”謎のエキシビジョンマッチ”『リングサイド・ストーリー』(ネタバレ)


『リングサイド・ストーリー』 本予告

 K-1映画!

 売れない俳優のヒデオを養いながら、弁当屋で働くカナコ。かつては大河ドラマに出たこともあるヒデオも、今ではオーディションにも落ち続け、マネージャーの持ち込む端役もことごとくふいにしている。そんな中、弁当屋をクビになったカナコは、プロレス団体WRESTLE-1の求人に応募するのだが……。

 K-1……のはずだったが、いきなり瑛太がプロレスの歴史を語るモノローグから幕開け。売れない役者瑛太を、弁当屋で働いて養う佐藤江梨子は、その弁当屋をクビになって途方に暮れる。求人誌で見つけたプロレス団体WRESTLE-1契約社員募集で、プロレス大好きの瑛太による偽手紙が功を奏して採用され、団体の裏方を務めることに。
 最初は汗臭い男に囲まれた職場に辟易していたが、段々と小団体ならではの温かみや人間関係、全てを手作業で生み出すプロレス興行の面白さに目覚めて仕事を楽しむようになる。一方、鳴かず飛ばず瑛太は、サトエリのステージパスをコピーして試合を見に忍び込んだりしていたが、彼女がレスラーたちと仲良くなって仕事にのめり込んでいくことに嫉妬。北海道を郷里に持つレスラー黒潮二郎から蟹をもらったことで、その嫉妬心が爆発し、「カニは腐っている」と横断幕を出して興行をぶち壊しに……。捕まってパスも取り上げられ、バックヤードで不貞腐れる瑛太

 どうもこの辺りの流れがおかしくて、あれだけ序盤にプロレス愛を語っていた男が、武藤社長の興行をむちゃくちゃにするような真似をするかね? さて、これでカニレスラーとの因縁が生まれたので、リングで勝負するという展開になるのかな、と普通なら思うところだが、サトエリは責任を取って辞表を出してしまう。しかしカニレスラーの伝手で、運営母体の同じK-1に転職することに!

 ここまで相当端折って書いているが、だいたい映画の半分くらいである。半分過ぎてやっとK-1出てきたわ。これは要はWRESTLE-1K-1の両方が同じくらいの比率でスポンサーについてるから、こういう風にバランス良く登場させねばならない、という大人の事情なのであろう。
 おなじみゲーオ・ウィラサクレックのKOシーンを始めとするハイライトシーン(また何回もやられるHIROYA……)を流し、華やかさをアピールするK-1。洗練されたオフィスでスーツ姿のスタッフに混じったサトエリ。転職に至るまでの展開こそむちゃくちゃだったが、プロレスから他の格闘技団体に興行スタッフが移籍してキャリアを積むというのは、あり得る話ではなかろうか。
 こうやってサトエリ主役で、格闘技興行の裏側を描いた映画にしたら結構面白くなったのでは、という気がする。プロレスとK-1、それぞれの職場の良さを対比させて描いたりしてな。

 さて、ここでも真面目に働くサトエリ。スター選手武尊が試合前のプレッシャーで練習場にこもっていたのを見つけだし、バンテージを巻いてあげてハグ……。この場面を、クマの着ぐるみの仕事を彼女に回してもらって来ていた瑛太が目撃し、嫉妬。入場時にその姿で背後から武尊の頭をどつく! 止めに入るセコンドの卜部兄弟がシュールだ。

 プロレスに続いてバックヤードで不貞腐れる瑛太。なんなんだ、このまったく同じ展開……。ここでK-1の女社長(誰?)が、「あんた武尊と勝負してみなさいよ」と挑戦する……なんだこの無理矢理な展開! 不自然すぎ。これだったらそもそも同じ展開でカニレスラーと勝負してたら良かったんじゃないか。次のK-1のエキシビジョンで武尊vs瑛太が急遽組まれることに。いや、本物の瑛太ならばまだなにがしかの話題性はあろうが、この作中の彼はVシネの端役俳優なんですけど……。いや、これはまったく乗れないな……。どうしてこんな話になった……。どうでもいいが、この女社長にもモデルはいるんだろうか。前田憲作ともめて、今でも宮田Pを顎で使ってたりするこういう人物がいるんだろうか。

 名もなき俳優と対戦、ということで、これはTwitterで口さがないK-1ファンが「武尊終わったな」「プロテクトいい加減にしろ」「天心から逃げるな」と散々書きそうである。この後は瑛太のロッキーばりの特訓シーン、卓球で鍛えた右フックの強化が描かれるも、やっぱり試合直前に逃げ出しそうになり、ついにサトエリも愛想を尽かす……。
 いや、この瑛太のキャラが全くのクズなので、ここまで何一つ共感できないのだが、登場人物は全員この男に甘い。やっとサトエリもここに来て……という感じだが、体感的に遅すぎ。そもそもたまの仕事も放棄して役者にさえ真っ当に取り組んでいないクズなのに、なぜ周囲はこの人間に期待し続けているのだろうか……? 「にくめないキャラ」を目指しているのかもしれないが、ちょっと思い入れが強すぎてうまくいってない。ずーっと地道に真面目にやってるサトエリと対比しちゃってるので余計にいかんのだろう。

 さて、試合シーンは『百円の恋』の監督であるからしてちょっと期待されたところなのだが、瑛太の見せ場は入場シーンだけ! この入場も会場はなんだか盛り上がってるということになってるが、無名俳優が気取って出てきてもこんな盛り上がるだろうか? 真面目なK-1ファンなら怒りだしそうなのだが……。そして試合はワンパン秒殺で終わります。急にリアルになったな……という感じだが、いくらなんでもど素人に苦戦とかやめてくれ、という現実のK-1サイドの要望なのかもしれないね。ここで無名俳優に苦戦したら「武尊終わったな」「プロテクトいい加減にしろ」「天心から逃げるな」とTwitterで(以下略)。

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 こうして大恥をかいた瑛太だが、これによって演技に開眼し、心機一転、次のオーディションに臨んで、サトエリともよりを戻す。この理路がまったくつかめないな……。ここで映画は終わるが、これで役者デビューしちゃうのは甘すぎるからさすがに描けなかったのだろう。
 撮影的には瑛太の背中を追うショットとか、美しい絵もあるのだが、どうも話が整理されていなくてしんどい映画だった。部分的には見所もあったが……。

 K-1ファン的には、やっぱり大スクリーンで見るゲーオはかっこいいな! 城戸もちょっと出番あって良かったな! と色々あったが、注目はラストカット。小澤海斗の試合をリング上から捉えたカメラがコーナーの方に寄っていくと……左右田泰臣がめっちゃこっち見ている! えっ、なんでラストを左右田さんのカメラ目線で締めるの!?とちょっとパニックに陥りかけたが、カメラはさらに奥、スタッフ席のサトエリを捉えて終わるのだった……。最初、実際の試合の映像かと錯覚してたから、余計にドキッとしたぜ。ここでタイトル、『リングサイド・ストーリー』! うむ、やっぱり瑛太がらみの話をごっそり削って、サトエリ主役の話にしたら良かったんじゃないの。恋愛要素が欲しかったら、それこそ武尊との年の差あるけど淡い恋ぐらいの話にすれば……それには武尊の演技力が苦しいか! 旧K-1のカリスマ魔裟斗とどっちが演技上手かったかに関しては今作だけでは判断できなかったなあ。次回はぜひ、魔裟斗の代表作『軍鶏』を超える熱演を見せてもらいたいぜ!
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