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”お前はそんな奴じゃない”『ムーンライト』


ブラッド・ピット製作総指揮!映画『ムーンライト』予告編

 アカデミー作品賞受賞作!

 リトルと仇名され、いじめられている内気な少年のシャロンは、ある日、フアンという男に助けられる。生きる道を教えてくれたフアンを慕うシャロンだが、彼は麻薬のディーラーでもあり、母は彼からクスリを買っていた……。時が流れ、高校に行くようになったシャロンだが……。

 『ラ・ラ・ランド』と受賞を争い、式におけるあのお騒がせな手違いが有名になりましたが、日本でも拡大公開となりました。昨年が「白人ばかり」と批判されたエクスキューズとしての受賞、という面も否定できないかもだが、シンプルな構成で面白い。

chateaudif.hatenadiary.com

 冒頭のマシンガン撮影には、えっ、と思わされたが幼年期、少年期、青年期と三パートに分けられた中盤以降はどんどん落ち着いてきて安心。あまりトリッキーなカメラワークが続くと疲れるからな。
 漠然とした不安感の強い幼年期、主人公のシャロン少年は、メンター的存在になってくれるフアンと出会う。父親不在で母と暮らす彼のロールモデルになり得る、たくましく強い男。パートナーにも愛され尊敬されていて、子供にも優しい。その優しさは強さと賢さに裏打ちされていて、シャロンを肯定し、すでに自覚が芽生え始めていたゲイであるということも受け入れてくれるのである。
 ……とまあ、悪いことなしなのかと思いきや、職業だけがヤクの売人で、しかもシャロンの母親が常連客というドツボ! 三部構成を振り返ると、シャロン少年には何度か転機があり、それによっては青年期の状況もまた違ってきたのではと思わせるのだが、様々なことがネックになってうまくいかない。さらにこのフアンさん、二部以降は出て来ず、ああ……やっぱり長生きはできんのね、こういう生き方は……と思わせる。

 少年期はイジメが苛烈になり、沈み込む一方のシャロン君に対し、相変わらず明るく接するものの調子よく世渡り上手に楽しんでいる幼馴染のケヴィン君。幼年期からいい奴だったが、今やそのコミュニケーションスキルを活かし、女の子にもモテモテ。さらに月光の射す海辺でシャロンともいい雰囲気に……。
 なんかこの辺り、そのコミュニケーションスキルの高さとバイセクシャルであることが都合よく同じもののように扱われている気がしないでもない。コミュ障のバイも普通にいるだろうという気がするが……?
 そしてケヴィン君、いじめっ子にも調子を合わせていたことが災いし、大勢の目の前でシャロンを殴らされることに。幼馴染を取るか、空気を読み続けるのか問われる展開だが、苦渋の表情でシャロンを殴り飛ばすケヴィン! ひどい!
 学校でカウンセリングを受けるシャロンだが、カウンセラーは「大の男が殴られて……」みたいなことを言って、まったくわかってない感が半端ない。こんな奴は信用できない、ということで、独力で復讐に手を染めるシャロンであった……。

 青年期では「えっ!?」となるぐらいにガチムチのマッチョになっているシャロン。かつての面影はないが、演技と演出で寄せてるのがさすがだな……。その後、少年院に行ってヤクの売人になってのしあがった、というフアンと同じコースをたどっている。マッチョだし、これはさぞモテるようになっているだろう、それはそれで良かったな……と思ってたら、どうも裏社会で強く見せるにはゲイはご法度なのか、相変わらず周囲には秘密だったよう。ムキムキで歯も金ピカで、もはや見た目だけでいじめられるようなことはなくなっているとはいえ、悲しみが止まらないな……。

 そんな折、あのケヴィン君から電話。あの時はすまなかった……また会いたいと語る彼。許せない、忘れたいと思っていたけど、正直言うと、再びコンタクトを取ってしまえばきっと許してしまうと気づいていた……。
 彼の働くダイナーにそっと行ってみることにしたシャロン、店の近くに車を止めて、いそいそと髪と服装を直す。完全に初恋の人に会いに行くモード。
 久々にあったケヴィン君の、白シャツが似合う地に足のついたカタギっぷりがカッコよく、また料理をするところも知的だ……。その彼の前で上からハメてるだけの金歯を外して、ちょっと恥ずかしそうなシャロン……トキメキすぎだろ!

 人種、貧困、性差の問題などきっちり練り込みながら、普遍的なラブストーリーの色合いを美しい映像で仕上げた秀作で、びっくりするようなインパクトはないが観やすいし完成度も高い。これはこれでアカデミー賞に相応しい映画だし、同じ恋愛ネタとして『ラ・ラ・ランド』と賞を争ったということで比べて観ても面白いですね。
 個人的には、ダイナーのシーンで、テーブルに落としてしまった豆を拾って食べたところに、一番共感しました。