”罪を乗せて”『オリエント急行殺人事件』


映画『オリエント急行殺人事件』予告編

 アガサ・クリスティ原作!

 トルコからフランスへと向かう寝台列車オリエント急行。名探偵エルキュール・ポアロはマフィアの男から護衛の仕事を持ちかけられるが、きっぱりと断る。だが、翌朝、客車内でその男が滅多刺しになって殺されていた……。犯人は乗客の中にいる?

 クリスティは『そして誰もいなくなった』と『アクロイド殺し』ぐらいしか読んでいないのだが、今作の原作は読んでいないにも関わらず、あまりに有名すぎてオチだけ知っているという残念なパターン。確か、「世界のミステリ小説をマンガで紹介!」みたいな本で読んだような気がする。時々『Xの悲劇』と混同してしまうんだが……あれはバスだったかな?

 超豪華セットによる寝台列車と食堂車の旅、ということで、いや昔の話とは言え憧れますな。一度、こんな旅をしてみたい! 日本ではもうブルートレインなくなっちゃったし、中国やインドに行けば距離だけは長い列車の旅は出来るんだろうが、こんなゆったりは無理だろうな。しかし、そんなこんなで余裕こいてると殺人が……。

 あからさまに悪どい顔をしたブラック・スキャンダルなギャング、ジョニー・デップが滅多刺しにされて殺され、車内に犯人がいるのは疑いないということに……。
 途中の犯人探しパートが、単に顔を付き合わせて順番に喋るだけで少々かったるいのが難点で、性質上、第二の殺人がないというのもちょっと苦しいところ。
 また映像化すると、電車の空間が視覚的に把握できるので、第三者が潜んでるとか無理だろ、とか、他の人の目を全部盗んでこっそり殺人とか無理だろ、という気がどうしてもしてしまう。ミシェル・ファイファーさんが途中で刺された話とか、露骨に狂言臭いし……。

 映画の肝は、「最後の晩餐」を模した構図で紐解かれる犯人探しなので、そこでみんな人が変わったように大熱演になるのも、ミシェル・ファイファーさん的には、途中のわざとらしいあれはいったいなんやねん、という感じがしてしまうのな。
 そんな中、出てきた瞬間、眼光が異様すぎるセルゲイ・ポルーニンが謎で面白すぎ。そして、なんだあの身のこなしは……。

 オチは知っていたけれど、改めて力のある絵で見せられるとなかなかに衝撃的で堪能。これは『親切なクムジャさん』にも影響を与えたのかな。

 ところで、見事にトリックを暴いたとは言え、犯人は捕まえなかったポアロさん。これ、経歴的には汚点になったんじゃないの? 翌日以降の新聞に「ポアロ、迷推理! 犯人は通り魔?」「ポアロ、犯人を挙げられず! 寝台車で熟睡」「どうした、名探偵。悄然と去る」とか散々書き立てられそうで気の毒である。
 でもナイルで汚名返上するよ! ということで気を取り直して去る、というラストもイマイチ締まらない感じで、ここは物悲しい余韻を残して終わっても良かったんではないかな……。

2017年読了本

2017年の読書メーター
読んだ本の数:39
読んだページ数:7138
ナイス数:9

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読了日:01月11日 著者:黒田 硫黄
ソウル・コレクター 下ソウル・コレクター 下感想
久々に読んだシリーズ八作目。手を握ったり肩をすくめたり、あちこち動くようになって、ついに自転車でリハビリまでするようになっているライムさん。「さすがに立ち上がることはないだろうが……」と言い訳のように書いてあるが、最終作あたりではやりかねんのじゃないだろうか。
個人情報ダダ漏れの恐怖を描き、相変わらず一気読み間違いないリーダビリティ。
読了日:01月09日 著者:ジェフリー・ディーヴァー
ソウル・コレクター 上ソウル・コレクター 上
読了日:01月09日 著者:ジェフリー・ディーヴァー
シャルロットの憂鬱シャルロットの憂鬱
読了日:01月06日 著者:近藤 史恵

読書メーター

”ある愛の終わり”『ノクターナル・アニマルズ』


『ノクターナル・アニマルズ』予告

 トム・フォード監督最新作!

 20年前に別れた元夫から送られてきた、一冊の未発表小説。『夜の獣たち』と題されたそれはその暴力性と裏腹な美しさでスーザンの心を捉える。今になってそれを送ってきた夫の真意とは?

