”なんてことあるわけねえよなあ”『15時17分、パリ行き』


映画『15時17分、パリ行き』本予告【HD】2018年3月1日(木)公開

 イーストウッド監督作!

 2015年8月21日15時17分、アムステルダムからパリに向けて特急列車が発車した。だが、その中に大量の銃で武装した男が乗り込んでいる事を、乗客たちは知る由もなかった。たまたま居合わせた休暇中の米兵ら三人は、自動小銃を取り出した男に果敢に挑んでいくが……。

 道を歩いていて、子犬でも幼児でも何でもいいが、トラックに跳ねられそうになったところを間一髪助け出す、みたいな妄想をしたことある人は多いのではなかろうか。同じように、乗り物に乗っていると、ハイジャック犯やらテロリストが突然現れるとする。日頃鍛えた肉体で、そいつを鮮やかに取り押さえたら、さぞかっこいいだろう。英雄間違いなしだ。

 ……なんてこと、あるわけねえよなあ。現実って儚いよなあ……と思うまでがセットなのだが、あくまで確率は確率に過ぎず、本当にこういうことが起きてしまうことだってあるのである。
 今作は現場に居合わせたアメリカ軍人含む仲良し3人組が、銃撃犯をとっ捕まえた実話の映画化。事件の現場を、犯人以外の本人達に演じさせたということで、『ハドソン川』のエンドロールを拡大版にしたような感じですね。

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 「偶然です」では映画にならないから、3人の子供時代から振り返り、特にその一人スペンサー・ストーンの、軍人を志し何者かになりたい、人助けをしたいという願望を抱くも、希望のレスキュー部隊には配属されないという挫折を描く。
 仲良し3人組でヨーロッパ旅行にでかけ、当初は行く予定がなかったパリを、まるで何かに導かれたように目指す……まあこの導かれた云々は後から付け足した理屈だと思うが、これがここのところのイーストウッド映画の、人生において、必ずツケを払う瞬間、決断を迫られる瞬間がある、という繰り返し語られたモチーフと合致するのだな。
 今作は、挫折を繰り返してたけど腐らず頑張ってきた成果がまさかという形で身を結んだ、ということで、練習していた柔術も炸裂するのである。バックを取ってのチョークだが、相手がナイフ持ってたので危うく刺し殺されそうになっていて、結局3人がかりでやっつけていたからどこまで柔術が役に立ったのかわからなかったが……。

 そもそもこんな話出来すぎで、フィクションだったら都合よすぎと叩かれるところだが、まあ実話なんだからしようがない。飛びつき腕ひしぎでもしたように改変してもいいところを、本人演技でリアルなムーブにこだわり、半ばドキュメンタリーのようになっている。捕まえて撃たれた人を救急隊に引き渡すまで体感的には長く感じたが、実際は数分であり、それでは映画にならないので生い立ち他を延々とやって「導かれた」話を付け加えたというところだろうか。それでも尺が足りないから、ドイツで3人分のジェラートを店員のおじさんが1人分ずつよそうところを延々と映していたりして、さすがにそこはおじいちゃん大丈夫なのか、とたじろいでしまったわ。

 もちろん勇気ある素晴らしい行動で、銃が不発だったことに救われたことなどまさしく運命的なものに突き動かされてのことだった……と後から振り返りたくなる気持ちもわかるが、突撃の直前「ゴー! スペンサー!」とかかる声とか、ちょっと恐怖を覚えたね。あれは誰が言ったのか、映画ではちょっとわからなかったのだが、やっぱり神の声なのか?
 全然テイストは違うんだけど、軍人をネタにすると『ハクソー・リッジ』にも似てくるところだな。たまたま上手くいったから良かったものの、フィクションならあそこで額を撃ち抜かれる人の話になるだろうか。

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 ラストシーンのオランド大統領のシーンも、実際のニュース映像と役者の後ろ頭だけを交互に映す珍妙さにちょっと笑ってしまったよ。不可思議な味わいの珍作でありました。