”わたしのたわし”『メッセージ』(ネタバレ)


映画『メッセージ』本予告編

 ドゥニ・ヴィルヌーブ監督作!

 地球各地に飛来した、謎の巨石。宇宙から来たそれらにコンタクトを取るべく、各国が次々に動き出す。言語学者のルイーズ・バンクスも召集を受け、物理学者のイアンらと共に「船内」に入る。そこでは驚くべき出会いと、彼女自身の人生をも揺るがす出来事が待ち受けていた……。

 『灼熱の魂』以降、監督作をずっと追いかけているが、この人は「構造」を描く作家だな、と思う。時に、個々の人物描写よりも、歴史の変遷や社会の状況こそを見せていきたいし、それらを題材として描きこむことによって、より映画を完全な構造として美しく仕上げたいのではなかろうか。
 『プリズナーズ』は、主体となるヒュー・ジャックマンお父さんの心理描写がかなり凝っていたけど、やはり構造的犯罪によって翻弄される役回りだったし、その追求っぷりは『複製された男』以降ますます顕著になっているように思う。

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 そして今作もその例に漏れず、まさかの回文構造になっているという……。

 ハリウッド映画のキャラクターの年齢設定って、時々よくわからないことがある。ニコール・キッドマンあたりが若作りしてたりすることもあって、40代ぐらいの役者でももっと若いキャラを演じていることも多い。特に、二つ以上の時間軸をまたぐ場合には、30代と40代をさほどのメイクもなく演じ分けていたりして、特に説明がなければキャラクターが何歳なのかよくわからないまま見ていたりする。
 で、今作、エイミー・アダムスの見る夢が結構大きくなった娘の病死シーンなので、「ふーん、今回はそこそ年齢いってる設定なのな」と思ってしまう。ちなみに彼女の実年齢は42歳
なんで、だいたいそれぐらいの歳なのだろう……。そして、そう頭の中で結論を出してしまうと、夢の中に登場する子供生まれたてぐらいのころのエイミー・アダムスは「十年前ぐらいだから、ちょっと若く見せてるかな」とまで思ってしまうのである……。
 ああ、先入観って怖いな……。SF小説を原作にした映画なので、らしいとしか言いようがない仕掛けがあり、前半見ていた「夢」の意味は、後半にガラリとひっくり返るのである。

 ただ大仕掛けを見せたいだけの一発トリック映画じゃなくて、「三千年後」とか言い出す呑気過ぎる宇宙人の、地球人とはまったく違う時間感覚の表現にもなっていて、それとの「遭遇」が言語や科学技術含め、いかにギャップがあり、またそれを受け入れることでどれだけの変革をもたらすか。受け入れること自体が、大国がせめぎ合う世界情勢そのものへの試金石にもなっているという、人類レベルのSF設定と、がっちり合致している。今や強硬に世界をリードしていく役回りは、中国になっているのだな。それに対して穏健ぶるアメリカというのも、どのツラ下げてという感じではあるが。

 映像も美しいし、幻想的なビジュアルで、かつスケール感もあり、サスペンス的な緊迫感、言語学的な謎解き感覚も備えているのだが、宇宙人のビジュアルと夢演出のけったいさなど、どこかしら素っ頓狂さもあり、今作もやっぱりドゥニヌーブらしい、と感じたところ。ただ、登場人物の心情を読んだりストーリーよりも構造を楽しむ、という映画的豊饒さはもちろんあるのだが、どこか「またオモシロ映画作ったな」と、マジシャンのテクニックの方に注意がいってしまうね。さあ、次はなにをやってくれるのかな……?

 それにしてもジェレミー・レナーは色々とかわいそうな役回りだったな……(ベスト・ハズバンド度:50)。