて幸せに暮らしていたが、突然の爆破事件で2人を失う。夫の過去が過去だから、完全に足を洗って真面目に事務所やってたのに犯罪者との関わりを疑われ、警察はイスラム系組織の内輪揉めを追求する。
……だから、私が目撃したのは白人の女だと言っとるでしょ! という主張も受け入れられないまま、遅々として進まぬ捜査。ここのダイアン・クルーガーの憔悴演技がすごいですね。薬物に逃げ遂に自殺も決意……というところで、やっと容疑者が上がる。やっぱりネオナチやん!
裁判が始まるが、公正であるがゆえに浮上してくる推定無罪の原則よ……。容疑者のネオナチ夫婦に対しアリバイ詐称に協力する者まで現れ、揃った状況証拠、物的証拠にも一つずつ傷がついていく。さらに主人公の目撃証言もヤクやったのが災いして採用されず、あっさり勝つはずだった裁判の雲行きはどんどん悪くなり、結局は無罪に!
弁護士は控訴しようと言うのだが、主人公は乗り気でない。もちろん、このまま放っておいて忘れる、ということではないが、裁判という他人の公平さや正義に訴えかける手法がもはや信じられない。そもそも捜査の段階で家族に対して偏見まみれだし、その偏見こそがこの裁判の結果をも歪めたとも言えるわけで……。
人種差別、ネオナチはもちろん「重大な社会問題」であるはずなんだが、容疑者である夫婦は人間像があまりに薄っぺらく、空虚で、それに対して「戦う価値」を見出せずむしろ徒労感にのみ襲われる。なんでこんな分かり切ったはずのことが誰にも理解されないのだろう。こういった人間がのさばり、また簡単に爆弾作りにアクセスして、簡単に人を殺せてしまうこの世界に、意味などあるのか。
「世界は素晴らしい。戦う価値がある」というヘミングウェイの台詞があるが、この主人公の感じることは真逆だ。生きづらさがどんどん可視化され、強くもない賢くもない平凡な女性なのに、不公正な世の中でそれでも「正義の戦い」を続けなければならないのか。
法廷込みで社会問題を戦い抜く映画というのは、ほぼ1ジャンルになってるぐらいあるのだが、「いや、自分ならそこまで頑張れるだろうか?」と思うことがある。かと言って泣き寝入りするには、彼女の家族同様、ネオナチ夫婦もあまりに無防備で、同じ爆弾の作り方も裁判の資料にばっちり載っているのでありました。
全く同じように爆殺することだって出来たけど、それとはまた違う方法を決断するあたり、サムライのタトゥーが比喩となっているのだろうか。シンプルな作りだが、重い問いかけが染みる。それでも、時に世界は美しいのだが……。
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“未来を変えろ”『私を月に連れてって』
OAFF2018『私を月に連れてって / Take Me To the Moon / 帯我去月球』予告編 Trailer
大阪アジアン映画祭2018にて。
高校でバンドのボーカルを務めていた李恩佩の葬式で、仲間たちは再会した。歌手のオーディションに合格し日本に渡ったが、結局成功できなかった李恩佩の人生の不遇を振り返り、どうしようもない亀裂を確認する彼ら……。だが、失意のまま仲間に別れを告げた汪正翔は、突如、1997年にタイムスリップする……。
今年の台湾ナイトに供されたのは今作。『私の少女時代』のビビアン・ソンが主演。
高校時代、一緒にバンドをやっていたメンバーの中で、ヒロインだけが成功し、小室哲哉プロデュースでデビュー、日本で活躍している……はずだったのだが、30歳を過ぎた今、結局彼女はアルバム一枚出したきりで鳴かず飛ばず、事務所の掃除をし、風俗街のバイトで食いつなぐ毎日。台湾から訪ねて行った主人公に、「もう帰ろうかな」と弱音を吐く。諦めるな、絶対成功する、と、はっぱをかける主人公だが、数年後、彼女は帰らぬ人となったのであった……。えーっ、暗いよ、何だこの話……しかし、ここからキラキラしてた過去を述懐して懐かしむのか?と思いきや、不思議な力で高校時代、1997年にタイムスリップした主人公が彼女の未来を変えようとする、という展開に。
97年と言えば『タイタニック』の公開年で、自分は20歳だったからこの主人公たちより二つ上ということになるな。スラムダンクと将太の寿司が台湾ではめちゃくちゃ読まれ、JPOPも大人気だった頃……。
しかし主人公はヒロインが成功しない未来を知っているので、オーディションに行くのを邪魔して、芸能界デビューをさせないようにしようとする。作中でも引用されるターミネーターの役割を果たすことになるのだが、オーディションが延期になったと嘘の電話したり、母親にちくったり、カセットテープを傷つけておいたりと陰湿な手口を連発するので、バレた後の反応が怖い!
「夢はかなわない」という現実を知ってしまった大人が、前途ある若者の未来を邪魔するという構図が重なって来て、なかなかにいたたまれない。もうちょっとタイムスリップした時期などのシチュエーションが変われば、今度こそ成功するようにサポートする、という展開もありえたろうが、決して前向きな展開にはならんのである。
恋愛感情も当然ながら絡んでくるので、明言こそされないが、オーディションに受かって日本に行かなければ自分と付き合って共に人生を歩んでいたかも……という願望もある。女性個人の社会的成功と自分の恋愛感情が両立しない、という事実もさりげなく匂わされ、結構しんどいテーマがちょいちょい絡んでくる。
しかし、決して映画自体が暗いものにならないのは、安室奈美恵ら当時の小室サウンドの表現者たちのどこかアスリート的な懸命さがバックにあり、楽曲自体のエモさがあって、そこに夢や希望を抱いた若者たちの悲喜こもごもは、成功失敗の差こそあれ一つの時代を築いたし、作中で事故死する台湾のアーティストと共に、多くの人の心に残ったという事実があるからではないかな……。
台湾の青春映画におなじみの若干気恥ずかしいぐらいのキラキラっぷりも健在で、ちょっと掘り下げきれなかった感もある中、サブキャラもいい味が出ていますね。今年のABC賞はこれで、来年のテレビ放送も決まりましたが、エンタメとしての完成度は高かった。何とか劇場公開もしてもらいたいところだが……?
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