 オープニングの超デブから度肝を抜かれる。その突飛なビジュアルも確かに凄いんだが、美術が物凄く行き届いていてびっくり。エイミー・アダムスの家のオシャレさにも圧倒されるが、ひけらかしてる感じもないのよね。こんな家にこんな格好で本当に住んでるのかよ、生活感は……と思いかねないところだが、実に自然に撮っていて、そんな意識をさせない。たぶん、トム・フォード自身はほんとにブランドで固めて、こんな家にさらっと住んでるんだろうな……。

 そんなピカピカのおうちから一転、別れた夫ジェイク・ギレンホールの送りつけてきた小説の舞台は荒涼たるど田舎に。ああ……もっとブランド物を見ていたかったわ……と思わないでもなかったが、ここでも撮影が決まりまくっていて、妻子を奪われぽつねんと取り残されたギレンホールの侘しさよ。
 この小説を映像化したシーンは、エイミー・アダムスが登場人物の「夫」に自分の夫を投影して見ているのだが、「妻」役は自分ではないのよね。これはもう別れたから、ということなのだが、では夫の方はそれでいいのかというと、これも違うのでは、と思える。
 別れた妻としては、「才能がない」と見下していた元夫が送ってきた小説を読んだら思わず引き込まれてしまい、かつて捨てたことへの「復讐」として送ってきているのではないか、と思わず解釈してしまう。俺はこんな凄いものを書けるようになったんだ……!
 が、これが本当に面白い小説なのかはちょいと微妙で、筋は単純だし、ケッチャムみたいないやな筆致になってるかはよくわからない。ギレンホール夫は夫で、「あいつは芸術のわからない女」と思ってる節があるし、仮にすごい小説が出来てたとしても、送って理解されるものと思ったのであろうか?

 読み進めるにつれて、元夫の意図を想像してメンタルが揺らぐエイミー・アダムス。彼女自身の生活や今の家庭もかなり問題を抱えていることがちょいちょい挿入され、いつしかピカピカのブランドも空虚さに満ちて見えてくるのである。
 ローラ・リニーお母さんと、エイミー・アダムスの現在のだぶり感。アミハマ夫の顔ばっかり感よ……。

 小説内に登場するチンピラをやってるキック・アスことアーロン・テイラー・ジョンソンが、相変わらずのイケメンながら中身ゼロのモンスター男を熱演。このルックスの良さがブランドものの美しさと被るのだが、その彼が野外でウンコしてケツを拭くシーンがなんとも言えず小汚くて最高である。ウンコ自体を映像で観るより、ウンコを拭いた紙を観る方が汚く感じる心理はいったいなんなのだろうね。

 「物語」から、もちろん人は読みたいものを読み取るわけだが、一方で読みたくないものを読み取ってしまい、なおかつそれを認められないという心理があり、それは時に書き手の意図とも大きくずれてすっ飛んで行ってしまうのかもしれない。
 わざわざ家まで原稿持ってきて投函したギレンホール夫の心理も計り知れないわけだが、彼に対する罪悪感と自己正当化がごちゃまぜになって、エイミー・アダムスは彼との再会を選択する。
 この二人の関係、取ってつけたような堕胎がなければ、ごくごく平凡な別れだったんでは、という気がする。その当時は腹を立てたかもしれないが、振り返ってみたらそこまで執着し合うのか?という……。
 何がしか深い意図や計画性を期待するところだが、オチはそういうつき方はしない。ブランドと砂漠、執着心と猜疑心、揺れる形なき愛憎……そういった過程こそが肝なのではないかな。

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“死者は囁く”『フラットライナーズ』


映画『フラットライナーズ』予告

 臨死体験映画リメイク!

 人は死んだらどこへ行くのか? 妹を不注意による事故で失った過去を持つ医学生のコートニーは、臨死体験に取り憑かれ、ついに自らの心臓を止める実験に手を染める。医学生仲間の力を借り、数分間の「死」から覚醒したコートニーは、自身の能力の冴えを実感する。医学生仲間たちも次々に体験するのだが……。

 キーファー・サザーランドケビン・ベーコンジュリア・ロバーツが揃って出演し、青春映画のカラーも濃かったオリジナルから早二十数年。まさかのリメイクですよ。主演はエレン・ペイジディエゴ・ルナなど。

 オリジナルも、臨死体験したら過去の悪行の罪悪感に悩まされるようになり、かつての被害者に謝りに行くという話。いやその頃からすでに、臨死体験が全然関係ないやん、お話変わってない?と思ったものだが、今作もその筋立てをそのまま踏襲。一応最新技術を用いた医療サスペンスめいた前半が、暗闇から怖いメイクした過去の人物が襲ってくる普通のホラーっぽいルックに転換していく。

