“政治はドラマティック”『ウィンストン・チャーチル』


【映画 予告編】 ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男(90秒予告)

 アカデミー主演男優賞受賞!

 1940年、歴史上、類を見ない電撃戦によりフランスを追い込んだナチス・ドイツ。侵略を目前にして、イギリスはウィンストン・チャーチルを首相に選出する。和解か、徹底抗戦か。第二次大戦の中でも最も難局と言われた決断を、チャーチルはいかに下したのか……?

 『ダンケルク』の裏としての『人生はシネマティック』という話をしましたが、今作もまたダイナモ作戦の裏側を描いた裏ダンケルク2本目になります。
 監督のジョー・ライトは『つぐない』(未見)でもダンケルクを描いていて、この題材にはこだわりもあるのでしょう。

chateaudif.hatenadiary.com
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 ゲイリー・オールドマンは、まだ賞取ってなかったんだっけ、というぐらいの人ですが、今回も声の大きな嫌われ者を大熱演。まあ確かに特殊メイクの出来もすさまじいのだが、首相就任直後の超強気感から、国内では段々と厭戦派に押され、さらにドイツ軍の電撃戦に真っ青になり弱気になっていく流れの表現が上手いし、そこから一つ殻を破ったかのごとく反転攻勢に出るシフトチェンジは脚本も込みでさすがですね。

 チャーチル政権も長かったが、今作はわずか数日の、まさに世界の命運を分けた瞬間の話。先日見ていた『ゲーム・オブ・スローンズ』で徹底抗戦を叫び壮絶に玉砕した人が、今作では和平和平と言ってるので戸惑ってしまったわ。結果論として、ナチスは後世に凄まじい悪名を残しているし、ヒトラーによる独裁の危険さは当時でも知れ渡っているが、それでも「冷静な視点」ぶった講和論というのはあったのだな。そしてまた如何にも俯瞰して物を見ているようなことを言うのである。
 それに対し、庶民は皆、徹底抗戦を叫ぶ。これを「俯瞰的、冷静な視点」に対する衆愚と捉えるというのも、またありがちなことではある。
 ここには背景に、政治家も含めた白人の高所得層と、そうではない一般市民の経済的格差の問題がある。富裕層はナチスの手にロンドンが落ちたところで、自分たちはお目こぼしされて変わらぬ生活が送れるが、差別の対象になりかねない層にとってはそうはいかない。

 そこをチャーチルがすくい取るのが、実話の中でややファンタジーっぽく撮られている地下鉄のシーン。正直、こんな絵に描いたような話があるのかいな、と、甘さも感じるが、実際はあそこでの会話はさして重要ではなく、あの後チャーチルが話を盛りまくってる「This is 政治家」なところが肝だろう。

 この映画の話の後もまだまだ難局が続くわけだが、それはまた別の話でありました。原題どおり数日間でうまくまとまってる反面、ちょいと食い足りない感もあり。