 オリジナルはまあ珍作の部類に入ると思うが、やっぱりそのままそれをなぞっても珍が凡になるだけじゃないの、という感じね。主要人物の中でディエゴ・ルナだけが臨死体験をしなかったり(蘇生技術がトップなので、彼が死ぬと生き返らせる人がいなくなる)、人を死なせた過去を持つ人物が二人いたり、ちょいちょい設定も変わっている。
 エレン・ペイジが、脇見運転で事故を起こし妹を死なせた過去があることが冒頭で語られ、オリジナルのキーファー・サザーランドと同じく主役的な立場にいることが示唆される。途中、罪悪感を払拭するために謝りに行こう、という話になるが、もう相手が死んでこの世にいない場合は一体どうすればいいんだ、という難問が突きつけられるわけで、オリジナルではもう一回臨死体験して死後に謝る、ということだったかな。今回も大筋では同じなんだが、中盤に一つサプライズが仕掛けられていて、これはオリジナルを見てればよりびっくり、というところではないか。

 しかしそこからはホラー演出がどうも陳腐で、無線機が勝手に鳴ったりするのはそもそも罪悪感と全然関係ないだろ、とか、単に怖がらせのための怖がらせになってしまっている。さらにナイフで刺したり突き落としたり、物理的に殺しにかかってきたりもするしな……。もうちょっと心理的アプローチで攻めればもう少し見られたものになったかも? 罪悪感の元である被害者はどこかで普通に生きていたりするので、「罪悪感を利用している何か」が襲ってきているんだ、という解釈も語られるが、それも謝ってるうちにうやむやになってしまうので……。

 キーファー・サザーランドが指導医役でゲスト出演していて、医療の何たるかを語ったり、「君たち、何か隠してない?」と問い詰めるあたりは、おまえが言うなという感じで結構笑えますね。まあつまらないが怒るほどでもない映画でした。

ルシフ様の2017映画ベストフィフティーン!

 新年明けましておめでとうございます。気がつけば年も明けましたね。恒例のベスト15を出して、とりあえず昨年の締めくくりとしたいと思います。2017年は123本鑑賞で微増、カナザワ映画祭に行かなかった割には多かったかな。

1.『お嬢さん』

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 エクステンデッド版含めて三回見てしまった。
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2.『七月と安生』

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 アジアン映画祭の伏兵。天才チョウ・ドンユイはワーストにも顔を出してます……。
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4.『トリプルxXx:再起動』

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 Xは一心同体! 今年の中毒映画。ちなみに昨年一位の『イップ・マン 継承』は今年も観ましたがすでに殿堂入りですので除外。
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5.『エル ELLE』

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 ヴァーホーヴェンひさびさの新作は、やっぱり硬かった……!
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6.『新感染 ファイナル・エクスプレス』

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 これも二回鑑賞。
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8.『ドラゴン×マッハ!』

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 カンフーがムエタイに勝った!
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9.『百日告別』

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 これはロスト・ハズバンド映画。
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10.『光をくれた人』

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 今年のベスト・ハズバンド映画。
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11.『ゲット・アウト』

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 大変フレッシュなものが観られました。
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12.『アイ・イン・ザ・スカイ』

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 今年のパン映画。
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“そして祖母にならない”『ギフテッド』(ネタバレ)


映画「ギフテット」(マーク・ウェブ監督作) 予告編

 マーク・ウェブ監督作。

 フロリダで7歳の姪メアリーと暮らすフランク。だが、小学校に上がったメアリーは、数学の才能を発揮し始める。実は彼女は天才的数学者と言われたフランクの姉の才能を受け継いでいたのだった。その噂を聞きつけ、没交渉だったフランクの母エブリンが、彼女に英才教育を施そうと接触してくるのだが……。

 一年ぐらい前だったかな……「そう言えば、マーク・ウェブって今なにしてんだろ。新作来ないかな」と思ってTwitterを検索したら、「マーク」と「ウェブ」が一般的な単語すぎるせいかごろごろ出てきて、彼の情報には一向にたどりつけなかったことがあったな……。不遇だ……。
 たぶん、そのちょっと後ぐらいに情報出たのかな。ぽろっと公開されたのがこれ。自殺した姉の遺児である姪っ子を引き取って育てるクリス・エヴァンスだが、実は彼女は天才的数学者であった姉の血を色濃く受け継いでいた……。

 天才児ものというのは、時々「天才子役」を売り出したいハリウッドではおあつらえ向きの題材で、手垢がついてるというのが正直なところ。ただ、今作を見てるとその子供が天才云々の話は商売向けのフックであり、単なる味付け程度のネタに過ぎないんではないか、という気がしましたね。早期教育というのは別に天才児だけに限って持ち上がる話ではないし、奇矯で学校に馴染めないというだけの子供でも同じような話は作れるような気がする。

 子育てというのは、徹頭徹尾「今」「今!」「今でしょ!」が問題で、あまり関係ないと言えば関係ないのだが、キャラクターの背景が薄味で、さらりと台詞で説明されるにとどまっている。オクタヴィア・スペンサーも過去に子供がらみで何がしかあったのかもしれないが、特に説明はされず単純な近所のいい人扱い。娘を奪おうとする祖母も、その過去の行状は息子であるクリエヴァの口から語られるだけなので、その人品は映画内で目に映る行動で判断するしかない。「今」子供とどう向き合い、何をして何を語るか、だ。
そういう意味で、今作の家族関係はフラットな目線で見ることを心がけることになるのだが、そうして過去が語られない中で、実はクリエヴァが大きな秘密を隠していることがラストで明らかになるのである。

 兄弟姉妹というのは、親という共通する存在に対した時、どこかしら互いを同志的に捉え、共犯者的な関係性を持つことがあるのではないか、と思う。弟が姉の自殺を止められなかったことに責任意識を抱え、託された姉の子を代わりに育てるという話の裏に、実はもう一つ託されたものがあった……。
 母親が自殺した娘を「馬鹿なことをした」と言った時、弟は「世界でもっとも賢い人間の一人だった」と反論するが、これが伏線になっているのだな。生前、解くまであと一歩と言われていた「ナビエ-ストークス方程式」を、実は姉はすでに解いていたのである。「母親の死後に公開して」と言い残して……。
 これ、実はものすごいシスコンの話だとしたら、結構しっくりくるんだよなあ。賢く美しく奇矯で、平凡な幸せを得るチャンスを全て母に奪われ、自ら命を絶った姉。その死に責任を感じて同じことを繰り返さないために、自分の仕事や業績も何もかも捨てて、ただその娘に平凡な人生を与えるためだけに生きる弟……。時々は楽しんでいるようでいて、実は自身は誰とも深い関係にならず、姉の遺志を果たすことだけを考えている。しかし娘は成長すればするほど姉に似てきて、またその才能の片鱗をも発揮し始めるのだ……。これが姉への憧憬含みの恋愛に近い感情ゆえの行動だとしたら、なんかこう……ドキドキしてきませんかね……フフフ……。

 まったくの父親不在ストーリーに加え、姉弟の母親への復讐っぷりが容赦なしで恐ろしい。
 母親の死後に業績を公開しろ、と言い残して死んだ姉もそうなのだが、その約束を反故にして業績を母親に渡した弟の行為も、一見物分かり良く手打ちしているようで、「ほら、あんたの望みどおり「業績」だけあげるよ」と言わんばかりで、ぞっとするような冷たさ。断絶せず、憎み合ったり殺しあったりもせず、ちゃんと話し合っているのに、その中でバッサリ切り捨てていて心はどこまでも遠い……。姉貴の他の部分は全部俺のもので、おまえには一切くれてやらねえよ、という、少女漫画読者でないと伝わらないような細かさだ。やっぱりシスコンものだ!
 しかし、ここまでやらないとわからない上に、涙を流しつつも結局その業績を手にとってしまう母親のキャラクター造形もある意味すごいな……。結局、母親にも祖母にもならなくていい、ということを自ら認めてしまう。プライドがないのか……。

 クリエヴァおじさんは姪っ子に対してもすごく頑張っていると思うんだが、裁判を経てちょっと自信を失ってしまう。母親に預けるのは以ての外としても、里親に預けるのは仕方ないんじゃないか。姉を見てきたことと、自分がそこまでの才能はなかったせいで「普通の生活」信仰がちょっとあるので、姪っ子にも「普通」が必要なんじゃないか、と常に考えてしまっている。
 育て方を自分が誤ってしまわないか……という危惧は誰にでもあると思うが、しっかりやっていてもそういった気持ちに囚われてしまうのも、ああ言う風にはするまい、と思わせてしまう親がいたからで、自分ももしかしたら道を誤っているんじゃないか、と余計な心配をしてしまう。これも毒親の副作用と言えそうだ。

 片目の猫、フレッド君が重要なポジションで、単なるマスコットかと思いきや、母親と里親が子供の気持ちなど何も考えていない人間であることをはっきり印象付ける役回りに。この女の子の一本筋の通った愛情深さが、彼を通してよくわかる。で、保健所から彼を救出する時に、つい他の処分寸前の猫も連れ出してしまうおじさんのその気持ちよ……!

 実はUFC映画であるあたりもポイント高かったですね。うちにも甥っ子がいるのだが、万が一、シングルマザーである妹に何かあっても甥っ子は俺が育てる!と決意を新たにしましたよ。まあうちの母親はあんな毒親ではないですが……。

今日の買い物

リディック ギャラクシー・バトル』BD

 公開時の感想。
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『星の王子、ニューヨークへ行く』BD

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 エディー・マーフィ絶頂期の主演作だが、これが一番好きかもな……。